編み物の話。
編み物の話。
小学生のある冬の日。母が薄い桃色の可愛い手袋を編んでくれました。
私はちょっぴり編み物に興味がでました。かぎ針編みから始まって、棒編みを教えて貰って編んでみました。
編み目が雑過ぎて歪なものになりました。失敗しても自力では直せないのです。
「最初なんてそんなものよ」
と母に手直しをお願いするとそう言われました。
中学生の冬のある日。母はかなり大きめなセーターを編んでくれました。
あれから毎年冬になると暇潰しを兼ねて編み物の練習をしてきました。
歪ではあるものの、マフラーくらいなら作れるようになりました。いつかはセーターを作れるようになるといいなと、ぼんやりと思うようになりました。
高校に進学する頃には、帽子を編みたいと輪編みに手を出しました。地道に頑張ってきた結果、結構まともなものが作れるようになったなぁとしみじみと思ったのです。
秋も終わりかけの頃。そろそろ編み物がしたいなと思いました。どうせならと旦那様に、
「マフラーとか作ろうか」
と言うと、
「いらない」
とすげなく断られました。要はあるから必要ないのだと。旦那様は物持ちの良い人なのでした。
私の作ったものなんて身につけてはくれなさそうだな。とちょっぴり不貞腐れていたのです。
寒さが身に染みる冬。旦那様は背が高いせいかとても寒がりで、手や足の先などが驚く程冷たいのでした。
「そんなに寒いなら温かい靴下とか、はけばいいんじゃないかな」
と言うと、旦那様はちょっと困ったような顔をしました。
「家の中でまで靴下をはきたくない。締め付けられているのが嫌だ」
気持ちはわかります。
ですが冷えてしまって、体が不調に陥るというのは本末転倒ではないかとも思いました。
要は締め付けないけど温かい靴下があればいいのです。
「毛糸の靴下なら良いかもね。作ろうか?」
一も二もなく旦那様は頷いたのでした。
試行錯誤の結果、アクリル百パーセントの毛糸が一番良いと理解しました。……モップ代わりにもなるんだぜ!とは口が裂けても言えません。滑りやすいので危険ですから、スリッパは必需品です。
旦那様は至極満足したようでした。
以来、毎年冬になると私は最低三足靴下を編むのです。彼は見事な迄に履き潰してくれるからです。一度だけ、
「セーターは作らないの?」
と聞かれました。
「靴下に手が回らなくなるよ」
と答えました。すると旦那様は、
「それは困る。靴下無いと生きていけないじゃないか。嫁さんは靴下だけは編まないといけないのだからね。何があろうと」
本当に、本当に困るんだよ、としみじみ言うのです。
……大袈裟では無いですかね。




