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ユーリは朝の身支度を済ませて、キッチンへと向かう。今日の朝食は何にしようかと考え、昨日はガンツとナンシーが遅くまでお酒を飲んでいたのを思い出した。お酒が残っているのであれば、分解と排出を優先する。そこで二日酔いに効く蜆のお味噌汁を作る事にした。
元々この世界では味噌が無かったので、ガンツとナンシーが信頼している商人を紹介してくれた。
商人に頼んで味噌の製造を考えていると伝えると直ぐに職人を連れて来てくれた。この職人はチーズの職人だった。味噌が発酵食品だと言った為であるが、いかんせん異世界の為、味噌を専門にする職人がいないのでユーリは職人と話し合った。まず、味噌を作るにあたり、麹を造らねばならない。
麹の作り方は二種類で別途培養した麹菌胞子である種麹を蒸した原料に散布して製造する方法が一つ。
以前に製造した麹の中から良質なものだけを保存し、新たに麹を製造する際に蒸米に加えて用いる方法とがある。これを「共麹」もしくは「友麹」とも記述し、呼ぶ。
職人とユーリとで試行錯誤をし、なんとか味噌を作る事に成功し、売り出すと珍しい一品として爆発的に売れた。
試行錯誤の際に商人は多額の資金を提供してくれた。ユーリは申し訳無く思っていたが、商人として大丈夫なのか不安になるほどの人のよさで気にしなくて良いのだと言った。
開発者として、定期的にユーリの元には味噌が届くようになった。
その味噌で今日は和食を作った。白米と蜆のお味噌汁、出し巻く卵、焼き魚、デザートにうさぎの形に切ったリンゴを用意した。
蜆のお味噌汁にしたのは、蜆には特に肝臓の働きを助けてくれる必須アミノ酸が各種バランスよく含まれ、更に蜆に大量に含まれるミネラル分も肝細胞の再生や肝臓の解毒作用を活性化させる働きがあると聞いた事があった為だ。
更に二日酔いの体には、まだ体内にアセトアルデヒドが残っている可能性があるので肝機能を促進する食べ物としてグレープフルーツ、リンゴ、柿、卵などが体の復帰を促進する食べ物だったので、デザートにリンゴを付け足した。
アンリに手伝ってもらいながらテーブルに料理を並べ終わり、ガンツとナンシーを呼んだ。二人とも見事に二日酔いになっていたので、二人の分の白米は予め、お粥にしていた。
顔色の悪い二人はゆっくりと食べ始めたのを見届けるとユーリも食べ始めた。
朝食を食べ終えた二人にコーヒーを淹れる。コーヒーなどに含まれるカフェインには利尿作用のあるので、アセトアルデヒドの排出を促してくれる。
カフェインを摂取する際は、コーヒーや緑茶などが効果的だと言われているので今回はコーヒーにした。緑茶は、あまり飲み慣れていないだろうと判断したからだ。
また、コーヒーは肝機能を良好に保ってくれるという作用もあるのだとか。
何故そんな事を知っているのかと言うと以前の世界でユーリの父親がよく接待や飲み会などでしこたまお酒を飲み、次の日には案の定二日酔いになり、周りに当たり散らしたりしていた為だ。
一番の被害者は言うまでもなく、ユーリだった。母親や妹はユーリに父親の世話を任せる事が常で父親と接する機会が長かった。
「うぅぅ、頭痛い」
食後のコーヒーを飲みながらテーブルに突っ伏す二人をそのままに食べ終えた食器を洗うユーリ。アンリはいつものように洗われた食器を拭いている。
ユーリはまだ未成年の為、お酒をのんだ事がないので、二日酔いの辛さが分からない。二人の様子を心配そうに窺う。
「辛い?休む?」
荒いものを終えたユーリが二人に話し掛ける。突っ伏していた二人が顔を上げると起きた時よりも大分顔色が良くなった二人に安堵した。
「大丈夫だ」
「そうね。大分良くなったものね」
テーブルから上体を起こす。言葉通りに顔色の戻った様子にこれが以前、フィーが言っていた料理のバフ効果なのだろう。普通、薬を飲んだりしてもこんなに直ぐに症状は改善しない。
精霊達もユーリにならって二人の周りを心配して飛び回っている。
「大分良くなった。ありがとう」
「心配してくれて、ありがとう。これなら出られそうよ」
二人の本当に感謝している気持ちが伝わり、ユーリの心が温かくなる。二人は当たり前のように感謝の言葉を伝えてくれる。
血の繋がった父親と母親は一回も感謝の言葉をユーリに掛けた事がなかった。感謝されたくて家事をしていたわけではないが、それでも少し寂しかった。
いつまでも前の家族の事でガンツとナンシーを比較するのはやめようと考え、気持ちを切り替えた。
「ユーリ、終わりました」
てくてくとユーリに食器を拭いていたのが終わったと告げるアンリ。ユーリは屈むとアンリと目線を合わせた。
「ありがとう、アンリ。助かっちゃった」
「はい、いつでもお手伝いします」
ほにゃりと笑うアンリの頭を撫でると恥ずかしそうに頬を染めた。
「ユーリ、ユーリ」
自分を呼ぶナンシーに振り向くと何故かニコニコしている。なんだろう、と首を捻る。
「ちゅっ」
隣に座るガンツの頬にキスするナンシー。途端にガンツが赤面して目を見開き、呻く。
「お礼のちゅっ」
と言いながら唇を尖らせて、自分の人差し指で唇に触れる。
最初はあまりの衝撃に固まっていたユーリだったが、ハッと気付き、アンリを見た。
するとガンツ同様に可愛らしい頬と耳を真っ赤に染めたアンリがいた。
更に伝染してユーリまで真っ赤になった。心拍数と体温がどんどん上がり、居たたまれなくなる。
「えっと…」
「ん」
どうしようかとアンリに聞こうとしたら目蓋を閉じてまだ真っ赤な頬をユーリに差し出している。
催促されていると分かると更に心拍数が跳ね上がる。何故か左右を見て、恐々とアンリの頬に自分の顔を寄せていく。触れるか触れないかの距離まで近付くとそっと目蓋を閉じる。
「ちゅっ」
アンリの柔らかい頬に自分の唇を押し当てると閉じていた目蓋を持ち上げた。するとアンリの目と目が合ってしまい、お互いが固まる事になった。
真っ赤な頬に潤んだ瞳のアンリは幼い少年に似つかわしくない程の色気がある。そんなアンリの瞳の中には同じように真っ赤になった自分が映っていた。
「次はさらっと出来るようにならなきゃね」
ふふふっと笑うナンシー。隣では両手で顔を覆っているが、その両手の隙間からは未だに顔と耳までを真っ赤にさせ、恥ずかしがっているガンツがいた。
~アンリがモリス夫妻の養子になるのを断った理由~
ナ(ナンシー)
ガ(ガンツ)
ナ「え?ユーリが好きだからでしょ?」
ガ「え?そうなのか?」
ナ「そうよ。あれ?気付かなかった?結構分かりやすいわよ」
ガ「成る程、養子になったらユーリは姉になるからな。結婚できないな」
ナ「結婚て、随分極端ね。そこは恋人でしょ」
ガ「ユーリは可愛いからな。直ぐに恋人が出来るかもな」
ナ「アンリがいるから大丈夫よ。アンリはユーリを誰にも渡さないわよ、きっと」
ガ「本編の方では、アンリの事を諦めない、お嬢ちゃんがいるが大丈夫か?二人が心配だな」
ナ「本編とか言っちゃ駄目よ。でも、そうね。心配ね。特にアンリが暴走しないか心配よ。あのご令嬢、勝手に婚約者だとか言ってたわよね。妄想にしても行き過ぎたと思うの」
ガ「婚約か…」
ナ「いっその事ユーリとアンリを婚約させちゃう?それなら二人に悪い虫が近付かなくなるかも」
ガ「ユーリとアンリが結婚して子供ができたら俺達はおじいちゃんとおばあちゃんだな。是非に『じいじ』『ばあば』と呼んで欲しいものだ」
ナ「話が飛躍し過ぎよ。帰ってきてぇ」
ガ「二人の子供はきっと可愛いぞ」
ナ「お~い」
読んでいただきありがとうございました。




