↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天穹白騎譚ナイツ&ビースト-死神の少女-  作者: ムロ☆キング
4章 グッバイ・カム・サドンリィ
PR
22/33

2話 リユニオン・プロミス(イズ・ノット)(2)

 帝都ノルンブルムから東、サングリア帝国の領内ぎりぎりの位置にある孤島。そこにも帝国軍の基地が置かれている。


 テレイア連邦が所有していた海上プラント攻略戦のおり、レンファたち攻撃部隊が出撃した基地でもあり、その規模は辺境ながらも共和国の軍技研基地と同等に見える。


 陽炎が揺れる滑走路には、帝国の大型空中戦闘艦数隻に加え、テレイア連邦とソルボレ共和国の艦も着陸していて、離着陸には支障ないのだろうが、ごちゃごちゃとした印象を与えていた。


「こんなに集まるとは。なかなかに壮観なもんだね」


 腕を組み、基地司令部から見下ろすようにしていたレンファが呟く。


「アンタもそう思うだろ、スレイ」


「……ええ、そうですね」


 たしかに、三か国の兵力が集まるこの光景には、飲み込まれるほどの迫力がある。


 共和国の呼びかけによる停戦と、帝国の発案で実現した今回の作戦には、実に二十隻以上の空中戦闘艦が参加するのだ。しかも、未だ集結の途中である。


「だけどさぁ、こんなにヒリついてちゃ、上手く連携なんかできっこないよ。見てよ、連邦なんてドールズを起動させちゃってる。絶対にあてつけだよ、あれ」


「ふん。ほっとけ、あんなもん。ああでもしてないと、感情の行き場がないんだろ。情けないったらないね、まったく」


 レンファは腰に手を当て、滑走路上を闊歩している連邦軍機へ冷ややかな視線を送る。


 無理もない。休戦が成立してまだ日も浅い。一方的に宣戦布告し、攻め入ってきた帝国に対して、多大な犠牲を払った連邦が悪感情を持つなという方が、土台無理な話なのだ。むしろよく我慢してくれているとすら思う。


「それにあんな雑魚どもアテにしなくとも、ビーストどもの相手なんざ、アタシらだけで充分なんだよ。連邦の奴らには、せいぜい弾避けの壁にでもなっていてもらうさ」


 顎を上げて鼻で嗤う仕草に、なにもそこまで言わなくても良いだろうにと、つい視線を向けてしまう。レンファはその視線に気づくと、こちらに向き直った。


「……アタシはね。弱っちいくせに群れてイキがってる奴らが大嫌いなんだよ。大口をたたく割りには、一人になった途端、何もできやしない。度胸のカケラもない奴が軍人をやってるなんて、ちゃんちゃら可笑しい話だと思うだろ」


 強い日差しが司令部を暗い影で満たすなか、燃える上がるような瞳だけが輝いている。


 己への絶対的な自信と、帝国への忠義心。彼女の立ち姿には、見る者を圧倒する気高さが取り巻いている。


 その背後。遠くから見慣れたシルエットの艦が基地に近づいてきた。


 轟音を轟かせながら、白く反射する滑走路に降着装置を滑らせて、マザーパーチ号が着陸する。ソング・バード隊も今回の作戦に参加すると聞いて知ってはいたが、思わず目が追いかけていた。


「……実力があるくせに、それを出し切らないでいる奴も、アタシは嫌いだけどね。ま、少しはマシになったようだけど」


 どこか嬉しさを滲ませるレンファも、翼を大きく広げた鳥のような艦影を同じく追っていた。




 ◆   ◆   ◆




「おいおいおい。元気そうじゃねーか。心配したんだぜ、スレイ。お前、この野郎が」


 自身が呼びつけたソング・バード隊の面々を案内するようにというレンファの指示に従って、司令塔の外で待っていると、背丈の高い大男が走ってきた。


 力加減しているのかも怪しい、遠慮なく肩を叩いてくるその姿と声に、懐かしさと嬉しさがぶわっと胸に迫った。


「ロック兄さん。ちょっと、痛いですって。……そっちこそ、お元気そうで、なによりです」


「おうよ。アニキである俺様が、弟より先にへばっちまうわけないだろ」


 駐機されたマザーパーチ号から出た車輛には、他にレイルズとダリルの姿があったが、彼らは降車している最中だった。


 こういう時にやってくるだろう人物がいない。


 ふ、と嫌な予感がよぎる。


「あの、クーナさんはどうしたんですか? クーナさんも呼び出しは受けていたはずなんですけど」


 ロックロックは「あー」と低く唸り、後頭部を掻いた。


「アイツはなぁ。いま、ちょっと調子が悪くてな。いや、怪我をしたとかそういうのじゃないんだけどよ。なんていうか、ちょっと様子がおかしくてよ」


「え? なんです、それ」


 負傷はしていないという言葉に胸を撫でおろしたが、ロックロックの言い淀む様子からは、なにか只事でないということも察せられる。


「様子がおかしいって。クーナさん、どうしちゃったんですか」


「それがな。ここに来る前、キサラギ研に寄ってたんだがよ。それから出撃するたびに様子がおかしいんだ。声が聞こえるって呟いてみたり、イラついたりと、とにかく落ち着かない。


 かと思ったら眩暈で倒れちまった。医師《せんせい》が言うには、過労らしい。今は、レドナとマラザ導師ってばあさんが診てくれてるよ」


 過労……。そう言われれば、納得する部分もある。彼女はあらゆる面で隊の運用に携わり、ドールズパイロットととしても前線に立ち続けていた。


 溜まりに溜まった器から、水がこぼれ溢れるイメージが浮かぶ。きっとそうやって、彼女は倒れてしまったのだろう。


(自分を押し殺してまで、無茶をする人だからな。でも、イラついたりっていうのは、いくらなんでもクーナさんらしくない)


 その点については、ロックロックとも同じ感想を抱いていた。得心がいかない心のうちが顔に出ていたのだろう、ロックロックは「だろ?」と眉を上げた。


 もう少し詳しく話を聞こうとして口を開くと、ちょうどダリルとレイルズが傍にやってきた。さっと頭を下げて、数拍置いてから視線を上げる。心なしか、二人とも穏やかな表情をしていた。


「……無事で何よりだ。積もる話もあるが、まずは今作戦の責任者と会わせていただく方が先だろうな。レンファ殿は、この上かね?」


 深く被った軍帽を傾けて司令塔を見上げ、レイルズが尋ねる。「はい。ご案内いたします」と先導するようにしてガラス戸を押す。


「……帝国の軍服は着ていないのだな」


 ぽつりと、ダリルが呟いたのが聞こえた。


「ええ。俺は帝国軍人になったつもりはありません。気持ちは、ソング・バード隊のままですよ。皇帝陛下も、お認めくださってますし」


 三人を迎え入れながら、ジャケットの左袖に縫い付けられているワッペンを指さした。




 ◆   ◆   ◆




「では、艦隊指揮は私に任せると仰るのですかな?」


「その通りです、レイルズ艦長。皇帝陛下からは既に了承を得ております。それに、共和国のロウ大統領も同意されている」


 レンファは、足を肩幅に開き、堂々とした立ち姿をしてレイルズと向かい合っている。レイルズの背後には左右にダリルとロックロックが控えていたが、二人とも驚きを隠せないでいた。


「なにも驚くことではないでしょう。これは、適材適所を勘案した配置に過ぎない。私はいちパイロットなのですから、艦隊指揮などした経験はないのですよ。その点、レイルズ艦長ほどの方なら、安心してお任せできるというものです」


 丁寧な口調ではあったが、言葉の端々に苛立ちを感じさせる。呼び出したはずのクーナが姿を見せないことに、不満を感じているのだろう。


「……分かりました。謹んで、お受けいたしましょう。レンファ殿は、攻撃隊の指揮を執られるのですかな?」


「実際には、各国の部隊長にお任せするようになりますがね。旗頭ではありますが、私も前線が恋しいのです。攻撃隊の情報統括や全体指揮は、このルルが行います」


 レンファの左後ろに控えていたルルが、浅く頭を下げる。


「なるほど、わかりました。作戦の詳細は、また後ほどですか?」


「三十分後に、連邦も交えた全体でのブリーフィングを予定しておりますので、その時に」


「了解しました。……では、レンファ殿。ひとつよろしいですかな?」


「まだなにか?」


「クルセイダとそのパイロット、スレイの件なのですが。ロウ大統領から、ツェペリ皇帝陛下へ返還の申し出があったはず。お考えをまだ聞かせていただいていなかったもので、どうなったものかと。もし受け入れてもらえているのなら、作戦前にこちらで引き受けたいのですが」


「ああ……」と、レンファはちょうど両者の間に立つこちらに視線を寄こした。ロックロックからの視線も感じられ、居心地が悪い。


「それでしたら、結論は出ております。本人からお聞きになった方が良いでしょう。……おい、スレイ。説明しな」


 途端にがらりと調子が変わるレンファの鋭い視線に目顔で応じ、レイルズらに向き直る。


「その件については陛下からも聞いてはいたんですが、俺、すぐには戻らないって、陛下に答えたんです」


 三人とも驚いていたが、特にロックロックが眼を剥く。それに加えて、口の動きだけで「なんでだよ」と不満を伝えてきていた。


「皇帝陛下には、理由は分からないですけど、気に入ってもらえて良くしてもらいました。一緒に戦った、パイロットたちもいます。彼等には、戦場で何度も助けてもらいました。


 それが、戦い抜くために必要なことだからというのは分かっているんですけど。でも、どうしても、このまますんなり離れることはできないんです。だから、せめて恩を返せるよう、この作戦が無事に終わるまでは帝国軍に所属したまま戦おうと思うんです。


 勝手言っているのは、分かってますけど。俺は、そうすることが正しいことだって、思うんです……」


 何か言おうとしたダリルを制するように、レンファが右手をまっすぐに突き出す。


「皇帝陛下は慈悲深き御方です。スレイの願いは聞き届けられ、既に共和国政府にも正式に返答を済ませている。貴方がたとはすれ違いになったようだが、この件については、決着がついているのですよ。


 あの原型機《アーキタイプ》が、『調和の器』と呼ばれているものであることは我々も把握している。それが、共和国とどのように関係しているかまでは知りませんがね。『聖域』絡みであることは察しがつく。


 ただ、勘違いしないでほしいのは、我々帝国はだからと言ってクルセイダの返還を渋っているわけではないということです。天地開闢の創成譚など、幼子に聞かせる御伽噺に過ぎない。ただのまやかしだと、皇帝陛下はお考えなのです。


 これは単に、スレイの意思を尊重した結果なのだと、それをご理解いただきたい」


 重苦しい沈黙が場に降りる。


 陛下から『調和の器』であるクルセイダと、その乗り手として選ばれたという話を聞かされても、そんな自覚など露ほどもないし、それがなにを意味しているのかもよく分からないでいる。


 だというのに、まるで自分が政治の道具になったような気がして、ぐうっと息が詰まる。手足に重たい枷が架せられ、行動のすべてに許可が必要になる。雁字搦めにされて床に投げ出されるような、そんな心地しかしない。


(クーナさんが聞いたら、怒るかな。……きっと、呆れるだろうな)


 打ちっぱなしのコンクリートの天井を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。