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無花果の話。

 無花果の話。


 秋。数ある美味の中でも一番好きなもの。

 それが無花果の甘露煮です。

 あれだけ甘いのです。心ゆくまで何個も食べられないのが残念です。が、毎日一つずつ食べて幸せを噛み締める時、ああ、生きていて良かったなと思うのです。

 今回はそんな無花果の話です。



 ある日、畑の片隅に見覚えの無い木がありました。

 何だろうかと祖父に聞いたら、無花果の木だと言うではないですか。どうも近所にある無花果の木の枝を貰ってきて植えたらしいです。親切なご近所さんのお陰で、我が家は無花果の木を手に入れたのでした。

「大きくなったら食べ放題だ。お母さんに甘露煮作って貰えるね」

 小学生の私は、甘いものが好きな祖父とニコニコ笑いあいました。


 それから数年後、木は大きく育ちました。もう楽しくて仕方がありません。始めは少しだった収穫量でしたが今では沢山なのです。

 明日は収穫だな。とニマニマしながら眠りました。


 チュチュン、チュンチュン。チュチチチチ。

 何処からか鳥の囀ずりが聞こえます。朝だねーと清々しい気持ちになりました。


 ……祖父がやけに眠そうでした。茶の間でボーっとしています。

「無花果の木が鳥の襲撃をうけてる。早朝から煩くてかなわん」

 な、何ですとー!

 慌てて祖父の部屋の窓を開けました。ここからは無花果の木が見えるのです。

 流石にもう鳥はいません。が、確かに食べられています。無残な姿でした。

 しかしよく見ると人の手が届かない木の上の無花果だけ食べられています。

 家族皆で慌てて無花果を収穫します。私の無花果がーとは思いましたが、わりと量がありました。

 ホッとしたら鳥に分けてあげてもいいかな、と思うようになりました。

 鳥が狙うくらい美味しいのなら、さぞかし甘露煮にしたら旨かろう。と想像したら早く食べたくなりました。そんな私の気持ちを読み取ったのか、母は早速台所に向かったのでした。



 それから数日の間無花果の木は鳥の襲撃をうけ続け、祖父が憮然とする日々が待ち受けていました。

 その時は鳥も必死だね、等と笑い話のネタになりました。が、それが毎年となると笑えません。

 秋になると私たち一家と小鳥たちの無花果争奪戦が始まるのです。それはかの木が病気になり、伐られるその日まで続きました。



 おまけ。


 実は、最近まで祖父が貰ってきて無花果の木を植えたことを知りませんでした。

 祖父は言いました。

「勝手に此処に生えた」

 と。無知な私は『へえ、そうなのか。凄いな』と鵜呑みにしたのです。

 そもそも畑の片隅、つまり誰の邪魔にもならないような場所に勝手に生える筈もなく。無花果の木がたった一日で五十センチも成長するのでしょうか。

 ……無知とは恐ろしいものです。

 おそらく祖父は冗談めかして言ったのでしょう。ですが私はそれを信じてしまったので、今更植えたとも言えなくなったのでしょうね。

 ……だって、冗談や洒落を言うような人じゃなかったんだもの。真顔で言われたら信じちゃうのも仕方がない……ですよね?


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