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ガンツ、ナンシー、アンリが座るテーブルとへ戻って来たゴンザレスがまた畏まった姿勢で立つ。
「部下からの報告を申し上げます」
「さっきから思ってたんだが、俺に対してだけ他人行儀過ぎないか?もっといつもの砕けた感じで良いぞ」
少し苦笑気味にガンツがゴンザレスの態度をいつものなよっとしたおねぇの態度へと軟化させようとする。
「いいえ、そう言うわけにはいきません」
「そうか?」
しかしゴンザレスは頑なだった。憧れのガンツの前で醜態を曝すわけにはいかないと気を引き締めているのだ。そんな決意溢れるゴンザレスは一際、姿勢を正す。ナンシーはすっかり冷めてしまったお茶を淹れ直そうと立ち上がり、キッチンへと移動する。
「ユーリ嬢が、囚われているのは、ミディアス子爵家との事です」
「ミディアス?」
「はい、ユーリ嬢の力を傾いた事業を盛り返そうとして欲し、更に息子が彼女の事をいたく気に入っていたとの事です」
「ふむっ」
ガンツは考え込むように首を捻り、腕を組むと下を向いてしまった。
「あらあら、ユーリに横恋慕なのね」
「確かに横恋慕だな」
お茶を淹れ直して戻って来たナンシーが朗らかに笑いながら告げた言葉にガンツも激しく同意する。
実際、アンリのユーリへの想いを気付いていないのは本人だけで、周りの人には結構バレている。アンリはユーリへの想いを隠そうとしない事から周りの人々はアンリとユーリとの事を応援しているのが大半で、もう大半が未だにユーリへの気持ちを持ち続けいてて、隙あらばユーリをモノにしようと考えている。
「僕の片想いですけどね」
眉を下げてふにゃりと笑うアンリ。それでも絵になるほどに綺麗な少年。ナンシーとゴンザレスがほうっとうっとりとした溜め息を漏らす。
「婚約者か…」
一人ガンツだけが真剣に考え事中だ。腕を組み、何もない空間を仰ぎ見ている。
「どうしたの?」
「いや、婚約者の手もあるなと。実際、権力者の婚約者がいれば、ユーリに手を出し辛いだろう?ユーリの力を欲しがる奴等が誘拐なんかを企むかもしれんが、権力者の婚約者であれば護衛をつけたりもできるからな」
「そうね」
手を頬につけ、小首を傾げたナンシーがガンツからアンリへと視線を向ける。
「………」
今度はアンリの方が考え込むように長い睫毛を伏せ、目を閉じて下を向く。少しそのままで動かなくなったアンリだったが、ゆっくりと頭を動かし、閉じていた目蓋を持ち上げる。光の加減で様々に色を変える瞳は、紫色だ。照明に照らされた瞳はキラキラと輝き、アメジストのように澄んでいる。
「分かりました。僕が何とかします。だからユーリの婚約者にして下さい」
決然と言い放った言葉にガンツとナンシーは驚愕に目を見開くと直ぐに意思を固めたように真面目な顔に戻す。
「分かった。元々、ユーリの事はアンリに任せようと思っていたからな。俺達の娘だ。大切にしてくれ」
「はい」
「でも、婚約者の話は仮ね。ユーリに無断で婚約関係にしたと言ったらきっと怒るわ。アンリがユーリに話して、了承してくれたらの話ね」
これで、ユーリ本人の知らぬ間にアンリと言う婚約者(仮)が出来た。ガンツもナンシーもアンリが具体的にどうやってユーリの事を婚約者として守るのかを一切聞かなかった。これは二人がアンリに対して、全幅の信頼を寄せているからだ。ユーリの傍でずっと見てきた彼がユーリの事を蔑ろにしたり、傷付けたりするわけないと思っているからだ。その二人の信頼に答えるべくアンリはユーリに自分の秘密を打ち明けて、本当の意味で受け入れてもらおうと考えていた。それもユーリが無事に皆の元に無事に帰って来てからだが。
「それで、これからどう動きますか?」
空気を読んで、黙ったままだったゴンザレスは話が途切れた事で口を開いた。
「そうだな。貴族の屋敷に囚われているとなると平民である俺達にはどうしようもないが…ミディアス家に後ろ暗い所は無いか?」
「あります。領地の収益を低く見積もって、その金を溜め込んでいます」
「証拠も押さえているのであれば、騎士に情報提供し、屋敷に家宅捜索させるか」
「証拠も押さえていますが、ミディアス家の後ろ楯が奥方のアーロン侯爵家となっております」
「アーロン侯爵か…厄介な」
アーロン侯爵は代々王宮に勤める官僚や優秀な騎士を排出し、その資金と人脈で手広く事業を行い、大富豪としても知られている。更に数代前の王の妹を血筋に迎えた高貴な血筋だ。その事で今代の王とも覚えもめでたく、度々治世で行き詰まった時などに意見を求めたりしている。謂わば、雲の上の人物なのだ。彼に手を出せば、王が黙っていないだろう。
「さて、どうしたものか…」
「強行突破とかどう?」
テーブルに肘をつき、両手で自分の頬を包んでいるナンシーがなかぬかに破壊力のある爆弾発言をする。
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