悪役令嬢、敵を撃退する
「くっ、どうすればいいんだ」
「落ち着きなさい。なんのためにワイバーンたちを追い払ったのですか、城壁の投石器を使いなさい」
うろたえる副官にエリシアは指示をする。
「は、そうでした。
おい、野郎ども、城壁だ。
投石器でミノタウロスを追い散らすぞ!」
副官と兵士たちは城壁への階段を駆け上った。だが……
「ダメです。投石器がすべて破壊されています!」
「なんだと。くっ、これではミノタウロスたちを追い払えないじゃないか!」
絶望に呆然とする兵士たち。そこへエリシアの一喝が飛んだ。
「あなたたちのその手はなんのためについているのですか!
飾りですか!!
さっさと石を運んでミノタウロスたちへ落としなさい!
角のつけ根です。そこが彼らの弱点です。
そこをめがけて石を落としなさい!」
叱咤に背を押されるように、兵士たちは石を抱えて城壁へと走り出した。
兵士たちが放り投げた石がミノタウロスの頭の角のつけ根を直撃する。
ヴモモォ
ミノタウロスが頭を抱えてよろよろと後退した。
「おお、効いてるぞ、効いてる!」
「いけるぞ、どんどん落とせぇ!!」
兵士の士気が上がり、みな懸命に石を運び、ミノタウロスたちへ落とし続ける。
ミノタウロスたちの圧力が明らかに低下し始めていた。
「ダメです。石がもうなくなります!」
再び兵士の悲痛な叫びが発せられた。
「ああ、もう。石がなければ、その辺の城壁の欠片とか、落とせるものをなんでも落としなさい!
それから副官さん、大鍋に水を入れて持ってきてくださいまし。
急いで!」
「は、はい、直ちに!」
走り去る副官を横目に、エリシアは再び魔導書を開いた。
「術式展開
四精霊評議会
獄炎陣」
床の一部が真っ赤に赤熱する。そこへ副官たちが大鍋を運んで戻ってきた。
「そこへその鍋をかけてください。落とすものが無くなったら熱湯をかけなさい。
いいですか、角のつけ根ですよ」
「了解しましたぁ~!!」
兵士たちはいっせいに返事をする。
エリシアはにっこりと微笑むと、ついと副官のほうを向いた。
「では、副官さん、砦中の盾、短剣と槍を集めてください。ありったけです。
それから勇敢な兵士たちを2、30人ほど集めてください」
「盾と短剣と槍と兵士を……集めろ?
一体なにをされようとしているのです」
「それはすぐにわかりますことよ」
エリシアは謎めいた笑みを浮かべるだけだった。
「これで全部です」
ほどなくエリシアの前に盾、短剣、槍、それから屈強な兵士たちが集められた。
「よろしい。
これより、ミノタウロスたちを追い散らします」
エリシアの言葉に集められた兵士たちは動揺した。
「いくらなんでも無茶ですぜ。
こいつらはガタイもでかいし勇敢だが、たった30人であんなにたくさんのミノタウロスを相手にはできませんよ。
あいつらの棍棒を見たでしょう。あんなんで殴られたらみんな死んじまいます」
副官が兵士たちの気持ちを代弁するように言った。しかし、エリシアは少しも動じず、説明を続ける。
「一列10人ずつで三列縦隊になりなさい。
一番前のものは盾と短剣、二列目は短い槍、最後の列のものは長い槍。それぞれの武器を前に突き出し、前面に戦力を集中させます。
密集隊形でミノタウロスを近づけないようにします。
必要なのは技術ではありません、勇気のみです!
さあ、みなさん、根性お見せなさい!!」
突然、砦の城門が開け放たれた。
落石や熱湯に苦しんでいたミノタウロスたちだったが、突然の開門に視線は門に注がれた。
門の奥から穏やかな声。
「術式展開
四精霊評議会
暴風の暴君」
門から猛烈なつむじ風が噴き出し、門前のミノタウロスたちを薙ぎ払った。
「そうれ、押し出せ!!」
エリシアの声とともに密集隊形の兵士たちが門から外へ打って出た。
ミノタウロスの一体が兵士たちを向かい撃とうと棍棒を振り上げた。
「そこ、槍、突き出せ!」
エリシアの指示に従い、兵士たちは槍を一斉に突き出す。その圧倒的な槍の密度にミノタウロスは後退するしかなかった。
「次、右!
ほら、左ですわ!
そらそら前進、前進!」
エリシアの指示で兵士たちは乱れることなくミノタウロスたちを圧倒する。
やがてミノタウロスたちはほうほうの体で逃げ出した。




