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世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


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第二十五話 零号

第二十五話 零号


「あなた、まだ人間なの?」


灰色の髪の女――零号。


その言葉を聞いた瞬間。


レインは動けなかった。


意味が分からない。


いや。


理解してはいけない言葉のような気がした。


「レイン!」


ノアの声で我に返る。


「撤退する!」


「まだ何も――」


ガルドが言いかける。


「だからだ!」


ノアが叫んだ。


その目には、先ほど覚醒した能力。


《生還経路》。


「こいつと戦う道がない」


「何?」


「勝てないって意味じゃない」


ノアの顔から血の気が引いていた。


「戦闘を選んだ瞬間、生還経路そのものが消える」


ガルドが大盾を握る。


「俺が受けても?」


「消える」


「リリアが最大魔法を撃っても?」


「消える」


「逃げるなら?」


ノアが西の山を見る。


「一本だけある」


レインは即断した。


「撤退!」


リリアもセラも反論しない。


ミアがガルドの袖を引く。


「行きましょう!」


「分かった!」


六人が一斉に走り出した。


その瞬間。


レインの視界に表示が現れる。


【特殊連携条件達成】


レイン × ノア


《完全戦場解析》


――解放。


「……!」


視界が変わった。


地形。


高低差。


障害物。


仲間の位置。


敵の位置。


それだけではない。


ノアが見ている《生還経路》まで。


レインの視界に重なる。


【生還経路】


西方山岳ルート


【予測生還率】


84%


「八十四……」


「何だ?」


ノアが走りながら聞く。


「生還率」


「数字が見えるのか?」


「ああ」


ノアが一瞬だけ驚く。


「俺には道しか見えない」


「なら俺が数字を見る」


レインは仲間を確認した。


ガルド。


疲労軽度。


ミア。


魔力消費中。


リリア。


魔力残量六十八%。


セラ。


《未来視》による精神負荷。


ノア。


覚醒直後。


能力への習熟不足。


「支援する!」


レインが両手を広げる。


《身体強化》。


全員。


《疲労軽減》。


全員。


《魔力効率上昇》。


リリア。


《集中補助》。


セラ。


《感覚強化》。


ノア。


表示が変わる。


【予測生還率】


84%



89%


「上がった!」


「何が?」


ミアが聞く。


「生還率!」


「九割近いってことですか!?」


「まだ一割死ぬ!」


「全然安心できません!」


「だから走れ!」


◇◇◇


西方山岳ルート。


道と呼べるものではなかった。


鉱夫たちが昔使っていた細い作業道。


右は岩壁。


左は崖。


六人が一列になって走る。


先頭。


ノア。


続いてセラ。


リリア。


レイン。


ミア。


最後尾にガルド。


「セラ!」


「はい!」


「未来を見すぎるな!」


レインが叫ぶ。


「二秒先だけでいい!」


「分かりました!」


セラが目を閉じる。


《未来視》。


「十五歩先!」


「右から落石!」


ノアが即座に左へ寄る。


全員が続く。


直後。


ドォン!


巨大な岩が道へ落ちた。


「次!」


「三十メートル先!」


「道が崩れます!」


ノアが地形を見る。


「右!」


「右は壁だぞ!」


ガルドが叫ぶ。


「今から道にする!」


ノアが腰から金属筒を取り出した。


岩壁の亀裂へ差し込む。


「ミア!」


「はい!」


「着火!」


「それなら得意です!」


「何で嬉しそうなんだ!」


火薬瓶。


投擲。


ドォン!


岩壁の一部が崩れた。


その奥。


古い坑道。


「入れ!」


六人が飛び込む。


直後。


背後の山道が崩落した。


ガラガラガラ――!


「塞がった!」


リリアが振り返る。


ガルドが息を吐いた。


「これなら追って来られないだろ」


ノアは答えない。


レインも。


同じだった。


【予測生還率】


89%


変化なし。


「……駄目だ」


レインが呟く。


「何が?」


「生還率が上がってない」


「つまり?」


ガルドが聞く。


ノアが暗い坑道の奥を見る。


「追跡を止められてない」


その時。


セラが振り返った。


「来ます」


「どこから?」


「分かりません」


「未来では?」


「後ろから来る未来がありません」


ガルドが眉をひそめる。


「じゃあ来ないんじゃ――」


「違います」


セラの顔色が変わった。


「次に見える時には」


一拍。


「もう、私たちの中にいます」


全員が止まった。


「中?」


ミアが青ざめる。


その瞬間。


レインの視界。


【警告】


【空間異常】


「走れ!」


レインが叫んだ。


次の瞬間。


六人の中央。


空間が。


歪んだ。


そこから。


白い手。


「うわっ!」


ミアが転ぶ。


ガルドが即座に前へ出る。


大盾。


ドン!


何かが盾に触れた。


それだけ。


攻撃ではない。


なのに。


ガルドの巨体が吹き飛んだ。


「ガルド!」


岩壁へ激突。


「ぐっ……!」


盾が。


中央からひび割れている。


「嘘……」


ミアが呆然とする。


ガルドの盾。


これまで。


何度も仲間を守った。


《守護騎士》の大盾。


それが。


ただ触れられただけで。


壊れた。


空間の歪みから。


零号が現れる。


裸足。


灰色の髪。


黒い首輪。


表情は。


先ほどと違う。


無表情。


瞳が黒く染まっていた。


【解析】


レインが反射的に能力を使う。


【対象】


零号


【解析失敗】


もう一度。


【解析失敗】


「ノア!」


「駄目だ!」


ノアが叫ぶ。


「生還経路が消えていく!」


【予測生還率】


89%



71%



54%


「速すぎる!」


リリアが杖を構える。


「撃つな!」


レインが止める。


「でも!」


「攻撃したら生還経路が消える!」


リリアが歯を食いしばる。


零号が。


一歩。


前へ。


ノアが叫ぶ。


「後退!」


全員が下がる。


零号は追う。


一歩。


また一歩。


「……レイン」


零号が呟いた。


「俺の名前を?」


「レイン・アーク」


声に感情がない。


首輪。


黒い文字。


【強制命令】


【対象】


レイン・アーク


【命令】


生体確保


レインには。


それが読めた。


「俺を捕まえるつもりか」


零号は答えない。


一歩。


近づく。


ガルドが立ち上がる。


「なら俺を越えて――」


「駄目!」


ノアとレインが同時に叫んだ。


【予測生還率】


41%


「ガルド!」


レインが叫ぶ。


「盾を捨てろ!」


「何!?」


「もう使えない!」


一瞬。


ガルドが迷う。


だが。


すぐに大盾を捨てた。


「次!」


ノアが叫ぶ。


「奥へ!」


六人が再び走る。


零号は。


追ってこない。


ただ。


立っている。


「止まった?」


ミアが振り返る。


次の瞬間。


零号が消えた。


「消えた!」


「前!」


セラが叫ぶ。


全員が止まる。


二十メートル先。


零号。


「どうやって……」


リリアが呟く。


レインの《完全戦場解析》。


【対象移動方式】


空間短縮


「転移じゃない」


「何?」


ノア。


「空間そのものを縮めてる」


「意味が分からん!」


ガルドが叫ぶ。


「俺にも分からない!」


「最近そればっかりですね!」


ミアが言う。


「俺が一番困ってる!」


一瞬。


零号の首が。


僅かに傾いた。


その仕草だけは。


人間らしかった。


「……面白い」


小さな声。


黒かった瞳が。


一瞬だけ灰色へ戻る。


「あなたたち」


零号が言う。


「逃げるんだ」


レインが止まった。


「何?」


「早く」


首輪が光る。


バチッ!


黒い雷が零号の身体を走った。


「っ……!」


零号が膝をつく。


「何だ?」


ガルドが見る。


黒い首輪。


【命令拒否】


【制裁実行】


レインには読める。


「首輪に操られてる」


「外せないんですか?」


リリア。


零号が首輪へ手をかける。


力を込める。


バチバチバチッ!


「……っ!」


それでも。


外れない。


「嫌い」


零号が呟く。


「命令」


もう一度。


首輪を掴む。


「嫌い」


雷。


身体が震える。


それでも。


零号はレインを見る。


「逃げて」


「零号!」


レインが呼ぶ。


初めて。


女の表情が動いた。


「それが名前なのか?」


「……違う」


「じゃあ本当の名前は?」


零号が。


黙る。


長い沈黙。


「分からない」


その答えに。


レインは何も言えなかった。


「ずっと」


零号が自分の首輪に触れる。


「零号だった」


「誰にそう呼ばれてた?」


「知らない」


「第三鉱山の地下に誰がいる?」


「知らない」


「アビスを知ってるか?」


その瞬間。


零号の表情が変わった。


「……アビス」


知っている。


レインには分かった。


「知ってるんだな」


零号が頭を押さえる。


「駄目」


「何が?」


「その名前」


身体が震える。


「思い出すから」


「何を?」


「向こう側」


レインの視界。


【外部接続要求】


接続元。


――アビス。


「……!」


まただ。


YES


NO


これまで。


何度も現れた。


そのたび。


レインは拒否してきた。


NO。


【接続拒否】


表示が消える。


だが。


すぐに。


もう一度。


【緊急接続要求】


YES


NO


「しつこいな……」


その下。


新しい文字。


【警告を送信します】


レインが止まる。


【零号から離れろ】


「……何?」


【あれは危険だ】


レインは零号を見る。


膝をついたまま。


首輪と戦っている。


「それくらい見れば分かる」


アビスから。


次の文字。


【違う】


【危険なのは零号の力ではない】


【接触するな】


【接触した場合】


一瞬。


表示が乱れる。


そして。


【お前の偽装が解除される】


レインの呼吸が止まった。


「……偽装?」


この世界で。


レインのステータスは。


レベル30。


Dランク。


そう見える。


本当のレベルは。


すでに世界の上限である50を越えている。


それでも。


外からは。


30にしか見えない。


レイン自身。


なぜそうなっているのか知らなかった。


【偽装って何だ】


心の中で問いかける。


アビス。


返答。


【お前の存在を】


【この世界から隠しているものだ】


レインの背筋が冷たくなる。


【誰が隠してる】


返答。


来ない。


「レイン!」


ノアの声。


零号が。


立ち上がった。


瞳。


再び黒。


【強制命令再開】


「来る!」


ガルドが前へ出る。


「駄目だ!」


零号。


消える。


レインの視界。


【予測生還率】


31%


「右!」


ノア。


全員が右へ。


零号の手が空を切る。


【予測生還率】


24%


「左!」


セラ。


未来視。


回避。


【予測生還率】


17%


「レイン!」


リリア。


零号の手。


レインへ。


「伏せろ!」


ガルドがレインを押す。


指先。


数センチ。


【予測生還率】


9%


「ノア!」


「道がない!」


初めて。


ノアが叫んだ。


「全部消えた!」


【生還経路】


――なし。


レインの視界。


【予測生還率】


3%


零号の手が。


再び伸びる。


レインへ。


あと。


十センチ。


五。


三。


【外部接続要求】


YES


NO


アビス。


「……くそ」


二センチ。


【接触警告】


【偽装解除まで】


1。


レインは。


選んだ。


YES。


【接続承認】


【境界接続開始】


その瞬間。


世界から。


音が消えた。


零号の指先。


停止。


ガルド。


リリア。


セラ。


ミア。


ノア。


全員が。


止まって見える。


レインだけが。


動ける。


「……何だ?」


視界の奥。


暗闇。


そこに。


巨大な何かがいる。


姿は見えない。


ただ。


声。


「ようやく」


聞いたことのない。


だが。


なぜか。


懐かしい声。


「繋がったな」


レインが暗闇を見る。


「お前がアビスか?」


笑い声。


「違う」


「では誰だ」


沈黙。


そして。


答え。


「お前だ」


レインの表情が止まった。


「……何?」


暗闇の奥。


何かが。


目を開く。


二つ。


ではない。


無数。


「正確には」


声が続く。


「お前が捨てたものだ」


次の瞬間。


レインの視界に。


今まで一度も表示されたことのない。


自分自身の情報が現れた。


【個体名】


レイン・アーク


【表示レベル】


30


【世界認識上限】


50


【実レベル】


――


数字ではない。


【測定不能】


そして。


その下。


【封印領域】


解除率:0.0001%


レインは。


言葉を失った。


攻撃能力ゼロ。


防御上限D。


三度の追放。


世界で最も弱い後衛。


そう思っていた。


だが。


暗闇の声は。


静かに告げた。


「レイン・アーク」


「お前は弱いのではない」


一拍。


「この世界では」


「お前の強さを」


「表示できないだけだ」


――第二十五話 了―

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