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現実だった。

 

 衝撃的な三人と出会った航が、思考停止状態から抜け出したのは、社宅に着いて部屋着に着替えて使い慣れた座椅子に座ってからだった。


 あれは何だったんだ。


 驚き過ぎて顔がはっきり思い出せないけど、とにかくキラキラして派手な美形が三人いた。美術工芸品とか大型の野生動物とかみたいな、一般住宅に居るのが不可解な雰囲気で現実感の無い美形だった。


 モデルか何かやってる芸能関係の人かも。


 住んでる所も凄かった。テレビで紹介される豪邸みたいなLDKがあった。明るくて天井が高くて、あちこちがキラキラしていて、大きなキラキラした石とか高そうな壺とかもあったような気もする。そんな日常離れした空間で、割烹着を着た観音像っぽい人から朝ごはんを頂戴(ちょうだい)した。


 あの出汁茶漬け美味しかったなぁ。


 紹介が無いと入れない高級料亭で、ン万円もするコースの最後に出されてそうなお品だった。


 あれで二日酔いも治ったもんなぁ。凄い。


 割烹着を着た観音像っぽい人は、元料理人なのかもしれない。他には、何か艶っぽい赤い人と何か鉱石みたいな印象の白い人がいて、何か色々聞かれて答えた気がするけど内容は思い出せない。


 俺みたいな人間があんな凄そうな人達に何話したって直ぐに忘れられるだけなんだから、別に思い出せなくてもどうでもいいや。


 航はなんとなく夢の中にいる感覚で座椅子から動く気にならずにぼんやりしていた。

 携帯が鳴った。反射的に通話にする。

垣越かきごえ明月(あかつき)です。そちらは三浦航さんで間違い無いですか。」

 若い感じの落ち着いた男性の声。

かきごえあかつき?って誰だろ?

「すみませんが、何かの勧誘とかですか?」

「失礼だな、一晩泊めて朝食出して、会話の流れでとはいえ雇用の話しもしたんだけど?」

「すみません!」

 多分あの現実味の無い白い人だ。


 現実の人だった。本当に会ったんだ。


「こちらに住み込みで働いて貰うって話しは記憶にある?」

「誠に恐縮ながら、そちらで何を話したのかあまり覚えておりません。」

「ああ、なるほど。妙に自然体だったのは意識が飛んだままだったのか。」


 何かを納得されてしまった。


「昨晩、三浦さんが泥酔して路上で寝ていたのを拾った垣越明月かきごえあかつきだ。こちらに雇われる気があるなら住居も提供する。仕事は住み込みで留守番からになる。さて改めて確認だ。そちらは、三浦さんはどうしたい?」

 どうしたいって言われても。

「あの、一つお聞きして良いでしょうか?」

「ん?」

「どうして雇ってくださるんですか。泥酔して路上で寝ていた退職者なんて普通は避けますよね。」

「そうだな。まあ、三浦さんは覚えて無いらしいが、路上で寝てた原因だとか退職理由だとかは話を聞いた。悪環境に居て悪意に染まらない人間は珍しいんだよ。そんな頭の硬い善人なら雇っても大丈夫だろうって事になったんだ。」


 善人だからって言われるのは少し嬉しい。


 それにに、[頭が硬い]を褒め言葉で使われたのは初めてかも知れない。今までは、融通が効かないとか発想力に乏しいとか情が薄いとかの悪い意味合いで言われてきた。頭が硬いのは持って産まれた短所でどうにも出来ないと諦めていた。でも、それを褒められた。肯定して貰えた。


「ありがとうございます。働かせて下さい。」


 嬉しい。やっぱり良い人なんだ。この人のために何かしたい。働かせて欲しい。素直にそう思える。


「まだ仕事内容も説明して無いんだけど、本当にいいの? 断らないの?」

「大丈夫です。」


 この縁を逃したら駄目な気がする。


「害は無いんだよなぁ。妙な身内も居ない。厄介な縁も無い。意外に守りが固くて情報の扱いも悪くは無い。素直だから教えられた事はそのままやる。学生時代に空手道場に通っていたから、荒事に巻き込まれてても逃げられる程度の基礎はあるのか。」

「今朝、そちらでそんな事まで話したんですね。なんか少し気恥ずかしいですね。」

「いや、学生時代の話しとかはして無い。辞めた職場の関連と個人的な好き嫌いだけだった。」

「えっ? なら、なんで?」

「雇うと確定したから言うけど、職種が興信所だから。大抵の事は直ぐに分かる伝手がある。取り扱う商品が情報だから、雇う人間も守秘義務を守れるのが最低限必要なんで調べさせてもらった。三浦さんは、その最低限を偶然にも満たしているんだよな。」

 

 あれ? 何となく胡散臭うさんくさいかも?


「心配しなくても法令は遵守してる。犯罪に加担することは無いし、警察とかには寧ろ協力する方だから疑わないでほしい。」

「漫画とかアニメの中みたいな仕事って現実に本当にあるんですね。」

「まだ誤解してるな。多分、三浦さんが想像したよりも地味だぞ。」

「そうなんですか?」

「まあ、実務は地味だな。殺人事件で警察が外部に推理を依頼するなんて現実には無いからな。」

 笑われてしまった。でも警察に協力って言われたらアニメとかの名探偵しか想像出来ない。

「まあ、やって貰えば分かるし電話で話すことじゃないから、今は仕事内容の詳細説明はしない。」

 どうやら航が想像した事も無い仕事らしい。

「ちゃんと面倒は見るから指示に従ってくれれば大丈夫だ。とりあえずまずは、引っ越しからだな。家具家電はこちらが用意するから荷物は最低限で良いんで、今週中にまとめてほしい。」

「最低限で良いって?」

「通帳、印鑑、身分証、数日分の衣類、日用品、思い入れがあってどうしても捨てられない物があればそれもだな。仕事用の端末とかは支給品を使ってもらう。仕事着も引越し後に採寸して作るからスーツとかも要らないな。」

 仕事着を、採寸して作るって、ナニゴト?

「とりあえずの安全確保が出来るまでは外部と接触して欲しくないから、引っ越しも身内ですませる。出来れば家具は運ばないで済ませたい。」

「安全確保?」

「情報を扱うから」

  もしかしたら、ちょっと判断を早まったかも知れない。


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