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今日も異世界ライフを満喫中  作者: ツヴァイ
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 ガンツとゴンザレスが会ったのは、まだゴンザレスが小さかった。


 その頃のゴンザレスは、体がとても小さく同年代の子供達と比べると一回り年下にも見えた。ただ、容姿が整っている方だったゴンザレスに同年代の少女達はゴンザレスを放って置かなかった。やたらとゴンザレスに構い、その事で同年代の少年達からは虐められていた。

 毎日生傷の絶えなかったゴンザレス達が住むのは、王都から遠い地にある小さな村だった。その村に祖父母と一緒に暮らしていた。両親はゴンザレスがまだ乳飲み子だった頃に大雨で地盤が崩れた土砂の下敷きになり亡くなった。とても小さな村で村人全員が顔見知りだった。


 その村は自給自足で生活し、たまに村に立ち寄る行商人が珍しく、行商が来ると村全体が大騒ぎするような娯楽の無い村だった。


 それでも毎日恙無く過ごしていたが、村で育てていた作物畑が荒らされるようになった。最初は猪や野犬などだろうと軽視していた村人達だったが、その荒らされる頻度が高くなり、遂に荒らす犯人を村人が目撃する事になった。畑を荒らしていたのは魔獣だった。


 それまで村では魔獣を見た事もなく、どう対処して良いのか分からずに話し合いが成された。その話し合いの結果、冒険者に討伐して貰おうとなった。ただ、村には、お金をそんなに払う事が出来ない。それでも一縷の望みにかけて、ギルドに討伐依頼を出した。


 毎日毎日待ち続けたが、少額のお金で請けてくれる冒険者が現れず、長い間依頼は放置された。その間も畑の被害は増え、たまに魔獣に襲われる村人が出始めた矢先――待ち望んだ冒険者がやって来た。それがガンツだった。着いたその日に全ての魔獣を片付け、さっさと立ち去っていった。


 呆気なく終わった討伐に村人全員がポカンとした表情でガンツを見ていたのを思い出す度にゴンザレスは笑ってしまう程に滑稽だった。


 怪我一つ無く、魔獣を討伐したガンツにゴンザレスは憧れた。その強さにその驕らず真摯な態度に。この時ゴンザレスの中に確固たるヒーローガンツという領域が確立した。俗物ではなくある一種の崇拝に近かった。


 以来、ゴンザレスは毎日体を鍛えた。ガンツに会う為に必死で体作りに取り組み、気付けばゴンザレスは成人していた。小さな体躯だった頃より大きくなり、見事に割れた腹筋にしなやかな筋肉を持つ精悍な青年へと成長していた。


 そんな彼を村の若い娘達が放って置かない。毎日のようにゴンザレスに纏わりつき、なんとか彼のハートを射止めようと懸命にアピールしていたが、ゴンザレスはそれらを丸っと無視して早々に村を出ていった。


 村を出ていった彼が向かったのは、王都にある冒険者ギルドだった。町の賑やかな雰囲気など無視し、性急にギルド窓口でガンツの事を聞いた。窓口にいた受付嬢はゴンザレスに暫し、うっとりと見上げてから我に返り、ガンツは今、依頼中で他国に行っており暫く戻らないと告げた。


 そこでゴンザレスは自分も冒険者になり、ガンツが帰ってくるのを待った。待つ間に様々な依頼を熟し、着実にランクアップして行く頃にガンツは戻ってきた。驚異的な早さでこの時ゴンザレスのランクはBランクまで登り詰めていた。


 ガンツが戻ってきたという、その情報に嬉しくなり、ガンツに会いに行き、以前に救ってくれた村の出身者だと伝えると最初こそ分からなくて訝しげな表情をされたが、ガンツに憧れて自分を鍛え、強くなった。そんな自分を見て欲しくて会いに来たのだと細かく説明するうちに思い至ることがあったらしく、ガンツはパッと表情を変え、あの時の坊主かと言って、嬉しそうにゴンザレスの鍛えられた背中をバシバシと叩いた。


 それは叩かれたゴンザレスも一緒で憧れの人物に覚えていてもらい、尚且つフランクに接して貰えて嬉しくあり、また光栄に思った。それから酒場に移動し、互いのこれまでを話し、パーティーをあまり組まないガンツと一緒に依頼をこなすようになった。


 それだけで他の冒険者仲間からは一目置かれる存在になり、依頼中はガンツの扱きに耐えながら自分を鍛えた。


 ガンツと共に依頼という冒険をして毎日が楽しかった。死にそうな目にも何度もあったが、それでもガンツやガンツを通じて知り合った仲間と馬鹿騒ぎし、戦場で死と隣り合わせの攻防に強者との戦闘に胸を熱くさせる事が楽しくて仕方なかった。


 そんな冒険の日々にゴンザレスはAクラスの冒険者になっていた。


 これからもこの楽しい日々が続くと思っていたゴンザレスはガンツからの突然の引退宣言に真っ白になった。なんとか引き留めようとしたが、予てよりの夢を叶える為だと言われれば、黙るしかなかった。


 仲の良い仲間達と送別会をした。しんみりした空気を嫌うガンツに最後はパッと賑やかな雰囲気のまま送りだった。


 ゴンザレスはガンツの逞しい背中を見ながら泣いた。憧憬から崇拝に変わったガンツという存在に彼の中の中心だった。その存在が居なくなってしまう喪失感に、ぽっかりと穴が空いた。


 その喪失感を埋めようと依頼に没頭し、時に酒に溺れながらも支えてくれる仲間に励まされ、なんとか立ち直る事ができた。その頃には色々な女性に手を出した事で有名になり始めていたので、このままでは面倒な事になると思い、男色家と偽り冒険者を止めた。


 冒険者時代に貯めたお金で店を構える事にした。予てよりの興味のあった服飾関係の店を開いた。開店すると変わった店主の噂と確かな美的センスによって店は繁盛した。


 時々、ガンツがやっている白鹿亭に様子を見に行ったり、仲間だった冒険者仲間を表は従業員として裏では諜報員として雇ったりした。


 充実する毎日に諜報員の一人がガンツが一人の少女を世話し始めたと情報が入った。あのガンツが少女を引き取った。どんな少女なのか興味が湧いた。


 少女の情報を集めさせたが、一向に詳細な情報が集まらない。益々、興味を湧いた。


「どんな子かしら~、一度会ってみたいわぁ~」


 その数ヵ月後にその願いは叶う事になる。直接ガンツから紹介された少女は黒目黒髪の綺麗な少女で、名前をユーリと言った。


 一目で気に入ったゴンザレスはそれからも度々ユーリに構うようになった。


 ガンツの大切な存在を守る為に影で様々な情報を集める事は忘れない。全ては憧れたガンツの為。今日もゴンザレスは日陰からガンツ達を見守っている。



◇◇◇◇◇



 ゴンザレスは部下からの追加情報を待ちながらナンシーが淹れてくれたお茶を飲む。ちらりと横を盗み見ると不安そうなアンリが手元のクッキーを見ている。


 最初こそ男色家と偽っていたが、それがいつの頃からか本当になり、今では同性の恋人が何人もいるようになった。特に線が細く、綺麗な容姿や中性的な容姿の同性に強く惹かれた。元々綺麗な物や可愛らしい物が好きだった事が影響しているのだろう。


 その中で一番のお気に入りがユーリとアンリだ。ユーリは自分の整った容姿にコンプレックスがあるのか着飾ったり、目立ったりする事が大嫌いでいつもシンプルな服装に縛っただけの髪型をしている。そんな彼女が特上の男の子を連れて来た。柔らかそうな銀の髪に角度や光の加減で様々に色を変える瞳、真っ白な肌はキメ細かく滑らかで、長い手足、少年特有の華奢な体躯。精巧に造られた人形よりも整った容姿は芸術的で溜め息が出てしまう程に美しい。儚げな雰囲気に妖精のようだと誰かが言っていたが、まさにそれだと思った。まさにゴンザレスの好みそのままだ。是が非でも手に入れ、愛でたいと思うが、アンリ本人はゴンザレスに見向きもしない。ユーリ一筋でそれがまた眩しくもあった。


「心配ねぇ~」


 いつもの口調に戻ったゴンザレスの言葉にアンリはゆっくりとした動作で見上げると儚げな笑顔で笑いかけた。


「はい」


 今にも不安で押し潰されてしまうのじゃないかと思う程に弱々しい。抱き締めてしまいたい衝動にかられるが、握り拳を作って耐える。抱き締めて欲しい人物はきっとユーリだから。


 するとまた扉を叩く音とゴンザレスを呼ぶ声が聞こえた。徐に立ち上り、扉の方へと歩いていく。アンリの後ろを通る時にアンリの頭を一撫でする。


「きっと無事よ~」


 頭を撫でられたアンリはキョトンとした顔で歩いていくゴンザレスの逞しい背中を見ていた。


 扉の前まで来ると気配を察した部下の男が新たに集めた情報をゴンザレスに伝える。


「隊長、どうやらユーリ嬢は貴族の屋敷に連れていかれたようです」


「それは知っている。その貴族の名前は?」


「ミディアス子爵です。彼の御子息がいたくユーリ嬢を気に入っていたという情報もあります。おそらく妾にでもしようと考えたのではないでしょうか。それとユーリ嬢を拐った事は父親も承知しています。どうやら子爵家

は事業の失敗で傾きかけているようでユーリ嬢の力を欲したものと思われます」


「ふむ」


「それから…」


「まだ、何かあるのか?」


「はい。子爵家は以前アンリ殿に言い寄っていたクリスティーナ嬢の遠縁に当たるそうです」


「また、あのお嬢さんか」


「はい」


「分かった。引き続き頼む」


「はっ」


 ゴンザレスに返事をした部下の気配が扉から離れたのを確認してガンツ、ナンシー、アンリが待つテーブルの方へと早足で向かう。





男も女も好きなゴンザレス。

読んでいただきありがとうございます。

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