第十二話 四人の落ちこぼれ
翌朝。
アルトの冒険者ギルド。
《リベレーション》の四人は依頼掲示板の前に立っていた。
レイン。
リリア。
ガルド。
そして昨日加入したばかりのセラ。
「今日が私の初仕事……。」
セラは少し緊張していた。
「そんなに構えなくていい。」
レインが言う。
「最初から完璧にできる人間なんていない。」
「でも……。」
セラは周囲を見る。
昨日まで自分を笑っていた冒険者たちがいる。
「また外したら……。」
レインは即座に答えた。
「外していい。」
「え?」
「十本全部外したって構わない。」
セラは目を丸くする。
弓使いに向かって「外していい」と言うリーダーなど聞いたことがない。
「ただし。」
レインは続ける。
「なぜ外したのかは一緒に考える。」
「原因が分かれば、次に直せる。」
セラは小さく頷いた。
「……はい。」
ガルドが豪快に笑う。
「気楽に行け。」
「俺なんて五回追放されてる。」
「それ、励ましになってません。」
リリアが突っ込む。
四人に笑いが起きた。
その様子を見ながら、レインは少し不思議な気持ちになっていた。
これまで所属していたパーティーでは、失敗は責められるものだった。
魔法を外せば怒鳴られる。
敵の攻撃を受ければ罵倒される。
判断を間違えれば報酬を減らされる。
だから皆、失敗を隠した。
そして同じ失敗を繰り返した。
(それじゃ駄目なんだ。)
レインは三度追放されて、ようやく理解した。
強い人間を集めるだけでは、強いパーティーにはならない。
仲間が安心して力を出せる場所を作る。
それもリーダーの仕事なのだ。
「レインさん。」
受付嬢ミリアが声を掛けてきた。
「ちょうど良い依頼があります。」
一枚の依頼書を差し出す。
⸻
【討伐依頼】
対象:フォレストウルフ
推定数:8~12体
危険度:E
場所:北東森林
報酬:銀貨15枚
注意事項:
群れで行動するため、単独戦闘禁止。
⸻
「フォレストウルフ……。」
リリアの表情が少し強張る。
動きが速い魔物だ。
ゴブリンとは違う。
特に複数のフォレストウルフに囲まれれば、Eランク冒険者でも危険になる。
ミリアも心配そうだった。
「無理なら別の依頼でも……。」
レインの視界に文字が浮かぶ。
【推奨依頼】
適性:★★★★★
【推奨理由】
セラ・フィーネ《未来視》訓練
ガルド・バルガス《絶対挑発》熟練度上昇
リリア《星属性》熟練度上昇
連携スキル発現可能性あり
【予測成功率】
97%
レインは依頼書を取った。
「これを受けます。」
◇◇◇
北東森林。
四人は慎重に森の奥へ進んでいた。
レインが先頭ではない。
前衛はガルド。
その五歩後ろにリリアとセラ。
さらに後方にレイン。
これが《リベレーション》の基本陣形になりつつあった。
「止まって。」
レインが言った。
全員が即座に止まる。
以前のパーティーでは考えられなかった。
荷物持ちだったレインの指示など、誰も聞かなかった。
しかし今は違う。
三人ともレインを見る。
「どうした?」
ガルドが尋ねる。
「いる。」
「何匹ですか?」
リリアが杖を握る。
レインの視界には表示されている。
【フォレストウルフ】
前方85メートル
個体数:11
さらに。
【敵行動予測】
包囲行動
左右分散率:82%
後衛奇襲率:91%
「十一匹。」
セラが驚く。
「見えるんですか?」
「痕跡から推測した。」
また半分だけ本当のことを言う。
「たぶん、正面から三匹。」
「左右から四匹ずつ回り込む。」
ガルドが盾を構える。
「どうする?」
レインは少し考える。
そして答えた。
「囲ませる。」
「え?」
三人が同時に声を上げた。
「囲ませるんですか?」
「ああ。」
普通なら避けるべき状況。
だがレインには別のものが見えていた。
【推奨戦術】
《誘引包囲》
成功条件:
ガルド《絶対挑発》
セラ《未来視》
リリア《星属性》
「ガルド。」
「何だ。」
「全員の注意を引けるか?」
ガルドは笑った。
「やってみる。」
「セラ。」
「はい。」
「今を見るな。」
セラの表情が変わる。
昨日教えた言葉。
「未来を見る。」
「……はい。」
「リリア。」
「はい!」
「ガルドを信じろ。」
「絶対に前へ出るな。」
三人が配置についた。
レインは最後尾から全体を見る。
草むらが揺れた。
来る。
一匹。
二匹。
三匹。
正面。
そして左右。
予測通り。
「ガルド!」
「おう!」
大盾を地面へ叩きつける。
ドン!
「《絶対挑発》!」
空気が震えた。
十一匹すべてのフォレストウルフが、一斉にガルドを見る。
「グルルルル……!」
殺気が集中する。
ガルドへ飛び掛かる。
一匹。
二匹。
五匹。
「来い!」
ガルドが笑った。
牙。
爪。
突進。
すべて盾で受け止める。
しかし十一匹。
いくら守護騎士でも多すぎる。
「レイン!」
リリアが叫ぶ。
「まだだ!」
レインは待つ。
セラを見た。
彼女は弓を構えている。
だが矢を放たない。
目の前には。
現在のフォレストウルフ。
そして。
数秒先のフォレストウルフ。
二つの像。
「見える……。」
セラが呟く。
一匹がガルドの右へ回る。
まだ動いていない。
しかしセラには見えている。
三秒後。
そこへ移動する姿が。
矢を放つ。
ヒュッ!
誰もいない場所へ飛んでいく。
一瞬。
外したように見えた。
だが。
フォレストウルフがそこへ飛び込んだ。
ドスッ!
眉間。
一撃。
「一匹!」
セラ自身が驚く。
「次!」
レインが叫ぶ。
二射目。
誰もいない場所。
そこへ別の一匹が飛び込む。
命中。
三射目。
命中。
「すごい……。」
リリアが呟く。
だが。
レインは違うものを見ていた。
ガルドとセラの間に、光の線が現れる。
【連携条件達成】
ガルド × セラ
《絶対挑発》
+
《未来視》
――統合。
【連携スキル】
《未来誘導射撃》
発動可能。
「セラ!」
「はい!」
「ガルドを見るな!」
「ガルドに向かう敵だけ見ろ!」
セラには意味が分からない。
それでも従った。
ガルドへ向かう未来。
無数の軌道。
それが突然。
線として見えた。
「……見える。」
一本。
二本。
三本。
未来への道。
セラの瞳が淡く光る。
「全部……見える!」
矢。
一射。
二射。
三射。
四射。
連続して放つ。
そのすべてが。
まだ敵のいない場所へ飛んでいく。
そして。
そこへフォレストウルフが次々と飛び込んだ。
ドスッ!
ドスッ!
ドスッ!
「馬鹿な……。」
ガルドさえ驚いている。
百発百中。
いや。
違う。
敵が矢に当たりに行っているようにさえ見える。
残り四匹。
「リリア!」
「はい!」
「ガルドの正面!」
リリアが杖を構える。
だが。
フォレストウルフとガルドが近すぎる。
「撃てません!」
「ガルドさんまで巻き込んじゃいます!」
「大丈夫。」
レインは言う。
「ガルドを信じろ。」
リリアは一瞬迷う。
そして。
杖を握り直した。
「分かりました!」
魔力が集まる。
炎ではない。
白銀の光。
《スター・フレア》
しかしその瞬間。
ガルドの盾も光った。
【連携条件達成】
ガルド × リリア
《守護領域》
+
《星属性》
――統合。
【連携スキル】
《星壁》
「ガルド!」
レインが叫ぶ。
「盾を地面へ!」
「おう!」
巨大な盾が地面へ突き刺さる。
光の壁が広がった。
リリアが魔法を放つ。
「《スター・フレア!》」
白銀の炎が爆発した。
轟音。
森が揺れる。
光が消えた時。
四匹のフォレストウルフは倒れていた。
そして。
その中心。
ガルドは無傷だった。
「……。」
誰も言葉を発しない。
セラが呟く。
「私たち……。」
リリアが続ける。
「強い……?」
レインは首を横に振った。
「まだ弱い。」
三人が一斉にレインを見る。
「これで!?」
ガルドが笑う。
レインも笑った。
「まだ能力を使い始めたばかりだ。」
「ガルドも。」
「リリアも。」
「セラも。」
「本当の力の十分の一も出せていない。」
三人の表情が変わる。
「これで……十分の一?」
セラが自分の弓を見る。
レインの視界には数字が表示されていた。
【潜在才能解放率】
リリア:11%
ガルド:25%
セラ:6%
その下。
【パーティー連携率】
14%
そして――。
【レイン・アーク】
支援経験値獲得
内部レベル
31 → 32
レインは表示を見つめた。
また上がった。
だが、公開ステータスは変わらない。
【表示レベル:30】
Dランク。
(やっぱり……。)
偶然ではない。
自分だけは、レベル30を超えて成長している。
しかも誰にも見えない。
だが。
その時。
新しい表示が現れた。
【警告】
内部レベル50到達後――
必要経験値倍率が変更されます。
通常比:
×5
レインは眉をひそめた。
(五倍……?)
そして、さらに下。
【内部レベル上限】
――――
数字がない。
「……。」
レインは何度も見直した。
この世界の最高レベルは50。
それ以上は存在しない。
誰もがそう教えられてきた。
しかし。
自分の上限だけが。
表示されていない。
「レインさん?」
リリアが声を掛ける。
「どうしました?」
レインは表示を閉じた。
「何でもない。」
今はまだ話せない。
自分自身にも理解できていない。
ただ一つ。
確かなことがある。
自分は強くならない。
攻撃力はEのまま。
防御もDが限界。
一人なら、フォレストウルフ一匹にも負けるかもしれない。
それでも。
仲間がいる時だけ。
自分は力を発揮できる。
レインは三人を見る。
「帰ろう。」
「今日の戦いを全部見直す。」
セラが驚く。
「勝ったのに?」
「ああ。」
「勝った時ほど見直す。」
「失敗した理由だけじゃない。」
「成功した理由が分からない勝利も、次には使えないから。」
ガルドが豪快に笑った。
「やっぱり変なリーダーだ。」
リリアも笑う。
「でも、私は好きです。」
セラも小さく頷いた。
「私も。」
四人はアルトへ向かって歩き始める。
まだ名もない。
まだ弱い。
まだ誰からも認められていない。
世界から捨てられた四人。
だが、この日。
《リベレーション》は初めて――
個人ではなく、パーティーとして戦う方法を手に入れた。
そして同じ頃。
アルトの冒険者ギルドには、一枚の緊急依頼書が届いていた。
【緊急討伐】
対象――オーガ変異種。
推定レベル――38。
危険度――C。
討伐隊を至急編成されたし。
その依頼書の下には。
もう一つ。
赤い文字が記されていた。
【先行パーティー一組、消息不明】
そのパーティーの名は――。
かつてレインを追放した、二つ目のパーティーだった。




