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世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


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第二十二話 世界から外れるということ

第二十二話 世界から外れるということ


王都へは行かない。


その決断を下した翌朝。


《リベレーション》の五人は、アルトの街外れにある古い倉庫へ集まっていた。


表向きは、旅の準備。


だが実際には。


これから先、自分たちがどう動くかを決めるための作戦会議だった。


机の上には。


地図。


保存食。


武器。


薬品。


そして。


エルシオンから渡された《第四管理施設》の位置を示す金属板。


ガルドが腕を組む。


「で。」


「王都には行かない。」


「死灰大陸へは今すぐ行けない。」


「俺たちは何をする?」


レインは地図を見る。


「三つ。」


全員が静かになる。


「一つ目。」


「内部レベル50まで上げる。」


ミアが手を挙げる。


「レインさんだけですよね?」


「ああ。」


「でも。」


レインは続ける。


「俺だけ上がっても意味がない。」


「俺自身は攻撃できない。」


「防御もDランクが限界。」


「だから。」


四人を見る。


「全員を強くする。」


ガルドが笑う。


「いつも通りだな。」


「二つ目。」


レインはミアを見る。


「装備を作り直す。」


「はい!」


ミアの目が輝いた。


「ガルドの盾。」


「セラの弓。」


「リリアの杖。」


「回復薬。」


「魔力回復薬。」


「全部。」


「今の俺たち専用に作る。」


ミアは震えていた。


「全部……作っていいんですか?」


「爆発させすぎなければ。」


「頑張ります!」


「成功します、ではないんだな。」


「善処します!」


ガルドが笑う。


「不安しかないな。」


「三つ目。」


レインは地図の別の場所を指した。


アルトから南西。


山岳地帯。


小さな町。


《ラグナ》。


「ここへ行く。」


セラが尋ねる。


「何があるんです?」


「人を探す。」


リリアが笑った。


「また?」


「ああ。」


「世界から捨てられた人間。」


ガルドが腕を組んだ。


「今度は何職だ?」


「まだ分からない。」


「え?」


レインは一枚の紙を取り出す。


ギルドの古い依頼情報。


【護衛依頼】


依頼人:ラグナ鉱山組合


内容:鉱山深部調査


備考:


三名の探索者が挑戦。


全員失敗。


そのうち一名。


冒険者資格停止。


「この人。」


名前。


《ノア・グレン》。


職業。


罠師。


セラが首をかしげる。


「罠師?」


「珍しいですね。」


リリアも言う。


「冒険者としては人気がない職業です。」


その通りだった。


罠師。


戦闘能力は低い。


魔法能力も低い。


罠を設置し。


解除し。


敵の進路を制限する。


便利ではある。


だが。


即座に敵を倒せるわけではない。


そのため。


パーティー枠を一人使う価値がない。


そう判断されることが多い。


「どうしてその人を?」


ミアが尋ねる。


レインは答えた。


「三回。」


「え?」


「同じ鉱山調査に三回失敗している。」


ガルドが眉をひそめる。


「それだけなら。」


「普通に下手なんじゃないか?」


「そうかもしれない。」


レインは認める。


「でも。」


「一回目。」


「他の五人は重傷。」


「ノアだけ無傷。」


「二回目。」


「同行パーティー全滅寸前。」


「ノアだけが全員を連れて帰った。」


「三回目。」


「依頼失敗。」


「でも。」


レインが紙を指す。


「死亡者ゼロ。」


全員が黙った。


セラが気付く。


「敵を倒せないけど……。」


「死なせない?」


「たぶん。」


レインは答える。


「俺と似てる。」


攻撃できない。


目立たない。


戦果にならない。


でも。


仲間を生きて帰す。


そんな能力かもしれない。


「会ってみたい。」


リリアが言った。


レインも頷く。


「俺も。」


◇◇◇


その日の午後。


《リベレーション》はアルトを出た。


旅は目立たないように。


王国から正式な追跡命令が出たわけではない。


だが。


レインの王都移送命令に従っていない。


いつ。


追手が来てもおかしくない。


だから。


主要街道は避ける。


村。


森。


古道。


小さな宿場町。


そうしてラグナへ向かう。


旅の二日目。


夜。


森の中。


ミアが鍋を覗き込んでいる。


「レインさん。」


「何?」


「これ。」


青い液体。


微妙に。


泡立っている。


「爆発する?」


「たぶん大丈夫です。」


「たぶん?」


ガルドが大盾を構えた。


「念のため。」


「盾構えないでください!」


「信用してる。」


「絶対信用してないですよね!?」


リリアが笑う。


セラも笑う。


レインは。


その光景を見ながら。


少し不思議な気持ちになっていた。


少し前まで。


三度追放された。


一人だった。


今は。


五人。


この五人となら。


何とかなる。


そう思える。


その時だった。


「レイン。」


ガルドの声が変わった。


全員が動きを止める。


「誰かいる。」


セラも弓を取る。


「三人。」


未来視。


「いや……。」


顔をしかめる。


「五人?」


レインの視界。


【人間反応】


前方87メートル。


人数:6。


「六人。」


セラが驚く。


「六人?」


「囲もうとしてる。」


レインが立ち上がる。


「敵?」


「分からない。」


ガルドが前へ。


リリア。


セラ。


中央。


ミア。


レインの横。


いつもの陣形。


木々の奥から。


声。


「レイン・アーク。」


全員の表情が変わる。


名指し。


「姿を見せてください。」


レインが言う。


「拒否する。」


声。


若い男。


「こちらに戦闘意思はない。」


「それなら姿を見せられるでしょう。」


沈黙。


やがて。


六人が現れた。


全員。


灰色の外套。


装備は統一されていない。


剣。


槍。


杖。


弓。


見た目だけなら。


冒険者。


だが。


胸元。


銀色の紋章。


レインには見覚えがない。


「誰です?」


先頭の男が答える。


「王国の者ではない。」


「それは聞いていません。」


「名前と所属を。」


男は。


少しだけ笑った。


「慎重だな。」


「死にたくないので。」


「なるほど。」


男は外套の留め具を外した。


紋章がはっきり見える。


円。


その中に。


一本の縦線。


「《境界監視院》。」


エルシオンが持っていた金属板。


そこに刻まれていた印と。


よく似ている。


レインの表情が変わる。


「聞いたことがない。」


「当然だ。」


「我々は王国の組織ではない。」


「では?」


「国家より古い。」


周囲の空気が変わる。


男は名乗る。


「ユリウス・フェイン。」


「境界監視院、第七観測班。」


「お前たちを。」


一度。


全員を見る。


「保護しに来た。」


ガルドが低く言う。


「最近。」


「保護って言葉が信用できなくなってきたな。」


ミアも頷く。


「封印と同じ意味だったりしますし。」


「……。」


ユリウスは少し困ったように笑う。


「エルシオンから聞いたのか。」


レインが目を細める。


「知り合いですか。」


「元同僚だ。」


「元?」


「奴は監視院を捨てた。」


その言葉に。


レインは違和感を覚えた。


「なぜ?」


「それを聞く前に。」


ユリウスが続ける。


「お前は。」


「彼から何を聞いた?」


レインは答えない。


すると。


ユリウスが。


静かに言った。


「第四管理施設。」


全員の表情が変わった。


「やはり。」


ユリウスはため息をつく。


「教えたか。」


「何か問題が?」


レインが尋ねる。


「そこへ行ってはいけない。」


また。


同じ。


王都へ行くな。


今度は。


第四管理施設へ行くな。


「理由は?」


「死ぬからだ。」


「それでは理由になりません。」


「今のお前なら。」


ユリウスは真っ直ぐレインを見る。


「施設に到達した瞬間。」


「世界から消される。」


沈黙。


「消される?」


セラが呟く。


「誰に。」


ユリウスは。


少し上を見る。


空。


星。


そのさらに向こう。


「この世界そのものに。」


レインは理解できない。


「どういう意味です。」


「お前たちは。」


ユリウスが言う。


「レベルを。」


「人間が成長した結果だと思っているだろう。」


誰も答えない。


「違う。」


「レベルとは。」


「世界が。」


「その生命に許可した成長量だ。」


レインの表情が変わる。


「許可?」


「ああ。」


「F。」


「E。」


「D。」


「C。」


「B。」


「そして。」


「A。」


「レベル50。」


「そこまで。」


「世界は人間の成長を許している。」


「なぜ50なんです?」


リリアが尋ねる。


「世界を壊さないため。」


「何?」


「人間が。」


「際限なく強くなれば。」


「世界側が耐えられない。」


「だから。」


「上限が設定されている。」


レインは。


自分の内部表示を見る。


【内部レベル】


35。


【上限】


――――


「なら。」


「俺は?」


ユリウスは答える。


「異常だ。」


迷いなく。


「世界から見れば。」


「エラー。」


ガルドの目が鋭くなる。


「言い方に気をつけろ。」


「事実を言っている。」


「ガルド。」


レインが止める。


「続けて。」


ユリウスは頷く。


「通常なら。」


「上限のない成長核を持つ生命は。」


「誕生時に排除される。」


「排除?」


「死産。」


「あるいは。」


「生まれて間もなく死亡する。」


ミアの顔が青ざめる。


「じゃあ……。」


「なぜレインさんは生きてるんです?」


「それが。」


ユリウスが答える。


「我々にも分からない。」


「だが。」


「一つだけ仮説がある。」


レインを見る。


「お前のレベルが。」


「30で止まって見える理由。」


「世界を騙しているからだ。」


レインは息を止める。


「誰が?」


「お前自身。」


「そんな能力は持っていない。」


「意識的にはな。」


ユリウスは地面に線を書く。


「世界は。」


「レイン・アークを。」


「Dランク。」


「レベル30。」


「成長停止。」


そう認識している。


「だから。」


「排除処理が動かない。」


「でも内部では?」


「成長している。」


ユリウスが頷く。


「世界から隠れて。」


セラが小さく言う。


「だから表示が30のまま……。」


「そうだ。」


レインは。


自分の手を見る。


世界から。


隠れている。


「じゃあ。」


「内部レベルが50を超えたら?」


その質問に。


ユリウスは。


少し黙った。


「分からない。」


初めて。


はっきりそう答えた。


「前例がない。」


「ただし。」


「第四管理施設は。」


「世界の根幹情報へ直接接続する場所だ。」


「そこへ今のお前が入れば。」


「偽装が剥がれる可能性が高い。」


「つまり。」


リリアが言う。


「世界に。」


「レインさんが上限を持っていないことが。」


「バレる?」


「そういうことだ。」


「その場合?」


ユリウスは答える。


「世界修正。」


「存在そのものが。」


「なかったことにされる可能性がある。」


誰も。


言葉が出なかった。


◇◇◇


しばらくして。


レインが尋ねる。


「なら。」


「あなたたちはどうするつもりです?」


「保護する。」


「どこで?」


「監視院。」


「そこなら。」


「世界の観測から一部隠せる。」


「封印と何が違います?」


ユリウスは。


答えに詰まる。


ミアが小さく言った。


「やっぱり。」


ガルドも。


「信用できんな。」


「否定はしない。」


ユリウスは正直だった。


「行動制限はある。」


「外へ自由には出られない。」


「それを保護と呼ぶんですか。」


レインが尋ねる。


「我々からすれば。」


「生存させることが最優先だ。」


「俺からすれば。」


レインは答えた。


「生きてるだけじゃ足りない。」


ユリウスが見る。


「贅沢だな。」


「ああ。」


レインは少し笑った。


「三回追放されて。」


「ようやく好きな仲間と旅してるところなので。」


リリアが笑う。


ガルドも。


セラも。


ミアも。


誰一人。


離れる気はない。


ユリウスは。


しばらく五人を見ていた。


そして。


「エルシオンが。」


小さく言った。


「お前を気に入った理由が分かった。」


「気に入られてたんですか?」


「たぶんな。」


「本人からはそんな感じしませんでしたけど。」


「奴はそういう男だ。」


少しだけ空気が緩む。


だが。


次の言葉で。


再び変わった。


「ただ。」


「忠告する。」


ユリウスの表情が消える。


「内部レベル50へ。」


「急いで到達しない方がいい。」


レインが眉をひそめる。


「なぜ。」


「50は。」


「この世界にとって。」


「単なる最高レベルではない。」


「境界だ。」


「境界?」


「有限側と。」


「それ以外を分ける。」


「最後の壁。」


レインの視界。


【内部レベル】


35。


あと15。


今まで。


そこへ行くことを目標にしていた。


だが。


「50を超えた瞬間。」


ユリウスは続ける。


「お前に何が起きるか。」


「我々にも分からない。」


「ただ。」


「アビスの封印対象が。」


「なぜお前の成長を待っているのか。」


「その理由だけは。」


「想像できる。」


「何です?」


「奴も。」


「おそらく。」


一拍。


「レベル50を超えたお前にしか。」


「触れられない。」


レインの表情が変わった。


地下の存在。


――強くなれ。


――私を受け入れられるほどに。


意味が。


少しだけ繋がった。


「だから。」


ユリウスは言う。


「お前が強くなるほど。」


「世界は不安定になる。」


「同時に。」


「アビスも。」


「お前へ近付けるようになる。」


強くならなければ。


何も選べない。


強くなれば。


世界を危険にする。


矛盾。


レインは。


しばらく黙った。


そして。


「一つ。」


ユリウスに尋ねる。


「何だ。」


「俺の内部レベルを。」


「下げる方法はありますか。」


リリアたちが驚く。


ユリウスも。


少し目を見開いた。


「……なぜ聞く。」


「選択肢として。」


レインは答えた。


「もし俺が強くなることで。」


「仲間まで危険になるなら。」


「止める方法も知っておきたい。」


ガルドが。


レインの肩を強く掴んだ。


「勝手に決めるな。」


「決めてない。」


「考えるなって言ってる。」


「ガルド。」


「俺たちを守るために。」


ガルドは睨む。


「自分を捨てるつもりなら。」


「俺は認めんぞ。」


レインは。


何も言えなかった。


リリアも。


「私もです。」


セラ。


「私も。」


ミア。


「私もです。」


四人。


全員。


同じ。


ユリウスは。


その様子を見て。


小さくため息をついた。


「レベルを下げる方法は。」


「確認されていない。」


「そうですか。」


「ただし。」


「成長速度を抑える方法ならある。」


レインが見る。


「何です?」


「経験値を。」


「自分ではなく。」


「他者へ流す。」


沈黙。


「そんなことが?」


「普通はできない。」


「だが。」


ユリウスは。


レインを見る。


「お前なら。」


「できる可能性がある。」


レインの視界に。


その瞬間。


文字が浮かぶ。


【未解放支援能力を検知】


【条件一致】


《経験譲渡》


解放条件:


内部レベル40。


レインは。


その文字を見た。


初めて。


自分の無限成長を。


止めるのではなく。


仲間へ渡す方法。


それが。


存在する。


「レインさん?」


リリアが尋ねる。


レインは。


少しだけ笑った。


「また。」


「面白いものが見えた。」


「何です?」


レインは四人を見る。


「俺の経験値を。」


「お前たちに渡せるかもしれない。」


四人が固まる。


ガルドが。


最初に笑った。


「お前。」


「本当に。」


「後衛になるためだけに生まれてきたみたいだな。」


レインも。


思わず笑った。


攻撃できない。


防御も低い。


自分自身は。


どこまで行っても。


前に出られない。


なのに。


得たものは。


全部。


仲間へ渡せる。


それなら。


悪くない。


レインは。


改めて地図を見る。


ラグナ。


目的地は変わらない。


「まず。」


「内部レベル40。」


「そこまで上げる。」


ユリウスが眉をひそめる。


「話を聞いていたか?」


「聞いてました。」


「50へ急ぐなと言った。」


「だから40で止める。」


レインは笑う。


「そこで《経験譲渡》を覚える。」


「それから。」


仲間を見る。


「俺の代わりに。」


「こいつらを世界最強にする。」


一瞬。


誰も喋らない。


そして。


ミアが笑った。


「それ。」


「最初からやってることじゃないですか?」


「……確かに。」


リリアが笑う。


セラも。


ガルドも。


森の中に。


久しぶりに。


大きな笑い声が響いた。


ユリウスだけが。


少し呆れたように。


五人を見ていた。


だが。


その口元も。


ほんの少し。


笑っていた。


◇◇◇


翌朝。


《リベレーション》は。


予定通り。


ラグナへ向かった。


新たな仲間。


罠師ノア・グレン。


まだ。


誰も知らない。


彼が。


なぜ三度も。


「依頼には失敗したのに。」


「仲間だけは全員生還させた」のか。


そして。


レイン自身も知らない。


ノアの才能が。


これから向かう死灰大陸で。


《リベレーション》全員の命を救う。


最も重要な能力の一つになることを。

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