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魔王、軍議をする

 砦を越え魔族領へ入った小高い丘。

 そこに魔族軍の総司令部が設置されていた。

 その総司令部の仮初の玉座に魔王デクリファスはいた。

 肘をついた魔王の表情から心情を察することはむずかしかったが、少なくとも上機嫌でないことは漏れ出る魔王覇気でわかりすぎるほどわかった。

 魔王の面前には大柄のミノタウロスが限界まで体を縮こまらせてかしこまっていた。自慢の金色の毛並みは心なしか血の気を失い白金のような色になっていた。名をギュルタイコス。獣人族を束ねる魔王四天王の一人であった。

 そして、すぐその横にもう一人、これもまた四天王の一角、ドラコニュートのドラギリアスが地面に張り付くような低姿勢で控えていた。


「それで……二人そろって失敗したと申しておるのか?」


 魔王の低い声が静かに響く。


「はい、いえ……、あ、あれは、あれはドラギリアスの配下が勝手に持ち場を離れたからであって……」

「なっ!? お前、俺のせいにするつもりか! 

あれは、群れのリーダーが運悪く流れ弾にやられて、いったん退いただけだ。それも……

ほんの短い時間混乱しただけだ。

お前たちの部隊こそ、そのほんのちょっとの間も踏ん張ることができなかったではないか。

勝手に総崩れをしおったのは貴様の方だ。情けない!」

「ブモモォ!! だまれ、この裏切り者!」

「俺が裏切り者なら、おまえはただのへたれだ!」

「もうよい!!」

「「ははぁーー」」


 魔王の一喝に、二人は同時に額を地面に擦り付けた。


「力自慢のお前の部下にしてはだらしない。人ごとき、ミノタウロス一人で蹴散らせそうなものだが」

「はっ、し、しかし、あ奴らはこう、がっちり隊列を組んで、槍がこう、ハリネズミのように突き出して、手がなかなか出せずに。はい」


 ギュルタイコスは身振り手振りを交え、必死に弁明をする。

 魔王はその様子を黙って見ていたが、視線をドラギリアスへ移した。


「ドラギリアス。お前の部隊のリーダーはたしかグランワイバーンだったはずだが。

グランワイバーンが流れ矢や火炎弾の一本、二本でやられたりするのか?」

「いえ、決してそのようなことはありません。ありませんが、此度は運が悪かったと。

しかし! 次こそはこのようなことはありません。我がドラゴン軍団の名にかけ、総力を持ってあの砦を揉み潰してみせます!」

「ほぅほほほぅ」


 意気込むドラギリアスを笑い飛ばすような甲高い声が響き渡った。

 魔王たちは声のする方、天井へ目を向けた。総司令部の天幕、天井の一角から巨大な顔が覗いていた。その顔の持ち主こそ、四天王の一人、巨人族のタイタロスであった。巨体故に天幕に入ることができず、仕方なしに一人、外から天井の布をめくっての参加であった。


「ドラギリアス、お主の出番はもうないわ。

なぜなら、あの砦は我が巨人族の精鋭が蹂躙するのだからな」


巨体に似合わないキンキン声でタイタロスは自信満々に宣言した。


「魔王様。いつでもこのタイタロスへお命じください。

さすれば我が無敵軍団を持ってたちどころにあの砦を突破して見せましょう」

「ふむ、やってみせよ」

「ありがたき幸せ」


 タイタロスは立ち上がった。地面が軽く揺れ、もうもうと土煙が上がった。

 タイタロスは直立したまま、砦を指さした。そして、居並ぶ配下の巨人族100人に向かって号令を発した。


「魔王様のお許しがでた。さあ、あの砦を破壊し、蹂躙して、踏み潰せ!!」


 号令一下、巨人たちはゆるゆると砦に向かい進撃を始めた。

タイタロスはその勇壮な景観を満足げに見つめる。

ふっと魔王がタイタロスの肩口に転移してきた。


「おお、魔王様。恐悦至極に存じます。我が、無敵軍団の働き、ご存分にご照覧あれ」


 地響きを立て悠然と進む巨人族の戦士たち。

 砦が目前に迫った時、先頭の巨人の一人が突然バランスを崩し、そのまま転倒した。

 そしてその倒れた巨人につまずき続いていた巨人が同じように倒れる。まるでドミノ倒しのように、次、そのまた次と、ばらばらと転んでいく。


「あっ……」と、タイタロスが絶句した。

「転んでおるぞ」と、魔王はぼそりと呟いた。



一方、砦の城壁。


「転びましたね」と、副官が半信半疑で言った。

「ええ、転びましたわね。よい転びっぷりですわ」と、シャベルを肩にかけたまま、エリシアは同意する。


「巨人族は大きくなるほど足元がお留守になるのですよ。

一度倒れるとその巨体故、起きるのが大変ですわ。それに地面には土精霊の長話ノームズ・エンドレストークをかけていますから、さらに大変でしょうね」

「いや、しかし、あんな落とし穴なんてベタな方法がこんなに効くとは」

「皆さんで、夜なべして落とし穴を掘っておいてよかったでしょう」


 エリシアは頬に泥をつけたまま、にっこりと微笑んだ。




再び、魔王軍総司令部。

 天幕の外ではタイタロスが膝を抱えてしょんぼりと座っていた。

 魔王は頬杖をついていたが、ふぅと息を吐いた。そして、中空に向けて声を発した。


「サクラントス。サクラントス、いるのであろう、出でよ」


 魔王の眼前に、突如として桜色の髪、蝙蝠のような黒い翼を持った女が現れた。


「四天王が一人、サキュバスのサクラントスはこれに」

「うむ。サクラントス、あの砦の秘密を探れ」


 魔王の言葉に、サクラントスは意外と言うように顔を上げた。


「秘密ですか?」

「あの砦の動き、なにか妙だ。我の想定にはない、なにかがある。その秘密を探ってまいれ」

「御意」


 サクラントスは短く答えると、出現したのと同じように音もなく姿を消した。



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