コーヒームースの話。
コーヒームースの話。
私はコーヒーが飲めません。
正確には飲めなくなった、というのが正しいです。
小学生の時コーヒーの飴に、はまりました。お小遣いで買っていつも好きな時なめていました。
中学高校と甘い缶コーヒーを飲むようになりました。美味しいのです。
大人になって運転中眠気覚ましに甘い缶コーヒーを飲みました。突然目眩がしました。運転中にです。幸い母がいましたから運転を代わってもらい事なきを得ました。その時は何故かわかりませんでした。
数日後同じ缶コーヒーを飲んでわかりました。今までコーヒーを摂取しすぎたのだ、と。ふらふらする体で、ああ、もう私はコーヒーを飲むことはできないのだとがっかりしたのです。
以来コーヒーを摂取するのを止めました。体を損ねてまで口にするのは無意味です。
「これ作れない?」
旦那様が新聞片手に言いました。新聞にはコーヒームースとあります。詳しいレシピが書いてあり、さほど難しくはありません。
しかし私が食べられるかはわかりません。
「……作れる。食べたいの?」
旦那様は私がコーヒーを飲めないのを知っています。それでも尚、食べたいと言うのであれば作ろうではないですか。
頷いたので次の休みに作ることにしました。
作りました。ほのかに香るコーヒーの匂いが『俺は旨いぜ!』と主張しています。コーヒームースを皿にのせ、生クリームをホイップしたのと飾りのチョコをトッピングします。
これはコーヒーだけではないです。牛乳、生クリーム、卵白、砂糖が入ってるのです。だから大丈夫かもしれません。なんて自分に言い訳します。
ようは、何があろうと私も食べたいのです。体がだるくなろうとも、そこには間違いなく美味しいスイーツがあるのです。
何年コーヒーを飲まずに我慢してきたでしょう。コーヒーが美味しいのは知っているのです。
旦那様は無言で食べています。
ああ、美味しいのですね。そうですか、旨いですか。
私は覚悟を決め、一口、二口とムースを口に運びます。
ああ、なんて久しぶりなこのコーヒーの味。かなり薄まってはいるけれど自己主張の激しさはなんてなつかしい。やっぱり君は美味しいね。
体がだるくなります。ですがほんの少しだけです。
ああ、この程度ならば少しだけなら食べても大丈夫。私はまた、コーヒーを楽しめるのだと嬉しくなりました。
私はその事が本当にとても嬉しかったのですよ。




