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ギリギリセーフヽ(^o^;)ノ
アンリが推した色味のある衣服ではなく、結局いつものモノクロな服へと着替えを終え、アンリとガンツとナンシーが待つリビングへと移動する。
リビングではガンツが新聞を読み、アンリが部屋に飾られている植物達に水を与え、ナンシーがキッチンで朝御飯を用意してくれていた。今日はスクランブルエッグとハーブ入りのソーセージにこんがりと焦げ目がついたパンにサラダとスープだ。
朝食の用意を出来なかったのを謝り、テーブルに並べるのをユーリも手伝い始めたが、ナンシーは「別に良いのよ」と言ってユーリを椅子に座らせると後はナンシーが用意する。それを申し訳なさそうに見ていたユーリだったが、アンリがユーリの隣の椅子に座る時に彼女の可愛らしい旋毛にキスを落として座った。それに驚いたユーリは顔を真っ赤にさせ、アンリを睨むと飄々とした態度で一言言い放った。
「ユーリが可愛いのがいけないんです」
遠慮のなくなったアンリはユーリへの好意を隠そうとせずに甘く微笑む。そのなんとも蕩けた表情に更に顔を赤く染め、固まるユーリ。そんなユーリとアンリの様子をガンツは、これ以上アンリの攻撃が続くと血管が切れそうだと思い苦笑する。キッチンに立っているナンシーはお皿を持ったままニコニコと嬉しそうに笑っている。
「仲が良いのは良いことよね」
「そうだな」
読んでいた新聞と畳むとテーブルへと移動するガンツ。そのガンツの前に次々に朝食の用意をするナンシー。
「な…仲良くなんて…」
「ユーリは私と仲良くしたくないんですか?」
途端にアンリが悲しそうな表情でユーリを見詰める。捨てられた仔犬のような雰囲気にユーリはどうして良いのかわからなくなった。見た目だけは大人になったアンリ、だが、その仕草や挙動は子供だった時とあまり変わらない。その為、どう扱って良いのか苦慮していた。
「えっと…」
「ユーリは私の婚約者ですよね」
「そう…だね」
「だったらこれから距離を縮める努力をしましょう?」
こてりと首を傾げ、ユーリの両手を持ち上げるアンリ。そんな行為をされてもユーリからの拒絶は無い。
「うむむむ」
唸るユーリと先程までの悲壮は消え、どこまでも爽やかな笑顔をユーリに向けるアンリ。
「取り敢えず、食べましょうか」
甘い雰囲気に持っていこうとしたアンリの行動を止めたのはナンシーだった。出鼻を挫かれたアンリだったが、仕方無さそうに笑うと用意された朝食を食べるべくテーブルへとついた。
「では、…」
ガンツが顔の前で両手を合わせ、掛け声を出すとナンシー、ユーリ、アンリが同じ様に手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
食前の挨拶を終えると各々がカトラリーー手に持つとガンツはスープからナンシーはパンからユーリはスクランブルエッグからアンリはサラダから朝食を食べ始める。
この世界、ティエラにも食前の挨拶の様なものがある。今日も食べる事に困る事が無く、日々の感謝と食材を与えてくれる精霊に対してのお祈りである。以前はガンツもナンシーもそのお祈りをしていたが、ユーリが始めた不思議な儀式に興味を示し、その不思議な儀式が自分達が行っているお祈りに通じる事を知った。それからはユーリ式のお祈りが習慣化するようになった。
「どうかしら?味付けを少しだけ変えてみたんだけど?」
「うん?うん。少し酸っぱいな」
料理の腕を磨くのに余念がないナンシーは日々作る料理の味付けを少しづつ変えている。その殆どが美味しくできるのだが、たまに劇物が出来上がるのでユーリとアンリは戦々恐々とした時もあった。ただ、慣れているのかガンツだけは劇物を平気で食べていたのを見て二人は戦慄した事が何度かある。
ガンツの舌と体が大丈夫なのかと心配した二人だったが、ガンツは「食えない事はない。ちょっと舌がピリピリするだけだ」と言っていた。それでも心配したユーリは強引に診療所に連れていき医師に診察してもらうと「超健康」という御墨付きを貰った。
「そう?そうね。サラダのドレッシングにレモン三個分は多かったかしら?」
「ぐふっ」
まだ食べていなかったユーリだったが、ナンシーの一言でサラダを食べようかどうしようか迷った。そういえば、アンリがサラダを食べていたのを思い出し、チラリと横を見ると見事にくしゃっと美貌を歪めたアンリがいた。
朝食を食べ終えると食後の挨拶も忘れない。四人は手を合わせると空になった皿に向かって頭を下げる。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「はい、お粗末様」
行儀よく手を合わせたままナンシーがニコニコしながら返答し、食べ終えた食器を片付けるべく立ち上がる。ユーリも手伝おうと立ち上り、食器を重ね、キッチンのシンクへと持っていく。すると珍しくアンリがお茶の用意をし始めた。
「どうしたの?」
「ちょっと紹介したい人がいるのです」
アンリがお湯を沸かしている間に汚れた食器を洗い、布で拭き片付けていると薬缶のお湯が沸いたので人数分のカップを用意する。いつものポットではなく透明なものだった。そのポットの中に丸い物を入れ、お湯を注いでいく。すると丸かった物が解れていき、ポットにお湯が満たされると蕾が綻び、ポットの中に花が咲き誇った。
「あ、花が咲いた。可愛い。それに良い匂い。何のお茶?」
「花茶ですよ」
ポットの中の花がゆらゆらと揺らぐ。ポット静かに持ち上げ、カップへと注いでいく。ふわっと香る花の匂いは芳しく、まるで生花の様に瑞瑞しい香りを漂わせる。
「さ、どうぞ」
アンリが薦めるのでユーリはカップを持ち上げ、まだ冷めぬ花茶を一口口に含んだ瞬間に口腔内いっぱいに花の香りが満たされ、鼻から甘く香ばしい匂いが抜ける。花茶は、ふんわりと甘かった。砂糖がなくてもすんなりと飲める。
「では、紹介しますね」
アンリがそう言うとふわっと花弁が舞い、何もない空間から姿を現したのは赤毛に癖っ毛なのだろう。あっちこっちに跳ね、動く度にふわふわと動く。小麦色の肌は快活そうで太目の眉毛の下にある瞳は猫のように吊り上がり気味だが、綺麗な琥珀の瞳は意外に人懐っこそうだ。
「彼女はベルンシュタインです。長いのでベルンと読んであげて下さい」
「自分、ベルンって言います!よろしくっス」
何故か、ビシッと敬礼するベルンに体育会系の匂いを嗅ぎとるユーリ。
読んでいただきありがとうございます。




