34
謁見の間に立ち込めるお茶の匂いを嗅ぎながら貴族達は玉座前の一行を睨んでいる。ピリピリした雰囲気の中、和やかなお茶会をしているティアン達だったが、王がなかなか現れない事にそろそろ彼女の堪忍袋がぶちきれそうになる頃、微睡んだような瞳の王が姿を現した。
まだ夜も明けきらない時間なのだ。眠そうにしている王に半数の貴族達も眠そうにしている。それでも容赦なくティアンは王の前まで進むとこう言った。
「以前、私が言った言葉を覚えてあるかしら?次は容赦しないと言っていたと思うのだけど、今回のユーリの誘拐をどう責任とるのかしら?」
手にした扇を握る手に力が込もっていき、謁見の間に魔力の渦が発生し出す。精霊は魔力を自在に操る事が出来るので、彼等の感情に魔力は呼応し、事象を起こす事がある。今回はティアンの怒りの感情に魔力が形を成した形になる。
「どうもせぬ。こちらに非はないのだから」
王が重い口を開け、言い放った言葉にその場の全員が息を飲み、何処かでひゅっと音がした。
「どういう事かしら?」
「そのユーリという娘が勝手に誘拐されただけだろう?此方には非はないし、責を問うのであれば、娘であろう。自分の迂闊さが招いた事であろう」
身勝手な王の言い分に息子であるアーサーも呆然としている。ユーリに至っては愕然とした表情に顔色は真っ青だ。
「そうも言えないのではなくて?」
「何?」
「私はユーリに手を出したら承知しないと言ったのよ。貴方に直接。だとしたら取れる行動はユーリに護衛を付けるべきではなくて?それをしなかった貴方の方が迂闊ではないのかしら?」
握っていた扇から女性の力では到底聞けるような音がしだした。王と精霊のティアンとのやり取りに冷や冷やしながら見ている事しかできない貴族達から不意に抗議の声が上がる。
「貴様、一国の王に対して何と不遜な事を言うのか」
「は?」
これには黙っていたグラナトがイラッとしたのか険しい顔で何処にいるのか分からない貴族を睨む。たまたまグラナトと目が合ってしまった貴族が青い顔で震え、自分ではないと首を左右に振っている。
「拐われたくなかったら、外に出るべきではなかった」
「護衛だと?精霊の寵児だとしてもただの人ではないか。確かに国の重要人物だろうが守って欲しくば、それなりの後ろ楯を用意すべきだ」
「ほう。たとえば?」
馬鹿にしたように鼻で笑い、腕を組む姿は尊大であるが、精霊であるグラナトにそれについて意見出来るものはいなかった。
目が合っていた貴族が遂に泡を吹き出して気絶し、周りの人に支えられている。そんな様子から視線を外すとグラナトはせわしなく視線だけを動かして何かを探し始めた。
「王太子なりと結婚すればいいだろう」
その言葉にほんのりと頬を染めたアーサーがユーリの様子を伺うと先程よりも顔色の悪いユーリがいた。それを慰めるようにナンシーが抱き締め、後ろからはアンリも抱き締めている。ガンツは落ち着かせるように頭を優しく撫でている。
未だに眠そうにしている王の瞳は虚ろで、玉座の肘掛けに頬杖をつき、つまらなそうに睥睨している。その態度にアーサーが違和感を覚えた。
「先程から気に障る魔力ね」
「全くだ」
何もない空間に手を払うような仕種をするティアンにそれに同意するグラナト。二人は、キョロキョロと何かを探すように視線をさ迷わせる。
「何を言っておる」
怪訝そうに表情を歪める王は頬杖から顔を上げ、背凭れに凭れる。
「それは此方の台詞だ。たかが一国の王風情が我等精霊に対して随分不遜な物言いに看過できん」
「死にたいのかしら?」
二人の怒りに魔力が反応し、謁見の間にはブリザードが吹き荒れ始めた。するとあちらこちらの扉や装飾品が氷に包まれだし、寒さを凌ぐことも出来ない貴族達が青い唇から白い息を吐き出し、耐えられず体を震わせ始めた。
それは玉座に座る王も例外ではなく、玉座は凍り、肘掛けに置いていた腕も一緒に凍り付いた。
「ぎゃあああああ」
無理に肘掛けにくっついた腕を剥がそうとしているが、掌の皮膚だけが捲れ、出血する。その出血も瞬時に凍りついてしまった。苦悶の表情を浮かべる王を寒さに震える貴族達も気遣いする暇がない。なんといっても自分達もまた極寒の只中にいるのだから。
唯一無事なのが、お茶会メンバーだ。そこだけが安全地帯でアーサー達はオロオロとしている事しか出来なかった。
読んでいただきありがとうございます。




