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刺身の話。

 お刺身の話。


 私は焼き魚、煮魚は食べられますが生魚は食べられません。

 あの旨いという『とろける』感覚が苦手です。どこまでも存在感が全く変わらないあの生々しさ。喉を過ぎるまでとても長く感じます。

 どこら辺が美味しいのか全く理解できません。

 焼けばいいじゃないか、煮ようよ旨いからとお刺身を見る度思います。

 お寿司?生魚以外のを食べます。

 子どもだねと笑われます。

 家族が食べるのは構いません。旦那様はお刺身が大好きですし、よく食卓にあがります。私の分だけお刺身を煮てみたり焼いて食べるので気にしません。



 そんな私には、ある思い出があります。


 高校の修学旅行の食事です。

 一日目の昼、刺身定食でした。しかも蛸の酢の物付きです。泣きそうになりました。が、我慢して食べました。焼き魚にしてよとぶつぶつ呟きながら、一応完食しました。

 夜は鍋でしたが、少し刺身がでました。友人にお願いして食べてもらいました。

 二日目、三日目。必ず昼か夜に刺身が現れるのです。友人は助けてくれません。頑張れ、と軽く言います。


 せっかくの修学旅行を思い出すとき、真っ先に浮かぶのが『刺身』なのです。わかりますか、この苦痛が。楽しい修学旅行の思い出の始めにくるのがこれですよ。他が霞むのです。

 私は生まれも育ちも海の側です。確かにその地域でしか食べられないお魚もあるでしょう。大概の人が言うのでしょうね。一番美味しい魚の食べ方は刺身だと。しかしそうじゃない人もいるのです。焼き魚、煮魚最高ではないですか。


 最終日にまで姿を現した時には、思わず殺意さえ芽生えました。

 ふっざけんな。新鮮な魚なのはよーくわかった。だがな、他にも食べ方ってもんがあるだろうが。

 イライラしながら食べました。


 友人は何も言いませんし、私と目をあわせようとはしませんでした。私が刺身が食べられないことは初日の昼には皆が知っていましたから。寧ろかなり我慢したと思ったのではないでしょうか。


 食べ物の恨みは恐ろしいのです。中華料理とかもありましたし、刺身だけしか無かった訳ではありません。ですが思い返してみてもそれらがどんなだったのか、わからないのです。

 食べられないからと我が儘を言うつもりは無いけれど。それでも。これはあんまりです。悲しすぎるのです。

 だって、迎えに来てくれた父に語って聞かせた修学旅行の話がまさか、

「刺身なんて嫌いだ」

 から始まるのですよ。酷くないですか?


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