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天穹白騎譚ナイツ&ビースト-死神の少女-  作者: ムロ☆キング
2章 トゥ・ビート・コンバットブーツ
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4話 ヴァイオレット・ハンマー(2)

 聖サングリア帝国。


 広大な西大陸に数多ある内の、一国家でしかなかったその国は、星を覆った黒霧災害に乗じて隣接する国々へと侵攻を開始。


 古くから国を支えた騎士たち。その伝統を継ぎ、研鑽を重ねた軍事力は、ドールズという兵器を得てさらに圧倒的な力をもって他国を制圧。瞬く間に西大陸を平らげ、覇権国家となった。


 だが、帝国の歩みはまだ止まらない。


 黒霧とビーストの完全排除。脅威となる存在の撲滅。人類の守護者足らんとして掲げたその旗には、全人類を帝国の名のもとに統一するという大前提が敷かれていたのだった。


 皇帝の志を迎え入れる国も少なからずあったが、多くの国家は反対を表明。テレイア連邦はその強硬姿勢に強く反発し、両国家は水面下での緊張状態が続いていた。


 ……いま、この時までは。


 赤紫色をしたドールズは、左肩のハードポイントシステムに懸下される大口径のロケットランチャーを装備し、小型種に応戦するテレイア軍機に発射する。


 形成炸薬弾は周りの小型ビーストをも巻き込んで爆発し、テレイア軍機を爆破、炎上させる。


「グリーン9信号途絶! ちくしょう、撃ってきやがった」

「展開中の部隊へ。本国から応戦許可が下りた。テレイア軍機は帝国軍機を撃墜せよ。いいか、戦争が始まっちまったぞ!」


「ハハッ、遅い遅い」


 さらにもう二機、同じようにしてテレイア軍機を撃破し、胴体下部に取りつけられているのだろうガトリング砲で小型種を掃討していく。甲板は、瞬く間に火の海と化す。


 上空から、空戦型のテレイア軍機がライフル射撃をするが、ホバー移動でもするかのように甲板を滑り、帝国軍機は回避していく。


「あの図体のくせにすばしっこい。弾が当たらんっ」


 上空に火線が走り、直撃したテレイア軍機が爆散する。振り仰げば、数隻の空中戦闘艦と多くの帝国軍機の機影が見えた。


(戦争だ……。本当に、ドールズ同士で人殺しをしてるんだ)


「ソング・バード隊聞け。共和国政府から交戦の指示は下りていない。全機Gラインまで後退せよ。いいな、帝国軍への攻撃は禁ずる。繰り返す、攻撃は禁ずる」


 攻撃はしない。艦長の通達にほっとした反面、味方を見捨てて撤退するという選択に躊躇する。


「スレイ、無事だよな!」


 ラッパのパーソナルマーク。ロックロック機が右横に着く。「ロック兄さん……俺は」


「説教は後からいくらでも聞かせてやる。もう作戦はめちゃくちゃだ。とにかく今は逃げることだけを考えろ」


「そうだ。共和国軍ども。お前たちに用はない。邪魔さえしなければ見逃してやるから、さっさと逃げ出すんだな。おい、クーナ。オープンチャンネルだ。聞こえてんだろう?」


 弾を打ち切ったランチャーを破棄し、赤紫色をしたドールズが足を止める。降りてきた帝国軍機から予備武装なのだろう、大型ライフルを受け取っている。


「……レンファ。まさか本気で戦争を仕掛けるなんて」


「偉大なる皇帝陛下のご意志だ。この星を救う、唯一の手段でもある。アタシたちがそれをやるといってんのさ」


「世迷言だわ! 武力だけで世界を統一するなんて、独裁者のやることよ」


「強者だけが生き残り、この世界を導く権利を得るもんだろう。その為に、アタシたちはラボで兵士として教育を受け、キサラギの名を授かった。死神という二つ名をもったお前が力を否定するとは、お笑いだな」


 二人は同じ経歴を持っているのか。ラボという言葉に聞き馴染みがないが、以前彼女が言っていた、正しい軍人であることがたったひとつの貢献という考えの根源なのだろう。


「キサラギ研の出身か。噂の二人目登場となれば、こりゃさっさとお暇しようぜ。スレイ、行けるな」


「キサラギ研? なんです、それ」


「クーナと同等か、それ以上の腕のあるパイロットってことだよ。しかもあんなドールズは見たこともない」


「このベオファーンをもって、アタシはアタシの役割を全うする。クーナ、お前はまだその力を出し切れていない。そんなつまらないおもちゃに乗って、チマチマと後ろに隠れているようではな」


「……私は、私のやるべきことを果たすべく努めています。ロッキー、キャリバーすぐにその場を離脱してください。帝国軍機は無視して、マザーパーチ号に帰還します」


「つれないな。まぁいい。ルルのヤツも来ているが、どうせまた会う。その時には、お前たちも皇帝陛下の御威光にひれ伏しているだろうがな」


「三人目までいるのか。おっかねぇな。スレイ、さっさと行くぞ」


「でも、残された民間人たちは……」


「馬鹿! 他人の心配をしてる場合かよ。帝国軍は殺戮が目的じゃなさそうだし、民間人の命を無下にはしないだろ。このプラントだって、自国に取り込みたいだろうからな」


 軋む機体をなんとか立ち上げ、ロックロック機に続く。後方では、轟音を轟かせて、空に緑色をしたエーテル雲をひくベオファーンの姿が見えた。


「どうしたキャリバー。高度が低いぞ」


「機体のダメージがかなり大きかったようです。出力がまったく上がりません」通知されるエラーにコンソールを叩いてはいるが、一向に改善されない。「墜ちることはなさそうですけど、これが精一杯です」


「仕方ねぇか。あんだけぶん回したんだ。改修されてるとはいえ、現行機に比べりゃ型落ちだ。むしろよく頑張ってると思うぜ」


 思い返せば、俺にはまだ難しい細かな機体動作が、《《今回も》》できてしまっていた。無我夢中だったが、イメージ通りに機体を制御できた気さえする。


(まるで、身体が勝手に動いてるみたいだ)


「ただまぁ、命令無視に独断専行。おまけに撃墜される寸前ときたもんだ。こりゃ、副官殿のキツイ叱責が待ってるな。嫌だろうが、生きて帰った証拠だ。こってり絞られてこいよ」


 ロックロックの軽口は変わりないが、周辺への警戒を厳しくしていることは、機体挙動から察することができる。


 それもそのはずで、ルートを外れてはいるものの、いまだテレイア軍と生き残ったビースト、それに帝国軍の三つ巴の戦闘は継続しているのだ。帝国軍からの攻撃はないだろうとも、ビーストから襲撃される可能性は大いにある。


(いや、帝国軍が攻撃をしないなんて、そんな確約はない……それはそうなんだけど)


 ベオファーンというドールズのパイロット、レンファが口にしただけに過ぎない。だがそれでも、やはり攻撃はしてこないだろうという、確信にもほど近い予感が振り払えないでいる。


 そう思わせるほどの気概が、レンファの言葉にはあったのだ。


「ロッキー、キャリバー。左後方からビーストが追ってきます。敵影は二」


「こちらロッキー。キャリバーは機体の損傷からイーグルの援護を求む。ビーストの迎撃は俺様が受け持つ」


「ロック兄さん!」


「心配すんな。アニキに任せて弟はまっすぐ帰るんだぞ。近くまでマザーパーチ号が来てくれてるんだからな」


 ロックロックが機体を上昇させてループに入り、背面姿勢から水平飛行へと素早く切り返すと、あっという間に後方へと流れていった。


「キャリバー、こちらイーグル。スレイ、聞こえていますね」


「はい、少尉。聞こえています」罪悪感があるからだろうか、棘が刺さるような気がして、応答する声が自然と萎む。


「自覚があるようならいいのですが、貴方には言わなくてはいけないことがたくさんあります。帰投後はそのつもりでいてください」


 もはや、はい、としか言いようがない。


「……でも、まずは無事でよかった。さぁ、早く帰りましょう」


 部屋に招かれた時の少しだけ気の抜けた、あの時のクーナの声色。ああ、生きて帰れるんだと、いう安堵がじんと胸に染み広がる。


 甲高い警報と共に、左前方で海面が爆ぜた。


 一度だけではない。二度、三度と大きな水柱が上がり、降り落ちてくる雫を弾くようにしてテレイア軍機が飛ぶ。それを追撃しているのは、二機の帝国軍機。


「た、助けてくれ。こちらブルー8、帝国軍機にケツを取られてる。誰か応答してくれ! ウタドリ、聞こえてるんだろう! おい!」


 泣きわめくような悲痛な訴えに、操縦桿を握りなおす。機体を傾け、テレイア軍機に接近するコースを取る。


「キャリバー! 帝国軍との交戦は許可されていません。それに機体がもたない。馬鹿な真似はやめてください」


「でも、味方が助けを求めてるんですよ!? 同盟国なんでしょう?」


「……そう、テレイア連邦は同盟国。ですが、私たちの国ではない。命令を受けてすらいません。ここで帝国軍機を攻撃しようものなら、帝国は今すぐにでも共和国に宣戦布告するでしょう。それだけは避けなくてはならない。……酷いようですが、これが現実です」


「そんな、そんな政治の話を聞きたいわけじゃないんです! 助けてくれと求められたら手を差し伸べるのが、軍人なんじゃないんですか!?」


「……キャリバー。貴方の言いたいことは分かります。ですけど私たちには命令が」


 最後まで聞かず、機体をテレイア軍機に接近させる。「スレイ!」


「攻撃しなけりゃいい。……やりようはある」


 高くは飛べないが、速度は出る。テレイア軍機は弾を避けようと海面すれすれを飛行しているから、問題はない。攻撃のただなかを、突き抜けるように横切った。


 闖入者に戸惑ったのか、帝国軍機の攻撃が止む。その隙に間に割り込んだ。「帝国軍はこっちに攻撃しないはずだ。今のうちに!」


「すまん。ありが———」


 前方を飛行していたブルー8が火を吹く。機体は海面に叩きつけられて転がり、爆発した。上空を影が覆う。


「な、なんで」


「見逃すが、邪魔はするなと言ったよなぁ……。ええ?」


 レンファのベオファーンだ。そう思う間もなく、激しい振動が脳を揺さぶる。分厚い装甲をした脚部シールドで、クルセイダの胴体を蹴られたのだ。制御できず、機体は岩礁に激突した。


 眩む視界のなか、眼前に立ち塞がるベオファーンが大口径のライフルを向けた。裂けた装甲から覗くコックピットへ銃口が押しつけられている。


「残念だよ、スレイとやら。アタシ好みの面構えをしてるのに」


「……なんで、人間同士で争わなきゃならないんです。こんなの、おかしいじゃないですか」


「おかしいのは、この世の中のほうさ。アタシたちは、それを正そうとしてるだけ。分からないのなら、ここでお別れだよ」


 ———撃たれる。目を閉じかけたその時に、クーナの声が響いた。どんな言葉だったのかは分からない。A.B.Rが放つ光と音が、それを掻き消してしまった。


 レンファは大きく機体を後退させる。直撃は免れたようだが、熱でライフルのフレームは溶けて弾薬に誘爆した。だがベオファーンに一切の傷はない。


「クーナ!」


 怒りとも歓喜ともつかない、雄叫び。直後、視界を灰色の煙が覆う。撃ち込まれたのは、数発のスモーク弾だった。


「キャリバーを確保。全機、作戦空域を離脱するぞ」


 ダリルの声が聞こえ、機体が揺れる。両脇を抱えられたのだろう。一部の装甲が剥がれたクルセイダの脚部が、海面から離れるさまが見えた。


 視界が、ゆっくりと黒く塗り潰れていった。


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