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スキーの話。

 スキーの話。


 小学二年生の冬。

 近くのスキー場に叔父と我が家の皆で行きました。祖父は家で留守番です。


 三十分程、なだらかな場所で練習した後、早速リフトに父と叔父、私と弟の四人で向かいます。

 リフトから降り、さあ始めるぞ、と目の前の初心者コースを見つめました。


 運動が苦手な私と得意な弟に、父と叔父は『こうやるのだ』という見本を見せてくれたのです。

 ある意味丁寧。しかしぶっつけ本番な分スパルタなのであります。やらなければ出来ない。ようは慣れだとばかりに、

「着いてこい」

 と言うのです。私たちは言われるがまま着いていきました。

「直滑降は危険だ。だから斜め横に向かってスキー板を八の字にして進む。こうするとスピードは出ないだろ?」

「いいぞ、その調子」

 と、二人は言いました。

 私は危ないと思う度に倒れ、父や叔父に助け起こしてもらいました。


 練習の成果か、偶々か。

 私に対し、取り敢えず『何とか出来てはいる』との評価を父たちは下したらしいです。そして少しだけ先に行って休んでいるように、と指示を出したのでした。

 下を見れば、一息つけそうななだらかな右カーブが見えました。そこまで行こうと、ゆっくり滑り出したのです。


 が、方向転換に失敗しました。

 どう頑張ってもスキー板は横を向かず、気がつけば正にこれぞ『直滑降!』とばかりに滑り出しました。かなりのスピードに倒れることさえ出来ません。

 止まる為なのに、倒れる方が怖いとはどういう事でしょうか。助けを求めようと振り向きました。しかし父たちは、弟の指導にかかりきりで全く私を見てはいないのでした。

 声にならない悲鳴とはこんな感じかと、いつも思うのです。ただただ前を見、このままではカーブを曲がれない!転落するよね!と恐怖したのです。


 ……人は必死になると何とかしてしまうのですね。

 奇跡的に右に曲がれました。曲がりきれず転落という最悪の事態は免れました。ゆるゆるとスピードが落ちて、あと少しで止まるだろうと、ほっとしたのもつかの間。

 私は目の前の雪の壁に埋りました。完全な事故です。

 自力では抜け出せません。固そうな壁だし、ぶつかったら痛いだろうなと思っていたのに、全く痛くはないし息も出来ます。

 ふんわりとした雪の壁の中で、父たちは私に気付いてくれるだろうか、と泣きたくなりました。


 すると、誰かが私の脇の下に手をおき、壁から引きずり出してくれたのです。私は父かと振り向き、動揺しました。

 その人は背の高い、若いお兄さんでした。彼は私の頭や肩についていた雪をやさしく払い落としてくれたのです。私が小さな声で、

「ありがとう」

 と呟くと、彼は颯爽と私の前から去りました。


 その後、何も知らない父たちに事のあらましを私が語るとびっくりし、苦笑いしたのでした。


 子供が雪の壁に突き刺さっているのを見たお兄さんは、さぞかし驚いたでしょうね。面白いものを見てしまったと未だに記憶されているかも知れません。

 ですがあの日、お兄さんはゴーグルをつけていて、しかも逆光のせいでその顔には影がかかり、私からはよく見えませんでした。

 名乗らず去って行ったお兄さんは、とても格好よかったのですよ。


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