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悪役令嬢、砦の指揮官になる

「おお、ミノタウロスが逃げていくぞ!」

「やった、俺たちは勝ったんだぁ!」

「おおお、えい、えい、おおー!!」


 逃げていくミノタウロスたちを見ながら、砦の兵士たちは勝どきを上げた。

 副官も安堵の息を吐いた。そして、改めてエリシアへ体を向けた。


「ありがとうございます。

心から感謝いたします。

貴女(あなた)がいなかったらこの砦は完全に魔族どもに蹂躙されていたでしょう。本当にありがとうございます」


 副官は深々と頭を下げた。

 エリシアは少しくすぐったそうに背筋を伸ばす。頬がうっすらと赤く染まる。

 変な目で見られることは多かったが、純粋に感謝されることに慣れていなかった。


「わたくしは、なにもしておりませんわ。

魔族を撃退できたのは、ひとえに皆様の勇気と努力によるものです。

……

さ、それではわたくしめもそろそろ行かせていただきます」

「は? 行くとはどこへ?」


 副官は驚いたように顔を上げた。


「どこへ、とは勿論魔族領ですわ。わたくし、魔族領へ追放になったのですよ。

丁度、門も開いたことですから、このまま行かせていただきますね」

「いや! ちょっと、ちょっと待ってください!!」


 副官は大慌てで止めてきた。


「今、貴女(あなた)がいなくなったら誰がこの砦を守るのですか」

「いえ、砦を守るのは副官さんやみなさんのお仕事ですから。わたくしめには関係ないのではありませんか?」

「いや、そりゃそうなんですけど、見てください、この有様を! 

門は半壊。城壁もヒビだらけ、バリスタも投石器も壊されている状態で俺たちにどうしろというのですか!」


 副官に詰め寄られ、エリシアはすこし困惑する。


「そのお言葉、そっくりそのままお返しますわ、あなたたちこそ、わたしにどうしろと?」

「この砦の司令官になってください!!」

「はぁ~? どうしてそんな話に?」

「いや、あの見事な采配、胆力、魔導スキル、どこをとっても指揮官にふさわしい。

今、この場でこの砦を守れるのは貴女(あなた)様以外にはいません」

「だって、もう魔族は引き上げたじゃないですか。わたくしめは必要ないとおもいますわ」


 エリシアはそう言いながら、未練がましく門の外、魔族領へちらちらと視線を泳がせる。

 そこへ、伝令が飛び込んできた。


「魔族軍の方に動きありです、なにやら、巨大な魔族がぞくぞくと集結している模様です!!」



 砦の物見やぐらの上。

 エリシアと副官が遠眼鏡で魔族領の方を見ていた。

 遠眼鏡には青白い肌の人のようなものが写っていた。あまりに遠くなのでその姿はぼんやりとよく見えなかったが、隣に見える木の高さから、それがものすごく大きいことは分かった。


「あー、あれは巨人族ですね」

「きょ、巨人族。あれ、ものすごくでかくないですか?」

「およそ10~15メートルでしょうか。さっきのミノタウロスの3倍から5倍ぐらい大きいです」

「そ、それって、この砦の城壁と同じぐらいじゃないですか!

あんなのに攻撃されたら今度こそこの砦はおしまいです!」

「そうですわねぇ、バリスタも投石器も魔導兵もいないと、ちょっと難しいかもしれませんね」

「ああ、もう、このとおりであります!!」


 副官が頭を床に擦り付けるように土下座をした。さすがのエリシアもその行動に面食らったように叫んだ。


「ちょっとなにをなされているのですか?!」

「どうか、どうか、ここの指揮官になっていただき、この砦を守ってください。

ほら、お前たちからも姐さんにお願い申し上げろ!」

「「「姐さん、お願いします。どうか、この砦の指揮官になってください」」」


 副官の指示で後ろに控えていた兵士たちも即座に土下座をした。


「えー、ちょ、ちょっと、やめてくださいまし。顔をお上げになってください。

そんなことされてもわたくし、困りますわ。困りますって

…………

ふぅ~。しょうがありませんね。

そんなにお願いされますと、わたくし、断れませんわ。

仕方ありません、もう少しだけお手伝いいたします。

でも、これが終わったらちゃんと魔族領へ追放してくださいましね」




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