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真夜中でも気にする事なく王や貴族を召集せよと無茶ぶりをするティアンとそれに一切顔色を変えないグラナトはユーリ達と共に王宮へと移動しようとした。
初めは、アーサーが馬車を用意すると言ったが、これをティアンとグラナトが断った。では、どうやって移動するのかと訝しんでいたアーサーだったが、ティアンが前方に手を翳すと空間が裂けるように開き、なんの躊躇も見せずに向こう側へと歩を進めた。その光景に驚いた一行だったが、グラナトは気にするでもなくユーリ達を手招きして入るようにと促す。アンリ、ユーリ、ガンツ、ナンシーと続き、ゴンザレスの番になったが、
「私は遠慮しておきます。これから先は私には関係無さそうですから」
と断り、グラナトも気分を害する事もなく頷いた。了承を得られたゴンザレスは一礼すると真っ暗な町へと踵を返し、闇に溶けるように見えなくなってしまった。
ゴンザレスの後姿を見送っていたグラナトは今度はアーサーとフィーに視線を移した。視線だけで来るか?と問うグラナトに、
「私も宜しいですか?」
一緒に行くと言うアーサー、そんなアーサーの行動に臣下であるフィーには拒否権はない。一緒に空間の裂け目を潜るともうそこは王宮の謁見室だった。驚いて口をぽかりと開けた間抜けな顔を先に潜っていた面々に晒す羽目になっているが、本人は気付いていない。
アーサーとフィーの後ろでは自身も潜り抜けると手を翳し空間を閉じるグラナトがいる。
灯りが落とされていた筈の謁見の間にはいつの間にか光が点り、部屋全体を明るく照らしている。部屋の奥の玉座にはまだ王は来ていない。貴族達もまだ集まっていないので、部屋にはしんとした空気が漂い、少し空虚に感じた。
「遅いわね」
「仕方ないだろう。人間達には俺達のような力は無いんだから」
伝言を頼んだ筈なのに未だに王も貴族も姿を見せない事に憤慨するティアンをグラナトは仕方無さそうに宥める。
暇を持て余したティアンがまたしても空間を開き、テーブル、椅子、ティーセット、お菓子と取り出した。
「まあ、茶葉は何を使われるの?」
目を輝かせたナンシーがティアンの傍まで行くと彼女が持っていた茶葉を覗き込む。それをガンツがやれやれとした感じでついていく。ナンシーの食に対しての探究心を知っているので、ナンシーがこうなってしまっては止める手立てがないのでそっと寄り添うようにしている。
アンリは近くにいたユーリの手を取ると椅子へと誘導し、着席させる。その隣にちゃかりと自分が座り甲斐甲斐しくユーリの世話をし始めた。
置いてけぼり感を感じたフィーは未だに呆然としているアーサーを促してユーリの隣の椅子へと座らせる。座ってからやっと意識が戻って来たアーサーは隣に座るユーリへとチラチラと視線を向ける。それを反対側でアンリが射殺すような目付きで睨み、あまりに強い視線にアーサーは対抗するようにアンリを睨み付ける。結果としてユーリを挟んで激しい火花を散らす事になり、間のユーリは大変居心地の悪い思いをしている。それをフィーが気の毒そうに見ているという構図が出来上がっている。
茶葉についての雑談を終え、お茶を淹れたナンシーが皆に振る舞い始めた。アンリの隣にティアンが座り、その横にグラナトが座る。ガンツはフィーの隣に座り、カップを配るナンシーをそれとなく助ける。
フルーティーなお茶の薫りを嗅ぎながら、ちょっとした軽食を摘まんでいると謁見の間の扉が開き、続々と貴族達が入室してきた。室内に漂う薫りに気付き、寛ぐ一行を目の当たりにした貴族達は憤慨する。
「何だ!貴様達は!此処を何処だと思っている!謁見の間だぞ!!」
「そうだ!なんでこの様な厳かな場所でティータイムなどしている!!」
「無礼であろうが!!」
口々に叫ぶ貴族にお茶を堪能していたアーサーが顔をあげて彼等へと視線を向ける。
「五月蝿いぞ」
「王太子殿下!?」
素っ頓狂な声をあげる貴族達にアーサーは煩わしそうに立ち上がると、
「此処を何処だと思っている。謁見の間だぞ」
先程、貴族が言った言葉をそのまま返すアーサー。王太子であるアーサーにそれ以上文句を言えるはずもなく、押し黙る貴族達。
静かになった貴族達を見回すとまた椅子へと腰を下ろし、お茶を優雅に飲みだした。
「とんだ老害ね」
「申し訳ありません」
お茶を片手に王太子の手前、悔しそうな貴族達を睥睨するティアンに申し訳なさそうに答えるアーサー。
ナンシーとガンツはすっかりリラックスしているが、それから王が来る事をすっかり忘れていた。
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