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ステーキの話。

 ステーキの話。


 ある日旦那様は、

「高い肉が食べたい!」

 という、心の叫びを吐露しました。侘しい食事を食べさせていたつもりはありません。が、鬱憤が溜まっている彼を見て、ああ、よっぽど疲れているんだなと思いました。

「食費からは無理だよ」

 私はすげなく切り返しました。旦那様の望む高い肉とやらが何であれ、無理なものは無理なのです。望みをあっさり叶えてはあげられないのです。

「俺が出す。ステーキが食べたいんだ!食いに行こう!」

 否やはありません。御相伴に預かろうではないですか。


 旦那様が連れていってくれたのはとあるホテルのレストランでした。目の前で高い牛肉を焼いてくれるのです。


 私はなんて小心者なのだろうかと思いました。場違い感が半端ありません。落ち着かない気分でシェフの手元を見、目の前に広がる夜景を見ます。楽しむ?そんな心の余裕はありません。

 てっきり少々高かろうとも、まあこのくらいなら手頃な値段だよね(それでも主婦目線では高い)といったレストランに行くものだと思っていただけに、『旦那様の本気』がハッタリでは無いのだと、遅ればせながら気付いたのでした。


 前菜に感動し、『こんなに高いお値段で、しかも美味しいとか、どうしよう』と少々混乱していました。小声で旦那様に

「美味しいよ。うん、美味しいよう」

 と呟く私はさぞかし鬱陶しかったに違いありません。美味しい以外の誉め言葉が全く浮かびません。

「此処にはね、前に友人と来たんだ。肉が食べたいって奴ら言うから、此処なら間違いないだろうってさ。そのうち嫁さんも連れて行こうと思っていたんだ」

 私とは場数が違うんだぜ!とでもいうような旦那様の落ち着いた態度が眩しいのです。


 シェフは

「ステーキをどうぞ」

 と食べやすいサイズに切り分けてくれたステーキの皿を置いてくれました。旦那様のより小さめに切ってくれるあたり、女性に対する気遣いがありました。格好いいのです。仕事の出来る男の見本のようでした。(まだ混乱中)


 ぱくり、と食べました。

 旨すぎて恐ろしいのです。高い牛肉が口の中でとけていくのでした。ほう、とため息がこぼれます。

「お、美味しいよう。どうしよう、美味しいよう」

 さっきからそれしか言葉になりません。こんな幸せでいいのだろうかと不安になる程に。


 時々あのお肉の味を思い出しては幸せになります。ああ、また連れていってくれないかなぁ、美味しかったな、と。


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