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世界最低の後衛は最高の後衛だった ~三度追放された荷物持ちは、捨てられた才能だけを集めて魔王を討つ~  作者: あめのひくもり


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第十六話 失敗してもいい場所

《リベレーション》にミアが加わった翌朝。


ドォォォン――!


アルトの街に爆発音が響いた。


「……。」


冒険者ギルドの酒場にいた全員が、音のした方向を見る。


数秒後。


もう一度。


ドォン!


「またか。」


誰かが呟いた。


「爆発錬金術師だ。」


「昨日加入したばかりだろ?」


「もう追い出されるんじゃないか?」


笑い声が起きる。


その頃。


ギルド裏の空き地では。


「す、すみませぇん!」


真っ黒になったミアが頭を下げていた。


目の前には、粉々になった鍋。


焦げた薬草。


そして。


煤だらけのレイン。


「……。」


リリアも黒い。


セラも黒い。


ガルドだけは大盾を構えていたため、比較的無事だった。


「だから言っただろ。」


ガルドが笑う。


「爆発したら俺が盾になるって。」


「本当に盾になるとは思いませんでした!」


ミアが泣きそうな顔で叫ぶ。


レインは顔についた煤を拭った。


「怪我人は?」


「ありません。」


リリア。


「私も。」


セラ。


「問題ない。」


ガルド。


「なら続けよう。」


「えっ?」


ミアが固まった。


「……続けるんですか?」


「ああ。」


「でも、二回も爆発しました。」


「知ってる。」


「材料も無駄にしました。」


「それも知ってる。」


「怒らないんですか?」


レインは首をかしげた。


「なぜ?」


ミアは言葉に詰まる。


「だって……。」


今までなら。


一度失敗すれば怒鳴られた。


二度失敗すれば殴られることさえあった。


材料を無駄にするな。


レシピ通りに作れ。


余計なことをするな。


何度言われただろう。


そして最後には。


――才能がない。


そう言われた。


「ミア。」


レインは壊れた鍋を拾う。


「昨日の薬は成功した。」


「はい。」


「今日は失敗した。」


「……はい。」


「なら、違いを探せばいい。」


ミアが顔を上げる。


「違い……?」


「昨日と今日。」


「何が違った?」


ミアは考える。


「材料は同じです。」


「量も?」


「同じ……。」


そこで止まった。


「いえ。」


ミアが壊れた鍋を見る。


「昨日は小さい鍋でした。」


「今日は一度にたくさん作ろうと思って、大きな鍋にしました。」


レインは頷く。


「他には?」


「火力……。」


ミアの目が変わる。


「大きな鍋だったから、火を強くしました。」


「それだ。」


レインの視界にも表示が出ていた。


【失敗原因分析】


第一要因:


急激な温度上昇による魔力反応暴走


第二要因:


攪拌速度不足


第三要因:


触媒投入時期の誤差


だが。


レインは答えを全部教えなかった。


「もう一度やってみよう。」


「今度は小さい鍋で。」


ミアが驚く。


「材料をまた使っていいんですか?」


「そのために買った。」


「でも……。」


レインは少し考える。


「ただし、一つ条件。」


ミアの表情が引き締まる。


「はい。」


「同じ失敗はするな。」


「……。」


「新しい失敗なら何回してもいい。」


ミアの目が大きくなる。


リリアが笑った。


「レインさんらしい。」


セラも頷く。


「私も矢を何本外したか分かりません。」


ガルドが豪快に笑う。


「俺なんて五つのパーティーで失敗してるぞ。」


「それは違うと思います。」


三人から同時に突っ込まれた。


◇◇◇


三回目。


小さい鍋。


弱火。


ゆっくり混ぜる。


月光草。


魔力草。


銀露。


液体が青くなる。


紫。


そして銀色。


「ここからです。」


ミアが緊張する。


昨日はここで成功した。


しかし。


今日は別の材料を用意している。


小さな青い結晶。


「それは?」


リリアが尋ねる。


「魔晶石の粉です。」


ミアが答える。


「昨日の薬は体力と魔力を回復できました。」


「でも、魔力回復量は少なかったんです。」


「だから魔晶石を少し入れれば――」


「爆発する可能性は?」


セラが聞く。


ミアは真顔で答えた。


「あります。」


三人が一歩下がる。


ガルドだけが前へ出た。


「俺の後ろへ。」


「頼もしいですね……。」


レインは苦笑した。


だが。


視界には表示が出ている。


【新規調合予測】


成功率:47%


失敗時:


小規模爆発


危険度:低


(五割以下か。)


昨日までのレインなら止めたかもしれない。


勝てる戦いしかしない。


それが基本方針だった。


だが。


研究は違う。


失敗しなければ。


新しいものは作れない。


「やろう。」


レインが言った。


ミアが頷く。


「はい。」


魔晶石の粉を。


一つまみ。


投入。


シュウウウウ――。


液体が泡立つ。


「まずい!」


ガルドが盾を構える。


しかし。


爆発しない。


液体の色が。


銀色から。


青銀色へ変わった。


ミアが目を見開く。


「……成功?」


レインの視界に文字が浮かぶ。


【新規アイテム生成】


名称:未登録


品質:★★★★★


効果:


体力回復 中


魔力回復 中


魔力自然回復速度上昇 小


持続時間:10分


副作用:軽度疲労


【新規レシピ認定可能】


「成功だ。」


レインが言う。


「本当に?」


「ああ。」


ミアは震える手で瓶を持ち上げた。


昨日より。


美しい。


青銀色の液体。


リリアが覗き込む。


「これ……すごいんじゃないですか?」


「鑑定してもらおう。」


◇◇◇


ギルド鑑定室。


老鑑定士は。


三度鑑定した。


「……。」


そして四度目。


「先生?」


ミアが不安そうに尋ねる。


老鑑定士は眼鏡を外した。


「お嬢さん。」


「はい。」


「これは、どこで手に入れた?」


「作りました。」


「誰が?」


「私です。」


「……。」


老鑑定士はもう一度瓶を見る。


「あり得ん。」


「え?」


「体力回復薬と魔力回復薬は、原理が異なる。」


「通常は同時に調合できない。」


「無理に混ぜれば魔力反応を起こして爆発する。」


ミアが小さくなる。


「よく爆発します……。」


「だろうな。」


老鑑定士は頷く。


「だが。」


瓶を光へ透かす。


「これは完全に安定している。」


「しかも、魔力回復促進まで付いている。」


「こんな薬は見たことがない。」


周囲がざわついた。


「新薬?」


「また?」


「昨日のは偶然じゃなかったのか?」


ミアはレインを見る。


レインは何も言わず頷いた。


「名前を付ける必要がある。」


老鑑定士が言う。


「製作者には新薬の命名権がある。」


「名前……。」


ミアは考える。


長い時間。


そして。


レインたちを見る。


「《リベラ・ポーション》。」


「リベラ?」


「はい。」


ミアは少し恥ずかしそうに笑う。


「《リベレーション》で初めて作れたから。」


「私が……自由に作っていいって言ってもらえた場所だから。」


レインは何も言わなかった。


ただ。


少しだけ笑った。


◇◇◇


その日の午後。


ギルドマスターから呼び出しがかかった。


執務室。


レインたち五人が並んでいる。


向かいには。


アルト支部ギルドマスター。


バルガス・ローデン。


五十代の大男だった。


「単刀直入に聞く。」


机の上には二つ。


オーガ変異種の討伐記録。


そして。


《リベラ・ポーション》。


「お前たちは何者だ?」


レインは答える。


「Dランクパーティーです。」


「そういう意味じゃない。」


バルガスが眉間を押さえる。


「守護騎士へ突然転職した男。」


「星属性を発現した魔法使い。」


「未来を読むような射撃をする弓使い。」


「存在しない薬を作る錬金術師。」


「そして。」


ギルドマスターはレインを見る。


「そいつらを全部拾ってきた、攻撃能力ゼロの後衛。」


レインは黙る。


「偶然か?」


「……。」


「それとも。」


バルガスの目が鋭くなる。


「お前には、人の才能が見えているのか?」


空気が変わった。


リリア。


ガルド。


セラ。


ミア。


四人がレインを見る。


初めてだった。


誰かに。


核心まで迫られた。


レインは答えようとした。


その時。


コンコン。


扉が叩かれた。


「入れ。」


職員が入ってくる。


「ギルドマスター。」


「王都から使者です。」


バルガスの表情が変わる。


「王都?」


「はい。」


「オーガ変異種討伐の報告を受けて。」


職員が一枚の書状を差し出す。


封蝋。


そこには。


王国騎士団の紋章が刻まれていた。


バルガスが書状を開く。


読み進める。


そして。


眉をひそめた。


「……面倒なことになった。」


「何です?」


レインが尋ねる。


ギルドマスターは書状を机へ置いた。


「王国騎士団からの指名依頼だ。」


「指名?」


「ああ。」


バルガスは五人を見る。


「《リベレーション》に。」


そして。


依頼内容を読み上げた。


「王都北部。」


「《封印迷宮アビス》にて異常を確認。」


「内部調査隊が三組消息不明。」


「原因調査および生存者救出。」


リリアの顔が強張る。


「三組も……。」


ガルドが尋ねる。


「危険度は?」


バルガスは少し間を置いた。


「B。」


部屋が静まり返る。


現在の《リベレーション》には。


明らかに格上の依頼。


だが。


問題はそれだけではなかった。


「そしてもう一つ。」


バルガスが続ける。


「今回の調査には、王国騎士団から別のパーティーも参加する。」


「誰です?」


レインが尋ねる。


バルガスは答えた。


「《紅蓮の剣》。」


レインの表情が止まった。


リリアが尋ねる。


「知っているんですか?」


「……ああ。」


忘れるはずがない。


《紅蓮の剣》。


レインが。


最初に所属したパーティー。


そして。


初めて。


「戦えない無能はいらない。」


そう言って。


レインを捨てた者たちだった。

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