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遅くなりました。小さな小人と冒険に出掛けていました。
無味乾燥な執務室には書類が納められたキャビネット、応接セットと幾星霜年月を重ねた精霊樹を使った最高級の執務机が鎮座し、質素な色合いを醸す室内に重厚感を与えている。その美しい木目を晒す机に険しい表情で座り、書類を繰っている男がいた。
男が何故、険しい表情で書類に眼を通しているかと言うと国全体を賄うエネルギーが枯渇し始めているのが大きい。他にも細々とした問題はあるが、切迫しているのはやはりエネルギー問題だ。
「陛下!」
自動で開いた扉にロックするのを忘れてしまった自分を呪うと突然の乱入者に書類から視線を上げて億劫そうに返答した。
「なんだ。騒がしい」
頭を動かした事で纏めてあった金の髪が一房顔に垂れてくる。それを無造作に直すと金色と見紛う琥珀色の瞳には苛立ちを乗せる。
「ケントルム王国に『精霊の寵児』が現れたそうです」
「何!?まことか!!」
あまりの驚きに座っていた椅子から立ち上り、入ってきた男の方に身を乗り出し、男からの書類を受け取るとまた椅子へと座り直す。
「はっ!私の放っておいた諜報員が持ち帰った情報でございます」
「そうか…」
今までのつまらなそうな雰囲気を一変させ、思案を始める男の名前はユルゲンス・ヴァストーク。
ユルゲンス・ヴァストークは、ケントルム王国から遥か東の国のヴァストーク国の国王をしていた。この国では高層建築が乱立し、地面はコンクリートで覆われ、金属に囲まれる生活をしていた。主産業は科学技術によるバイオテクノロジー。
この国だけが発展しているのには理由があった。それはーーーーーーーーーーーーー精霊を殺す技術を擁する事だった。
ヴァストーク国も数百年前までは精霊を崇め、精霊と共に暮らしていた。それが変わったのは、精霊の寵児程ではないが、精霊に好かれた子供が生まれた事がキッカケだった。
まだ幼かった子供と両親は慎ましくも仲睦まじく生活していた。父親は樵で決して豊かな暮らしが出来るものではなかったが、母親はそんな夫を献身的に支え、また子供も働き者の父親を慕っていた。
そんなある日、子供は珍しい遊び相手を家に連れてきた。それが精霊だと両親は直ぐに気付いたが、仲良く遊ぶ子供達を暖かく見守った。だが、そんな平和な日々は続かなかった。
雨が激しく降る夜に両親は貴族の馬車に曳かれ亡くなった。不慮の事故で親を失った子供は遊び相手であった精霊に依存していき、溢れた願いを精霊がうっかりと叶えてしまってから彼等の関係は変わってしまった。子供が年を取る毎に精霊に対する『お願い』はエスカレートしていった。
それを見ていた周りの人々はこれは使えると思った。何故なら精霊を構成するのは凝縮された自然エネルギーだ。これを使って自分達の暮らしを豊かにしようと考えた。
では、どうやってこの精霊の力を自分達の為に使うのか悩んだ。そんな中で大人達の中で当時はまだ珍しかった科学者が光を示した。実は科学者の一人娘が魔法をうまく発動する事が出来ずに日常生活に苦労していたのだ。そんな時に降って湧く様に飛び込んできた話が精霊の活用の話だった。科学者は精霊を研究する為にまずは、精霊を構成するのはエネルギーの解析から始めようと思い、低位の精霊を捕まえると解析を始めた。だが、低位の精霊は存在がまだ不安定で科学者の解析に耐えられず、幾数もの精霊が消滅していった。
それでも科学者は研究を止めず、低位の精霊に飽きたらず、中位の精霊まで手を出した。これには成功で解析の為に無茶をしようが簡単には消滅しなかった。
そして、長い研究結果の成果はあまりにも凄まじかった。精霊のエネルギーの活用すると言う当初の目的の他に精霊の力を奪うというとんでもない兵器も開発してしまった。これは精霊を捕らえ、エネルギー源とする過程で偶然見つけたものだった。
科学者の研究を実証する為に高位の精霊の協力が必要になった。そこで子供と一緒にいる精霊を使うことにした。精霊に協力して貰うという名の生贄だったが、大勢の大人達からの言葉に子供は成す術もなく従い、これに協力した。
高位の精霊のエネルギーは莫大で科学者は念を入れて精霊殺しの装置を組み込んだ。訳もわからずに装置に繋がれた精霊は起動時に怨嗟の声と自分をこんな目に遭わせた人々に呪いをかけて沈黙した。
以来、数百年精霊の力を利用しヴァストーク国は発展してきた。精霊の力のお陰で人々は魔力をあまり使うことなく過ごし、その結果として人々の魔力回路は収縮し、僅かな魔力しか扱えなくなってしまっていた。だが、それでも恙無く生活する事が出来る為、それほど不便には感じていなかった。
永遠に続くと思われた栄華は、呆気なく瓦解し始め、輝かしい未来に暗雲が漂い始めた。それがエネルギーの枯渇だ。
精霊の力も無限といかず、生け贄にした精霊の力が衰え始める頃、人間達が神である精霊を慰み物にしていると怒った他の精霊達が攻めてきた。天地創造し、森羅万象を司る精霊に成す術もなく蹂躙されるかと思われたヴァストーク国だったが、科学者の作り出した精霊を殺す装置によって精霊の力は無効化され、装置へと力を吸収された。
国全体を覆う精霊殺しの装置によって精霊は手を出す事が出来ず、ヴァストーク国に近付かず傍観する事にした。
精霊が近寄らなくなったヴァストーク国の土地はみるみる荒廃していった。その反面装置に守られた建物内は豊かに生活する事ができた。
そんな中で喉から手が出る程欲する力が今、現れたのだ。ユルゲンスは小躍りしたい気分だった。
「しかし、伴侶が精霊でございます。近付く事も出来ません」
精霊の寵児が住まう場所は精霊が集まり、土地が豊かになると言われている。
研究対象であり、何よりエネルギー問題解決が見えてきた。なんとしても精霊の寵児が欲しくなったユルゲンスは男に言った。
「丁重にもてなそうではないか。迎え入れる準備を進めろ」
「はっ!」
男が執務室から退室したのを見ながらユルゲンスはどうやって『精霊の寵児』を迎えようかと考えながら、一枚の報告書を眺めた。
報告書にはケントルム王国に在住する精霊の寵児ーーユーリの事が書かれていた。
嘘です。風邪をひいて寝込んでました。皆様もお気をつけ下さい。
読んでいただきありがとうございました。




