表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天穹白騎譚ナイツ&ビースト-死神の少女-  作者: ムロ☆キング
2章 トゥ・ビート・コンバットブーツ
11/14

3話 ヴァイオレット・ハンマー

 軍技研でクルセイダを修理している最中は、流石にドールズに搭乗しての訓練は行われなかった。だが休暇なんてもらえるわけもなく、代わりに座学の時間が増えた。


 戦術効果について解説する教本を広げながら、豆と鶏肉をスパイスを効かせたソースで煮込んだ料理、チャチャリを口に運ぶ。


 設計図や基盤なんかであれば、何も苦もしないのに。羅列される文字と専門用語、読み解かなくてはならない配置図面に、味なんてわかりようもない。


 遅い昼食になり、食堂は空席が目立つ。それなりに耳に入ってくる会話のなかに、聞き逃せない言葉が聞こえた。それはクーナに関するもので、彼女を仲間に死を齎す、死神と口汚く貶めていた。


 頭に血が上る感覚はあったが、突っかかっていかなかったのは、あまりにも馬鹿馬鹿しい噂にしか聞こえなかったからだ。


 その夜、冗談半分にロックロックに聞かせて分かったのは、どうやら馬鹿馬鹿しいその話が、パイロットたちの間で大きく広まってしまっているという事実。


 そして、当事者にも心無い誹謗中傷が飛んでいるというのだ。


「お前も憶えておけよ。戦場で墜ちた以上、責任はそいつだけのもんだ。他の誰のもんでもない。それに、誰も味方が撃墜されることを願ってなんかもない。分かるだろ? 副官殿の言動がキツイのは、生きて帰ってきてほしいからだ。お前に、生き残る術を教えてやりたいだけなんだよ」


(クーナさんが厳しくする理由。それは、ちゃんとわかってた。もし俺がここでヘマをして死んじまったら、噂がどんどん真実になる。それだけは、しちゃいけないんだ。俺の責任を、クーナさんに被せちゃいけない!)


 ビリビリと身体を抑えつけ振動させる機体で空を駆ける。レーダーに表示される、入り乱れた味方機とビーストの反応。敵性体を表す赤色の表示に多さに、怯んではいられない。


「ダガーより各機。テレイア軍は現在第三波群と交戦中。黒霧災害現象カラミティ・フォグは終息期に入っている。攻勢はそう長くは続かないはずだ。予定通り俺とアックス、ジャベリンが突入後、ロッキー、ギャロップ、キャリバーと続け。イーグルは後方位置、上昇して援護射撃を随時敢行。いいな」


 ダリルからの通信に、それぞれの応答が返る。それに交じり、了解と返す。


「よし、全機作戦を開始せよ」


 ダリル機を先頭に突っ込んでいく三機は、果敢にビーストへと喰らいついていく。身体の奥深いところから這いあがってくる恐怖と、背中をせっ突いてくる敵愾心とが混ざり合うなか、理性で機体を操る。


 感情だけに頼ってはいけません。———クーナの言葉と顔が脳裏に浮かぶ。


(大丈夫。俺なら、やれる)


「キャリバー、敵集団へ吶喊します!」


 操縦桿を押し込み、機体の出力を上げる。中型飛行種の鼻先を掠め飛ぶようにしてひきつけ、背後を突いたロックロック機とレドナ機がそれらに攻撃を加えていく。


「援軍か! どこの隊だ!?」

「識別はソルボレ連合共和国! ラッキーだ、ウタドリが来てくれたぞ!」

「噂の死神のいる部隊か。実力は、折り紙付きだそうだな」


 チャンネルはオープンになっているから、テレイア軍の無線も聞こえてくる。


「こちらはソルボレ連合共和国軍所属、国際救助機甲隊ソング・バード、レイルズ艦長だ。これより戦線に加わる。マザーパーチ号からの砲撃についてはデータを送信する。射線に注意されたし」


 レーダー上に表示されている射線に沿い、赤紫をした荷電粒子の砲撃が走る。奔流に飲み込まれるようにして数体のビーストが焼かれたが、大勢には影響しない。


 眼前に踊り出てきた個体に、大型のヒート剣を振るう。刃先が首元にめり込み、どん、という手応えが操縦桿を通して握った手に伝わる。親指の位置にあるスイッチを押し込むと、動力炉に直接繋がるケーブルを通してヒート剣の刃部分がさらに赤熱し、肉体を両断する。


 赤黒い体液をまき散らしながら、紫色をした肉塊が落下していく。海面に叩きつけられる様を見届けることなく、機体を駆る。


(止まるな。動き回れ。戦うために———!)


 テレイア軍機に襲いかかるビーストへ、右腕部に格納されているワイヤーフックを横っ腹に突き立てる。ワイヤーをある程度の長さで遊ばせたまま、ブースターを目いっぱいに吹かせ、暴れても関係なく牽引していく。


 後方には追いかけてきているビーストがいる。急制動をかけ、右サイドブースターを吹かすと、機体はその場に滞空したままぐるりと回った。


 遠心力を活かし振り抜く直前に、鉤爪状になっている先端を収納して、ビーストどうしをぶつける。周囲が怯んだその隙に、ロックロックが発射したミサイルが炸裂した。


「デタラメなパワーをしてる機体がいるな。なんだありゃ」

「見たことがない機体だ。共和国の新型か?」


 集団を一掃しても、すぐに新たな集団が湧く。


(息継ぎ。息継ぎをしろ。ここで死ぬわけにはいかないだろ……!)


 圧し潰され続ける肺を休ませようとして、ほんの少し速度と軌道が緩む。


 息を吐いてすぐ、左面からの接近警報が鳴り、機体が大きく揺らぐ。巨大な影が、眼前を掠めていく。「っぐ」と声が漏れた。


「キャリバー!」


 その影が方向を変えようと旋回したところを、上空から伸びてきた光の帯に胴を貫かれる。上空の、クーナ機からの援護射撃だった。


 レドナ機が寄ってくる。


「アンタ、力入れすぎだよ」


「すいません……」


「いったん上空に退避して呼吸を整えな。いいかい、私らはお前を頼りにはするが、おっかかる気なんて全くない。むしろ、アンタがおっかかるつもりでいいのさ。一から十まで、全部リードしてやるってんだ」


「そうだぜ、お前にはまだ壁役をやってもらわないかんのだからな。推進剤だって、帰る分も残して使えよ」


 ドッグファイトを演じる、ロックロックの声も聞こえる。


「……了解しました。一度上空に退避します」


 細かく位置を変えながら、上空へ上がる。何度か、クーナ機が放つA.B.Rの光が近くを過ぎていった。


「グリーン10大破! プラント甲板上のドールズが足らんぞ!」

「海洋型の足止めがきかなくなるぞ。すぐに揚陸されちまう。上のブルー隊に援護しろと言え!」

「飛行型で手一杯だって言ってます!」

「プラントにはまだ多くの作業員が残ってんだぞ! 無理でもやらせろ!」


 まだ距離のある巨大な海上プラント。その足元には、すぐそこまで鯨のような格好をしたビーストが何体も迫っている。その内の一体が、潮を噴き上げるようにしてなにかを吐き出した。


「三メートル級小型種の散布を確認! プラントD脚を登っていきます」

「グリーン5、8は迎撃。間違っても脚に弾を当てるな」


 四脚をした陸戦型ドールズがライフル射撃を開始する。しかし脚に当ててはいけないという制約で思うように射撃できず、登ってきた小型種に取りつかれる。


 甲殻類の鋏をもった蛙のようなその小型種は瞬く間に機体に群がり、鋏を突き立てる。パイロットの悲鳴とも嗚咽とも取れない叫びが短く聞こえた。


「隔壁に到達されるぞ! なかには多くの民間人がいるんだ、他の連中はなにやってる! 国民を守るのが、俺たちテレイア軍人の役目じゃないのか!」


 弾かれるようにして、機体を加速させる。すぐさま最高速に達したクルセイダは、視界を四隅から黒く塗りつぶしていく。


「キャリバー!? いけません、危険すぎます!」


「だけど、見捨てることなんて、できません。このクルセイダなら、やってやれます!」


「ロッキー、ギャロップ! キャリバーがプラント甲板に突入します! 援護を」


「まじかよ、こっちも手が離せん!」「ダガー! ダリル隊長!」「こっちはAラインまで北上した。遠すぎる!」


「イーグル、キャリバーの援護に向かいます!」


「ダメだ! そうなるとEライン以下の作戦空域が持ちこたえられん! イーグルは現空域で援護射撃を継続しろ」「隊長!」「イーグル! これは命令だ」


「……スレイ……っ」クーナの絞り出すような声。そんな苦しさを抱え込ませてしまった自分を責め、心で謝りながらも速度は緩ませない。


 右側面から大口を開けて迫るビースト。その腹にヒート剣を突き立ててなお、直進する。揉み合うようにしてプラント甲板に落下し、衝突直前にビーストを叩きつける。左腕に収納している高周波ナイフを眉間に突き立てた。


「ウタドリの白いドールズが甲板に突っ込んだぞ! なんて無茶しやがる!」


 機体を起こすと、小型種を迎撃する数機のテレイア軍機と、隔壁を喰い破ろうとする群がる一団が確認できた。迷うことなく機体を走らせる。


 ヒート剣の持ち手にフックをひっかけたまま、弛んだ鋼鉄製ワイヤーがぴんと張る。ビーストの骸から引き抜き、横薙ぎに振るって小型種を蹴散らしていく。


 三度、四度と振るってようやく敵影が減ってきたと思った矢先、飛行型とは違った反応をレーダーが捉える。


「まずい、獅子型まで運んできやがった!」


 ワイヤーを軽く躱すと、鋭く大きく発達した上顎の犬歯が、咄嗟に防御した右腕装甲を容易に貫通する。接合部が破損し、ワイヤーフックが使い物にならなくなる。


「っ、この!」


 左手に逆手に握らせたナイフを振るうが、四つ目の内の右側二つがぎょろと睨み、深く姿勢を沈ませて躱す。そのままバネのように跳ねた体当たりを喰らい、隔壁に激しく打ちつけられる。


 振り下ろされる強靭な前脚を、腕部を交差させて防御する。標的を引き裂こうと蠢く四本の爪がモニターに大きく表示される。それを真正面から見据え、振り払う。


 再び撓る様な動きで地を這い、大きく跳ね上がってぶつかってくる巨体に、コクピットが激しく揺さぶられる。歪むモニターに、いくかのエラー表示が走った。


「おい、白いドールズがまずいぞ。援護できる機体はいないのか!」

「キャリバー! スレイ! 離脱してください!」


「ここで俺が退いたら、隔壁が突破される。そしたら、このビーストは、中の人たちを残らず殺す。……そんなこと、許せない。許せるはずがない」


 爪が胸部の装甲を削る。


「スレイっ!」クーナの叫ぶ声が、どこか遠くに聞こえる。


「あんな死に方、人がするなんておかしいんだ。だから俺は、離れない。死んだって、戦ってやる。ビーストを根絶やしにするまで、俺は戦う!」


 出力が下がり限界を迎え、機体が膝をつく。

 モニターいっぱいに赤い四つの目玉が映し出され、咆哮と共に牙を剝く。


「———よく吠えたな、そこのパイロット」


 凄まじい勢いで、何かがクルセイダの前に落下した。意表を突かれ後退する獅子型ビーストの首を、巨人の左手が掴んだ。


 それは、赤紫色をした鉄の巨人。


「その意気やよし。アタシ好みだが、その腕前では死に急ぐだけさ」


 マッシヴなシルエットをしたドールズは、背部にあるなにかの機構を展開し、右腕に纏う。巨大な四本の爪のような形状となった右腕は、一本一本が荷電粒子の爪を宿していた。


「アッハハ! アタシの爪のほうが、凶悪だってのさ!」


 四本の爪がビーストの頭部を引き裂き、握りつぶす。痙攣する四肢を甲板に放り、一つ眼のドールズがゆっくりと振り返った。


 機体に描かれた、国識別マーク。それは、信じられないものだった。


「……帝国軍機……?」


「そう、アタシは帝国のパイロット」どこか興奮を隠しきれていない、そんな様子を感じさせる女性の声。


「至急! テレイア軍、ソング・バード隊ともに聞け!」レイルズ艦長の叫ぶ声が聞こえた。


「たった今、テレイア連邦に対してサングレア帝国が宣戦布告した!」


「アタシたちは戦争をしにきたのさ。ビーストを屠り、人の世界を取り戻すために。その為にまずは、人の意思を統一する」


 眼前のドールズが、一歩前に出る。


「すべては、強き帝国の旗のもとに」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ