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体調を崩しておりました。これからは体調を見ながら月一ペースでやっていきます。皆様も体調にはお気をつけください。
急いで食堂開店の準備を済ませ、一通りの掃除やテーブルや椅子の位置を直したりしているとベンとヴィオレットが出勤してきた。
「おはようございます、ガンツさん、ナンシーさん」
「おはようございま~す」
最近、ユーリの騒動で食堂などが突発的にお休みになる事が多く、宿泊客のお世話も少し蔑ろ気味になっていたのをベンとヴィオレットがうまい具合に調節、フォローをしてくれていた。
「おはよう」
「おはよう、色々とすまなかったな」
「いえいえ、料理以外も結構楽しいものでしたよ」
「そうね。食堂が閉まってるから普段できなかった場所の掃除とかできて有意義だったわ」
特に不満も無さそうでガンツとナンシーは安堵の溜め息を漏らす。喜色満面のベンの隣ではヴィオレットが何かを探すようにキョロキョロしている。それを不思議そうにユーリが問うた。
「どうしたの?ヴィオレットさん」
「え?アンリは?」
子供好きなヴィオレットはいつもアンリを可愛がっていた。それが多少アンリに迷惑がられていてもお構いなしに構っていた。
「アンリ~」
構いたくて仕方無いのだと察したユーリが奥のキッチンに向けて声をかける。するとアンリがひょっこりと顔を出した。
「はい」
「!」
「誰!?」
ベンとヴィオレットは目を見開いて混乱した。銀色の髪に紫色の瞳と真っ白な肌と薄く色付いた頬と唇。中性的で美麗過ぎる美貌と見覚えが有りすぎる色彩だったが、どうみてもお探しの人物とは大きさが違う。
「呼ばれて出てきたんですから私がアンリですよ」
「いやいやいや!!確かにサラサラキラキラの銀の髪、長いけども。とか光の加減で色が変わる素敵瞳とか雪みたいに真っ白でキメ細かい肌とかほんのり桃色の頬とか薄くてピンクの唇が色っぽい所とかアンリにそっくりだけど!!」
「語るな」
「語ってるわねぇ」
ガンツとナンシーが若干ドン引きしているが、混乱気味のヴィオレットは気付いていない。
「アンリはこれ位の背丈の子供だぞ」
そう言ってベンが床から三十センチくらいの所で掌を持ち上げて示す。そんなに小さかったわけないのにと思いながらも特に口を挟まないガンツ、その横では楽しそうにナンシーが微笑んでいる。
「ヴィオレットさん、ベンさん、この人がアンリで間違いないよ。どこから話して良いのか分からないんだけど、結論だけいうとアンリは精霊だったんだって」
「精霊!!!!?」
「マジか!?」
「で、ユーリの夫です」
美麗な顔で妖艶に笑うとユーリの腰に腕を回して引き寄せるとそのまま後ろから抱き締めた。アンリの腕の中に閉じ込められ、フワッと花の香りがした瞬間にユーリは頬を染めた。ベンとヴィオレットは固まっていたが、そんなユーリの反応に我に返り、アンリとユーリの顔を見比べて改めて叫んだ。
「「夫ぉ~!!!!!!?」」
「まだ違うけど、婚約してるんだよ」
頬を染めたままアンリの腕から逃れようと藻掻いているユーリだったが、アンリはそれをニコニコしながら封じ込めている。
なんの騒ぎだろうとこれまたひょっこりと現れた緑色の軍服を着た元気少女ベルンと未だに肩に乗っているミカが現れた。それを見たユーリがなんとかアンリの腕から脱出するとベルンとミカの横に移動し、ベンとヴィオレットに紹介する。
「で、私の護衛で精霊のベルンとミカ」
紹介に預かったベルンとミカは状況についていけないのか、オロオロしている。ベルンの琥珀の瞳は挙動不審に右往左往して、ミカの耳はピンと立ち上り、尻尾はタシン、タシンとベルンの背中を打っている。
「また、精霊か!!」
「猫!あ、猫ぉ~、可愛い」
もう、どこからツッコんで良いのか分からなくなるベンと紹介された猫のミカに構いだすヴィオレット。
うちの従業員は良い具合に混乱させられているなと心の中で愚痴るガンツ。
ガンツやナンシーがいたって冷静なのはユーリとアンリだからだ。ユーリは異世界から来たし、そんな彼女が保護したアンリ。なんか不思議な事に巻き込まれなれて逆に冷静にならざるを得なかったのかもしれない。大抵は「まあ、ユーリだし」とか「まあ、アンリだし」と割り切ると言う名の諦めだ。
そんな風に義理の親が思っているとは思っていないユーリはベタベタしてくるアンリから逃げていた。そこに不快感などない。むしろアンリの傍はとても心地良い。だからこそ自分に対して混乱して逃げることになったのだ。
男性が苦手だと自分でも認識しているのにアンリには苦手な意識が持てない。違う意味で苦手ではあるが。アンリは婚約者と公言してからやたらとユーリを傍に置きたがり、隙さえあれば、抱き付き、引っ付いてくる。
当初は驚いたし、抵抗もした。それでもアンリは嬉しそうにしてユーリを構う事を止めない、そうするうちに抵抗しても無駄なのではと思い始めた。だが、ふと少しづつアンリの所業に慣れてくる自分に気付いた。このままではアンリの思う壺だと奮起し、敢えて距離を取ろうとしている。それを何故かアンリは楽しそうに追い掛け回す。いくら逃げても先程みたいに虚をつかれたりして腰を抱かれたりするとホッと安心してしまう。自分の中の感情なのに分からない。
『傍にいたい、傍にいたくない』『安心する、安心できない』相反するこの感情はなんなのか未だに名前が見付からないユーリはアンリに後ろから抱き締められて途方に暮れた。
読んでいただきありがとうございます。




