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24時間スーパーですが。  作者: 猫又


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4品目

「いらっしゃいませー、袋どうしますかー」

 とレジに立って言ったのは広永だった。

「あ、広永! 今日は入ってたんだ」

 と吉田は声をかけた。

 広永は吉田へ視線を向けたが黙って商品をスキャンした。

「1950円ですー」

「あ、ああ、袋もお願いします」

 吉田は二千円を差し出して釣り銭トレイに置いた。

「お釣りですー、ありがとうございましたー」

 と広永は45円をトレイに置き、袋をカゴに入れた。

「あ、あ、どうも」 

 吉田はそう言ってカゴを手にレジを離れた。

 相手は仕事中だから何度も話しかけるのは躊躇う。

 仲のいい友人というわけでもなかったし、積もる話があるわけでもない。

 一度レジの方へ振り返るがすでに広永の姿はなく、別の人間に変わっていた。

 品物をレジ袋に入れて、吉田は店を出た。

 繁華街にある24時間スーパーは夜中でも人が絶えず、例えばつまみを切らしたスナックの嬢や、ミネラルウォーターを切らしたクラブの黒服、ちょっとした足りない材料を求める居酒屋の板前などがやってくる。

 今日は週末の金曜日の夜だからか、通りにも人の群れで歩道いっぱいに広がっている。

「むなしい……こんな夜に無職でぼっち飯とか」

 吉田は呟いた。

 かといって誰かを誘って飲むというのも、その誰かが頭に浮かばない。

 ため息をつきつつ、店を出た所で声をかけられる。

「よ、よしだ君」

「え?」

 振り返ると、広永が立っていた。

「広永」

「よ、よしだくんだよねぇ」

「あ、うかつに声かけてすまんかったな。勤務は終わったのか?」

「よ、よ、よしだ君」

 広永が笑った。

「広永、久しぶりだな、げ、元気だったか?」 

 広永の目は自分を見てうるようで、遠くをみているような感じもあった。

 あの頃は物静かで綺麗な顔の男の子だった。だが今は、にへらと笑う口元も合わない目線も、なんとなくうすら怖い。


「ああ、そうだよな……あの頃、俺は何も出来ないで、今更、声をかけてごめん」

 吉田は学生時代を思い起こした。

 広永とは別グループで、彼は大人しい二、三人の友達といた。

 広永が不良グループに目をつけられいじられ始めた時、そのいじりの影響を受けるのが怖くて友達も離れてしまった。もちろんクラスで広永を気の毒に思う連中もいたが、彼を虐める不良は質が悪かった。狂ったように教室内で暴れ破壊し、目標となった生徒には殴る蹴る、止めにはいった教師にも恫喝し、暴れる生徒だった。

 誰もが恐れ、どうにも出来ない不良だった。

「い、いいんだ」

 広永はにやっと笑って、

「い、今、や、山本君がどうなってるか知ってる?」

 と言った。

「……ヤクザにでもなってるんじゃないか? 暴力ふるってる所しか見た事がないし」 

 と吉田は言った。

「あ、当たり」

「マジで?」

 広永は嬉しそうに笑った。

「み、観る?」

 広永はポケットから自分の携帯電話を取りだし、画面を操作した。

「ほら」

 そう言って広永が吉田に見せたのは動画の録画画面だった。

 広永の指が画面に触り、動画が動き出す。

 場面は病室のようで、ストライプのパジャマを着た老人がベッドに寝ている。

 痩せ細り、枯れ木のような腕は前で固定され、拘束服を着せられている。

 口にも器具が入り、呼吸は出来るが言葉を発するのは難しく、うーうーとうなり声が聞こえる。身体を揺らしてどうにか動こうとしているが、がっちりと拘束された身体は小刻みに揺れるだけだった。

「え、これ……何」

「や、山本君だよ」

 ふふふと笑う広永に吉田は少しだけ違和感を感じた。

「もう、一生出られないんだよ」

「そんなに悪いのか?」

「うんうん」

 吉田は動画画面に顔を寄せた。

 よくみると痩せこけた顔の右眉毛部分に傷があった。

 それは学生時代に喧嘩に明け暮れていた山本にあった傷だった。

「こんなに痩せ細って、気の毒だな。昔は凄くむちゃくちゃで悪かったけど、まだ二十代でこんな病気になるなんて」

 と吉田が言った。

「き、気の毒? 自業自得じゃない?」

「あ、まあ、そうだけどさ」

「吉田君はそこそこだったからね」

「そこそこ?」

「そう、そこそこ勉強も出来て、そこそこ運動も出来て、そこそこ友達もいて、目立ちはしないけど、そこそこの輪に入ってる人。学校にはそこそこの人が一番多い。最上級は山本君みたいな暴力者、そしてそこそこの階級、そして、て、底辺は勉強が出来ないとか、貧乏とか、顔が気に入らないってだけで暴力をふるうんだ」

「……」

「僕以外にも虐められてた同級生は結構いた。山本君は暴力と狂気の塊みたいな男だったけど、被害者が結託しないように別々に虐めるんだ。暴力しかない能なしだと思ってたけど、結構考えてたんだね」

「そうか……」

「この動画を見せたらみんな喜んだよ」

「そ、そうなのか?」

「うん、金を脅し取られたり、殴られたり、使いっ走りだったりね、みんな結構、やられてたからね。こいつ高校中退して、ヤクザの使いっ走りみたいなチンピラだったんだけどね。昔の同級生を脅して金取ったりしててさ、詐欺、窃盗、暴力、中には身体に障害を負ったり、亡くなった人もいたんじゃないかな。だから、みんなせいせいしてるんだ」

「そっか、そうだよな。酷い目に遭ったもんな」

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