桜の話。
桜の話。
桜。
薄紅色の小さな花の可憐さと散り際の儚さ。何故か日本人の心を鷲掴みにしている樹木。平安の御世から歌に詠まれてきたのです。愛され方も半端ありません。
花を見に現地に赴いてしまうのは、恒例行事だからとしか言いようがないと思います。
冬の厳しさからの解放と春の訪れを実感するのですから、浮かれても無理はないと思うのです。楽しまなきゃ損だとも。
とある春。
家に祖父と私しか居ない長閑なある日、桜の開花が発表されました。雪深く長き冬も終わりを告げつつあった頃です。肌寒さはあるものの、出掛けるのに何ら問題はありません。
地元には桜の名所が彼方此方にありますから、ドライブには最適なのでした。何処に行くかと話し合い、高台にある公園に向かう事にしたのです。
花見客で混雑しているかと思いきや、駐車場は閑散としていました。咲き始めだから人がいないのかと首をかしげつつ、祖父と私は坂道を登り、高台に植えてある桜の木々を見たのです。
……晴れているというのに、何故か薄暗い公園。青々とした若葉が風に揺らいでいました。
えっ、花はどうしたの。何故見当たらないのかな?
「……場所、間違えた?」
「……いや、ここの筈だぞ」
場所が間違っていないならば、この惨状はどうした事でしょうか。
公園の売店の方に聞きました。
「鳥が花を全部落としてしまったので、この有り様なのですよ」
……犯行を行ったのは鳥でした。
店員さんの顔色は青く、具合がわるそうに見えます。お団子の売上がた落ち。笑うに笑えないといった所でしょうか。
私たちは、いたたまれなさから団子を購入し、車に戻り帰路についたのでした。
次の休みの日。他の名所に向かいました。お昼過ぎなので焼きそばや団子を購入し、敷物を敷いて二人でのんびりと花見を楽しみました。
と、強い風が吹き辺り一面が薄紅に染まります。桜の花びらが舞い散りました。『これぞ桜吹雪』という位の幻想的な光景が広がったのです。
あまりの素晴らしさに私たちは言葉もなく魅せられたのでした。
それはまさに、時よ止まれと願う程の美しい瞬間でした。




