↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/59

第十九話 回収対象

第十九話 回収対象


山を下り始めてから、誰もほとんど口を開かなかった。


先頭を進むのはアレス。


中央には王国騎士団。


ガルドは意識を失ったミアを抱えている。


リリアとセラがその左右を固める。


そして最後尾。


いつもの場所に、レインがいた。


だが。


いつもとは違う。


背中に視線を感じる。


誰かに見られている。


そんな曖昧な感覚ではない。


もっと直接的なもの。


自分という存在そのものを、何かに掴まれている。


レインの視界には、先ほどから同じ表示が消えずに残っていた。


【外部アクセス継続中】


【表示偽装防御】


正常


【突破率】


3.1%


3.2%


3.3%


少しずつ。


上がっている。


「……まずいな。」


小さく呟く。


前を歩いていたセラが振り返った。


「レインさん?」


「何でもない。」


「嘘です。」


即答だった。


レインが少し驚く。


「顔色、悪いですよ。」


セラは歩調を落とし、レインの隣へ並んだ。


「さっきの……。」


言葉を選ぶ。


「ミアの口から出た言葉。」


――上限のない者。


セラはそれを聞いていた。


当然だ。


あの場にいた全員が聞いている。


「どういう意味なんですか?」


レインはしばらく黙った。


これまで。


自分の内部レベルについては誰にも話していない。


理由は単純。


自分にも分からないからだ。


「俺にも分からない。」


半分は本当だった。


「ただ。」


レインは続ける。


「俺のステータスには、普通の人にはない表示がある。」


セラの表情が変わる。


「表示?」


「今はそれだけにしてくれ。」


セラは少し迷い。


頷いた。


「分かりました。」


追及しない。


それが。


レインにはありがたかった。


◇◇◇


二時間後。


一行は山岳地帯の外縁まで到達した。


そこには王国騎士団が設置した臨時拠点がある。


「医療班!」


グレイヴが叫ぶ。


「負傷者一名!」


ミアがすぐに治療用天幕へ運ばれる。


レインたちも、その前で待った。


十分。


二十分。


三十分。


やがて。


治癒師が出てくる。


「身体的な異常はありません。」


リリアが安堵する。


「良かった……。」


「ただし。」


治癒師の表情は険しい。


「魔力が極端に乱れています。」


「原因は?」


「分かりません。」


レインが尋ねる。


「精神干渉の痕跡は?」


治癒師が驚く。


「あります。」


「かなり強いものです。」


やはり。


レインは考える。


あれは憑依に近い。


だが。


完全に身体を乗っ取ったわけではない。


そして。


なぜミアだったのか。


リリアではない。


セラではない。


ガルドでもない。


ミア。


加入したばかり。


その違いは――。


「レイン。」


ガルドが横に立つ。


「自分を責めるなよ。」


「……何?」


「顔に出てる。」


レインは苦笑する。


「そんなに?」


「ああ。」


ガルドは腕を組む。


「ミアを連れて行ったのはお前だ。」


「だから自分の責任だと思ってる。」


図星だった。


「でも。」


ガルドは続ける。


「俺たちも自分で行くと決めた。」


「ミアも同じだ。」


レインは答えない。


「リーダーってのは。」


ガルドは少し考える。


「全部背負う奴じゃないだろ。」


「……。」


「みんなで背負うから、パーティーなんじゃないのか?」


レインはガルドを見る。


五回追放された男。


攻撃力がないというだけで。


無能と呼ばれ続けた男。


その彼が。


今。


レインへこんな言葉を掛けている。


「そうだな。」


レインは小さく笑った。


「ありがとう。」


◇◇◇


その日の夕方。


緊急会議が開かれた。


参加者。


グレイヴ。


アレス。


レイン。


王国から派遣された魔術研究官二名。


そして。


アルト支部ギルドマスター、バルガス。


彼は転移魔法で急遽呼ばれていた。


机の上には。


封印迷宮に関する古文書。


周辺地図。


過去の記録。


そして。


レインが書いた報告書。


バルガスが口を開く。


「確認する。」


「封印内部には、人間の声を模倣する存在がいる。」


「はい。」


「外へ出ることはできない。」


「現時点では。」


「人間へ精神干渉する。」


「確認しました。」


「そして。」


バルガスの視線がレインへ向く。


「お前を『上限のない者』と呼んだ。」


部屋が静かになる。


「そうです。」


「心当たりは?」


レインは少し迷った。


そして。


決めた。


「あります。」


全員の表情が変わる。


「話せ。」


「ただし。」


レインは先に言った。


「俺自身にも仕組みは分かっていません。」


「分かっている事実だけ話します。」


バルガスが頷く。


「それでいい。」


レインは自分の冒険者証を机へ置いた。


【レベル30】


「俺の表示レベルは、八年前から30です。」


アレスが黙っている。


それは彼も知っている。


「でも。」


レインは続ける。


「実際には違う。」


沈黙。


「どういうことだ。」


グレイヴが尋ねる。


「俺だけに見える別の数値があります。」


「現在。」


レインは一瞬確認する。


【内部レベル】


35


「35です。」


アレスが目を見開く。


「レベル35?」


「でも。」


「鑑定では30だ。」


「そうです。」


研究官の一人が身を乗り出した。


「偽装技能か?」


「違います。」


「少なくとも、自分で使っている技能ではありません。」


「それだけではありません。」


レインは続ける。


「内部レベルには。」


少し間を置く。


「上限が表示されていません。」


誰も喋らない。


やがて。


グレイヴが言った。


「待て。」


「レベルの最高は50だ。」


「そう教えられています。」


「教えられているんじゃない。」


研究官が反論する。


「確認されている。」


「過去の英雄も。」


「王族も。」


「勇者も。」


「全員50で止まる。」


「それ以上は存在しない。」


レインは頷いた。


「だから、俺にも分かりません。」


バルガスが腕を組む。


「内部レベル50以降について何か表示は?」


「あります。」


「何だ。」


「必要経験値が。」


レインは答える。


「それまでの五倍になります。」


研究官の手から羽ペンが落ちた。


「……五倍?」


「はい。」


「つまり。」


研究官は震える声で言う。


「システム上。」


「レベル50より先が。」


「用意されている……?」


「少なくとも、俺の表示上は。」


バルガスが黙り込む。


そして。


レインを見る。


「それを。」


「地下の存在が知っていた。」


「はい。」


これが最大の問題だった。


レイン自身しか知らない。


誰にも話していない。


なのに。


あれは知っていた。


◇◇◇


研究官たちが古文書を調べ始める。


一時間ほど経った頃。


一人が声を上げた。


「ありました。」


全員が集まる。


三百二十六年前。


封印作戦直前に書かれた記録。


文字の一部が消えている。


だが。


まだ読める。


研究官が読み上げる。


「――地底より発見された存在は、既知の魔物に分類できず。」


「――魔力による生命反応を確認できない。」


「――しかし意思疎通を試み。」


次の行。


研究官の声が止まった。


「どうした。」


バルガスが尋ねる。


「ここ……。」


指差す。


古い文字。


「――我らを。」


研究官が読む。


「『有限種』と呼称した。」


レインの表情が変わる。


有限。


その反対は。


無限。


さらに続く。


「――対象は、我らの世界には存在しない生命分類を主張。」


「――その目的について。」


一部が欠落。


次に読める文章。


「――器を求める。」


全員が黙る。


「器……。」


アレスが呟く。


レインの背筋に冷たいものが走った。


研究官は次を読む。


「――適合条件。」


紙が破れている。


ほとんど読めない。


だが。


最後の一行だけ残っていた。


「――成長限界を持たぬ者。」


誰も。


動かなかった。


グレイヴがゆっくりレインを見る。


「……お前じゃないか。」


レインは答えない。


否定できない。


バルガスが古文書を奪うように確認する。


「三百年前だぞ。」


「レインが生まれる遥か前だ。」


「なら。」


リリアの声。


いつの間にか。


会議室の入口に立っていた。


「レインさんが偶然条件に合ったんじゃなくて。」


全員が彼女を見る。


リリアの顔は青い。


「最初から。」


「いつかレインさんみたいな人が現れることを。」


「待っていたんじゃないですか?」


部屋が静まり返る。


その可能性を。


誰も否定できなかった。


◇◇◇


夜。


ミアの意識が戻った。


「……ここ。」


「臨時拠点だ。」


レインが答える。


ミアはゆっくり身体を起こす。


「ごめんなさい。」


最初の言葉だった。


「何が?」


「私。」


「みんなを危険に……。」


「ミア。」


レインが遮る。


「謝らなくていい。」


「でも。」


「精神干渉を受けた。」


「君の意思じゃない。」


ミアは俯く。


しばらくして。


小さく言った。


「覚えてます。」


レインの表情が変わる。


「何を?」


「全部じゃないです。」


「でも。」


ミアは胸に手を当てる。


「中に。」


「誰かいました。」


「どんな?」


「分かりません。」


「姿は見えませんでした。」


「声も。」


「でも。」


ミアは震える。


「すごく寂しかった。」


「寂しい?」


「はい。」


「ずっと。」


「ずっと一人で。」


「誰かを待ってる。」


レインは黙って聞く。


「そして。」


ミアがレインを見る。


「レインさんを見た時。」


「喜んでました。」


「……。」


「やっと来たって。」


その瞬間。


レインの視界に警告が現れる。


【外部アクセス率】


5%


急激に上昇。


「……!」


【新規メッセージ受信】


レインは固まった。


今まで。


ステータス画面から。


誰かに話しかけられたことなどない。


文字が一つずつ現れる。


【聞こえるか】


レインの呼吸が止まる。


【こちらは】


少し間。


【お前を知っている】


レインは立ち上がる。


「レインさん?」


ミアが驚く。


次の文字。


【お前が】


【何者なのかも】


そして。


最後。


【知りたければ】


【戻って来い】


表示が消えた。


レインは。


しばらく動けなかった。


攻撃能力なし。


防御D。


表示レベル30。


三度追放された無能な後衛。


それが。


自分だと思っていた。


だが。


もしかすると。


もっと根本から。


違っていたのかもしれない。


そしてその頃。


《封印迷宮アビス》最深部。


人間が一度も到達したことのない場所。


巨大な黒い空間の中央。


鎖に繋がれた何かの前で。


一本の鎖が。


音を立てて。


砕けた。


【第二封印】


正常



損傷開始


【封印対象覚醒率】


2%



3%


暗闇の中。


二つの光が。


ゆっくりと開いた。


「――レイン。」


それは。


初めて。


誰かの声を真似たものではない。


その存在自身の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。