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世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


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第二十一話 こちら側の人間

第二十一話 こちら側の人間


【世界接続適性】


0.3%。


レインは、その表示をしばらく見つめていた。


意味は分からない。


ただ、数字だけが少しずつ増えている。


0.4%。


0.5%。


「……勝手に上がるなよ。」


思わず呟く。


「何がです?」


後ろからリリアの声がして、レインは表示を閉じた。


「いや。」


「何でもない。」


「またそれですか。」


「……。」


最近。


この言い訳が通用しなくなってきている。


リリアは隣へ座った。


臨時拠点の外。


夜の山。


遠くには《封印迷宮アビス》がある。


入口は見えない。


それでも。


レインには感じる。


あそこから。


何かが自分を見ている。


「怖いですか?」


リリアが尋ねた。


レインは少し考える。


「怖い。」


正直に答えた。


「意外です。」


「俺を何だと思ってる。」


「何が起きても冷静な人。」


「そんなわけない。」


レインは苦笑する。


「オーガと戦った時も怖かった。」


「迷宮に入った時も。」


「今も。」


少し間を置く。


「でも。」


「怖いから考える。」


リリアはレインを見る。


「怖くなかったら?」


「たぶん、とっくに死んでる。」


リリアが小さく笑った。


「それなら。」


「怖がりで良かったですね。」


「ああ。」


レインも少し笑った。


その時。


「レイン。」


アレスが近付いてきた。


「王都から返事が来た。」


◇◇◇


緊急会議。


王都から届いた命令書。


内容は簡潔だった。


《封印迷宮アビス》について。


第一。


周辺五十キロを立入禁止区域とする。


第二。


王国魔術院および王国騎士団本隊を派遣。


第三。


封印修復を最優先。


第四。


内部調査は一時中止。


妥当な判断だった。


少なくとも。


途中までは。


「そして。」


グレイヴが続きを読む。


表情が険しくなる。


「第五。」


全員が見る。


「レイン・アークを王都へ移送。」


部屋が静かになった。


「移送?」


ガルドの声が低くなる。


グレイヴは読み続ける。


「封印対象との関連性を確認するため。」


「王国魔術院にて詳細検査を実施。」


ミアが小さく言う。


「検査……。」


セラも不安そうにレインを見る。


リリアは即座に尋ねた。


「拒否できますか?」


「命令書だ。」


グレイヴが答える。


「つまり?」


「事実上。」


「拒否は難しい。」


ガルドが立ち上がる。


「ふざけるな。」


「ガルド。」


レインが止める。


「まだ何も決まってない。」


「決まってるじゃねえか。」


「王都へ連れていくって書いてある。」


「連行とは書いてない。」


「同じようなもんだろ。」


グレイヴは苦い顔をする。


「俺もこの命令には疑問がある。」


「だが。」


「王国側からすれば当然だ。」


アレスが言った。


「地下の存在が。」


「レインだけを名指しした。」


「しかも。」


「世界の常識から外れたレベル構造を持っている。」


「調べたくなるのは理解できる。」


「だからって。」


リリアが睨む。


「人を物みたいに。」


「リリア。」


レインが静かに止めた。


「行く。」


全員がレインを見る。


「本気か?」


ガルド。


「ああ。」


「理由は?」


「俺も知りたい。」


「自分が何なのか。」


誰も言葉を挟まない。


「迷宮の中の奴だけが答えを持ってるなら。」


「危険すぎる。」


「でも王国に資料があるなら。」


「そっちを先に調べる。」


アレスが頷く。


「合理的だ。」


「ただし。」


レインはグレイヴを見る。


「条件があります。」


「何だ。」


「《リベレーション》全員同行。」


即答だった。


ミアが驚く。


「私たちも?」


「ああ。」


「当然だろ。」


ガルドが笑う。


「今度は俺たちを置いていこうとしても無駄だからな。」


セラも頷く。


リリアは。


少しだけ嬉しそうに笑った。


グレイヴは考える。


「王都へ確認する。」


「それと。」


レインが続ける。


「俺を拘束するような検査は拒否します。」


「具体的には?」


「精神干渉。」


「記憶操作。」


「強制的な魔力抽出。」


「実験対象としての扱い。」


研究官二人が気まずそうに視線を逸らした。


レインはそれを見逃さなかった。


「……やっぱりあるんですね。」


「いや。」


研究官が慌てる。


「一般論だ。」


「一般論で結構です。」


レインは淡々と答える。


「俺は協力します。」


「でも。」


「所有物になるつもりはありません。」


グレイヴは。


しばらくレインを見た。


そして頷いた。


「その条件も伝える。」


◇◇◇


翌朝。


王都へ向かう準備が始まった。


《リベレーション》は一度アルトへ戻ることになった。


装備。


薬品。


旅支度。


そして。


ミアの工房。


「工房って言っても。」


ミアが困った顔をする。


「追い出されたので何もないですけど。」


「なら作ればいい。」


レインが言う。


「王都に?」


「ああ。」


ミアの顔が明るくなる。


「本当に?」


「必要だからな。」


「必要……。」


ミアは嬉しそうにその言葉を繰り返した。


ガルドがレインを見る。


「王都へ行ったら、装備も変えたい。」


「盾?」


「ああ。」


「オーガ戦でかなり傷んだ。」


「ミア。」


「はい。」


「自己修復盾。」


ミアの目が輝く。


「作っていいんですか!?」


「作れる?」


「失敗していいなら!」


「爆発は少なめに頼む。」


「努力します!」


「そこは成功しますと言ってくれ。」


全員が笑う。


ほんの少し。


普段の《リベレーション》に戻った。


その時。


ギルドの扉が開いた。


見知らぬ男が入ってくる。


黒い外套。


銀色の髪。


年齢は三十代後半ほど。


冒険者には見えない。


腰に武器もない。


男は受付を通さず。


真っ直ぐレインのところへ来た。


「レイン・アーク。」


ガルドが一歩前へ出る。


「誰だ。」


男は気にしない。


「王都へ行くそうだな。」


「あなたは?」


レインが尋ねる。


男は懐から紋章を出した。


王国魔術院。


それも。


通常の研究官とは違う。


金色の紋章。


「王国魔術院第一研究室。」


「主任研究官。」


「エルシオン・ヴァルナ。」


リリアが小さく息を呑む。


「知ってる?」


レインが尋ねる。


「名前だけ。」


「王国最高の魔術研究者です。」


エルシオンはレインを見る。


そして。


唐突に言った。


「王都へ行くな。」


全員の表情が変わる。


「どういう意味です?」


「そのままの意味だ。」


「王国魔術院から移送命令が出ているはずだ。」


「はい。」


「行けば。」


エルシオンは淡々と続ける。


「お前は帰れない。」


ガルドの手が盾へ伸びる。


「脅してるのか?」


「逆だ。」


「警告している。」


レインは男を見る。


嘘を言っているようには見えない。


だが。


《潜在才能鑑定》。


反応しない。


【解析不能】


レインの表情が変わる。


まただ。


封印迷宮と同じ。


エルシオンが。


わずかに笑った。


「見えないだろう。」


「……。」


「何の話です?」


「誤魔化さなくていい。」


エルシオンは続ける。


「潜在能力。」


「適職。」


「未来の成長。」


「お前は人間を見ると。」


「それらが見える。」


空気が凍る。


リリア。


ガルド。


セラ。


ミア。


全員が構える。


レインだけは動かなかった。


「なぜ知っている。」


初めて。


低い声。


エルシオンは答える。


「私も。」


右手を上げる。


その瞬間。


空中に文字が浮かんだ。


レインだけではない。


全員に見える。


【対象】


レイン・アーク


【表示レベル】


30


【内部レベル】


35


レインの目が見開かれる。


「……。」


初めて。


他人が。


内部レベルを見た。


エルシオンは静かに言う。


「見える側の人間だからだ。」


レインの呼吸が止まる。


「あなたも……上限が?」


「違う。」


エルシオンは首を横に振る。


【レベル】


50


【上限】


50


普通。


Aランク。


世界最高。


だが。


次の項目。


【固有能力】


《世界記述》


レインには読めない文字が続く。


【一部権限】


――管理者。


レインは意味を理解できなかった。


「管理者……?」


エルシオンの表情から笑みが消える。


「時間がない。」


「封印対象が三%まで覚醒した。」


「お前が近付いたことで。」


「三百年間動かなかったものが。」


「再び動き始めた。」


「俺のせいだと言いたいんですか。」


「違う。」


エルシオンは即答する。


「お前が悪いんじゃない。」


「お前が存在しているから。」


「向こうが動く。」


「同じことでは?」


「全く違う。」


男は少し間を置く。


そして。


レインにとって。


最も理解しがたい言葉を口にした。


「レイン・アーク。」


「お前は。」


「この世界で生まれた人間ではない。」


誰も動けない。


レイン自身も。


「……何を。」


「正確には。」


エルシオンが続ける。


「肉体はこの世界のものだ。」


「だが。」


「お前の『成長核』は違う。」


「成長核?」


「レベルを決める根幹。」


「全ての生命には。」


「成長限界が書き込まれている。」


「人間は50。」


「一部の魔族も50。」


「高位魔物には別の上限。」


「だが。」


エルシオンはレインを見る。


「お前には。」


「上限という記述自体がない。」


レインは黙る。


それは。


自分が見てきた表示と一致する。


「なぜ。」


「分からない。」


エルシオンは正直に答えた。


「少なくとも。」


「今の私には。」


「ただ。」


「三百年前。」


「封印された存在も。」


「同じ特徴を持っていた。」


ガルドが低く言う。


「なら。」


「レインとあれは同じものだって言うのか。」


「それも違う。」


「何が違う。」


「向こうは。」


エルシオンの声が少しだけ硬くなる。


「成長限界がないのではない。」


「限界という概念を。」


「食べる。」


誰も理解できない。


「……食べる?」


ミアが呟く。


「ああ。」


「接触した世界の規則を取り込み。」


「自分に適用する。」


「レベル。」


「魔法。」


「才能。」


「記憶。」


「生命。」


「全て。」


セラの顔が青ざめる。


「それが外に出たら……。」


「この世界は終わる。」


エルシオンは淡々と答えた。


誰も否定できない。


「そして。」


男はレインを見る。


「向こうにとって。」


「上限を持たないお前は。」


「最高の器になる。」


昨日の古文書。


――器を求める。


――成長限界を持たぬ者。


繋がった。


レインは。


静かに尋ねた。


「王国魔術院は。」


「どこまで知っている。」


エルシオンは答えない。


その沈黙で。


十分だった。


「だから王都へ来いと。」


「ああ。」


「検査ではない。」


「では?」


「保護。」


一拍。


「あるいは。」


「封印。」


ガルドが盾を抜いた。


「ふざけるな!」


「ガルド!」


レインが止める。


エルシオンは微動だにしない。


「私が王都へ行くなと言った理由が分かったか。」


レインは。


ゆっくり頷いた。


「王都に行けば。」


「俺自身が封印対象になる可能性がある。」


「高い。」


リリアが怒りを隠さず言う。


「そんなの。」


「レインさんは何もしてないのに。」


エルシオンはリリアを見る。


「国家は。」


「個人が無罪かどうかで判断しない。」


「国が滅ぶ可能性があるかどうかで判断する。」


冷たい。


だが。


間違ってはいない。


レインは分かってしまう。


自分が王国側なら。


同じ判断を検討するかもしれない。


それが。


余計に苦しかった。


「じゃあ。」


セラが尋ねる。


「どうすればいいんですか。」


エルシオンは。


一枚の古い金属板を取り出した。


机に置く。


そこには。


レインが迷宮内部で見たものと同じ文字。


【境界】


【こちら】


【あちら】


そして中央。


【第四管理施設】


レインが見る。


「これは?」


「三百年前に作られた。」


「アビスとは別の施設。」


「場所は?」


「王国領外。」


「どこです?」


エルシオンは地図を広げる。


遥か西。


王国。


帝国。


さらにその先。


人間がほとんど立ち入らない地域。


《死灰大陸》。


その中央。


赤い印。


「ここに。」


エルシオンは言った。


「お前が何者なのか。」


「答えが残されている可能性がある。」


レインは地図を見る。


遠い。


危険。


そして。


今の自分たちでは。


到底到達できない場所。


だが。


その瞬間。


レインの視界に。


新しい表示が現れた。


【長期目標を確認】


第四管理施設へ到達せよ。


【推奨内部レベル】


50以上。


レインは目を細める。


内部レベル。


35。


あと15。


そして。


50から。


必要経験値は5倍。


今まで。


どこか遠い話だと思っていた。


世界の上限を超えること。


それが。


初めて。


具体的な目的になった。


レインは。


仲間を見る。


リリア。


ガルド。


セラ。


ミア。


全員。


黙って。


レインを見ていた。


逃げろとも。


行けとも言わない。


決めるのを。


待っている。


だから。


レインは。


自分で決めた。


「まず。」


地図を畳む。


「強くなる。」


ガルドが笑った。


「単純だな。」


「ああ。」


「今の俺たちじゃ。」


「何も選べない。」


王国に従うか。


逃げるか。


封印されるか。


地下へ行くか。


どれも。


他人に決められる。


「だから。」


レインは続けた。


「自分たちで選べるだけの力を持つ。」


「それから。」


第四管理施設。


そこを指す。


「答えを探しに行く。」


リリアが頷く。


「はい。」


ガルド。


「おう。」


セラ。


「行きます。」


ミア。


「私も。」


エルシオンは。


五人を見た。


「世界を敵に回す可能性があるぞ。」


レインは答える。


「世界と戦いたいわけじゃない。」


「でも。」


少しだけ笑う。


「三回も追放されたんです。」


「今さら。」


「居場所を自分で作ることには慣れてます。」


一瞬。


エルシオンが。


初めて。


本当に笑った。


「なるほど。」


そして。


その日の夜。


王都へ向かうはずだった《リベレーション》は。


一つの決断をした。


王都へは。


行かない。


代わりに。


世界の果てにある。


誰も知らない施設を目指す。


だが。


そこへ行くには。


まだ弱すぎる。


だから。


まず。


レベルを上げる。


仲間を増やす。


装備を整える。


世界から捨てられた才能を。


もっと見つける。


《リベレーション》の第二の旅が。


ここから始まる。


そして。


封印迷宮アビス最深部。


覚醒率。


3%。


暗闇の中。


何かが。


静かに笑った。


「そうだ。」


「強くなれ。」


「レイン。」


「お前が。」


「私を受け入れられるほどに。」


【封印対象覚醒率】


3%


変化なし。


だが。


別の項目が。


初めて表示された。


【対象:レイン・アーク】


成長観測。


開始。


【内部レベル】


35。


その存在は。


レインの成長を。


待つことにした。

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