5品目
「吉田君は? 今、サラリーマン?」
と広永が聞いたので、
「あー、就活中」
と吉田は答えた。
無職と言うのはきまりが悪かったが見栄をはっても仕方ないし、と吉田は思った。
「ふーん」
「そう……」
と返事をしかけた時に、背後から膝をカックンとやられた。
「え?」
不意打ちだったので、がくっと身体が崩れ落ちた。
「吉田君!」
広永が手を出して腕を掴んだので、転ばずにはすんだ。
道端で立ち話をしていたので、転べば車道に飛び出ていた。
金曜日の深夜の繁華街は車の通りも多い。
吉田が振り返るとニヤニヤ顔の男がいた。
顔が赤く、酔っ払っているのは確実だった。
「先輩……」
吉田の勤務先の男で、今日の昼に吉田に暴言を吐いて私物を放り出した先輩社員だった。
「よ! 何やってんだ? バイト先、見つかったか?」
ぎゃははと下品な声で笑う。
「お前みたいなのろま、雇ってくれるとこないぞ!」
先輩社員は真っ赤な顔で吉田を指さした。
「そうですね」
とだけ吉田は返した。酔っ払い相手にどうこう言っても仕方がないし、この先輩社員はすぐに手が出るタイプだからだ。
「なんだぁ? てめえ!」
酔っ払った先輩社員は吉田の肩をどんっと突いたが、すぐ側でじっと見ていた広永の視線に気が付き彼を睨みつけた。
広永は瞬きもせずに真っ直ぐ男を見ていた。
そこに表情はなく、無機質で黒い二つの瞳だった。
「け、警察、呼んだから」
と広永が言い、携帯電話を手に持って見せた。
吉田は驚いて振り返り、先輩社員はけっと言ってから二歩ほど下がった。
「ったく、しらける。クズの仲間はクズだな」
先輩社員は吉田と広永を睨んだ。
いつもならばその睨みにびびる場面だが、広永の口答えに驚いた吉田は睨みを無視した。
先輩社員はペッとつばを吐いて背中を向けた。
「広永、助かったよ。ありがとう」
広永は頭をかいて笑った。
「あの暴力男に怯みもしないなんて、お前すげえな」
「た、たいした事ないよ。暴力男って言っても、素面になれば普通のサラリーマンだろう? 警察沙汰なんてびびるって」
『喰ってやろうかぁ』
酷く低い声がした。ガラガラとして聞きづらい声のような音のような。
その瞬間に寒気がした。寒いというより、冷たい。
「え? 何か言ったか?」
「う、ううん、なんでも……あ、そ、そうだうちの店長に対処方を教えてもらったんだ。繁華街だし、酔っ払った客は多いし、危ない職業の人間もうろついてるしね。ぼ、ぼくはよくからまれるから」
えへへと広永が笑った。
「へえ」
「凄いんだよ、店長は。そもそも引きこもってた僕が家から出られたのも店長のおかげだし……僕を人間から助けてくれた」
おかしな言い回しだとは思ったが、吉田はそれを追求しなかった。
「そうか、助けてくれる人に出会えたのはラッキーだったな」
「あ、なんなら吉田君もうちのスーパーでバイトしない? 今、就活中なんでしょ? 吉田君なら大歓迎だよ!」
「あ、ああ」
確かに就活中だがバイトじゃなく正社員を目指している。しかしバイトしながら就活も手かもしれないとも思う。
「じゃあさ、明日、来なよ。店長に紹介するから」
と広永が言った。




