悪役令嬢、砦の指揮をとる
「なるほど、指揮官様はもういない、と……
ならば、副官様が今は砦の責任者なのですね。では副官様にわたくしめを追放して」
「ああ、ダメだ、ダメだ、今はそんなことにかかわっているわけにはいかんのだ。
見りゃわかるだろう。今、魔族に襲われているんだぞ。この状況をなんとかするのが先だ。それ以外はみんな後回しだ。わかったら、ささっと消えちまえ」
副官はエリシアをうるさそうに追い払おうとする。
しかし、エリシアはただ、困りましたわねぇ、と嘆き、空を見上げた。
そして、「とりあえずワイバーンをなんとかしないと駄目ですわね」とぼそりと呟いた。
「え? なんだって?」
神経を逆なでされた副官はすごい形相でエリシアを睨みつける。
だが、エリシアは全く動じる様子もなく答える。
「頭を押さえられては、砦の機能は半減ですわ。まずはワイバーンを追い払わないと始まりません」
「そんなこたぁ、わかってんだよ。
そうしたいが、投石器もバリスタもみんな砦の上に置きっぱなしで、あいつらがいるから近づけねぇんだ。それに例えバリスタが使えても、あんな大群捌ききれない」
「あの一番高く飛んでいるワイバーン。青みががったうろこのやつです。あれはグランワイバーンといってワイバーンの上位種です。あれが群れの指揮を執っていると思いますわ。
あれを排除すれば、群れは自然に崩壊します」
「なんだって? ……だめだ、あんな高く飛んでられたら弓は届かねぇ」
「ならば魔導兵の魔法を使えばよいではないですか」
「ああ、あいつらか……」
副官の顔が苦虫を噛み潰したようになる。
「司令官の取り巻き連中は、司令官と一緒に逃げちまったよ!」
「ふう。仕方ありませんねぇ。
魔族を傷つけるのは本意ではありませんが……」
エリシアはポケットから一冊の手帳を取り出し、開く。
開くと同時に手帳は、一抱えもありそうな分厚い魔導書になった。
「術式展開
四精霊評議会
氷結の評決 」
空がきしみ、一気に空気が凍り付く。
グギャ?!
グランワイバーンの翼がみるみる凍りついた。
はばたけなくなったグランワイバーンはなんの抵抗もできずに落下する。
「グランワイバーンならあのぐらいの高さから落ちても死にはしないでしょう。
さあ、今です。ありったけの弓兵で矢を射かけなさい。当てる必要はありません。とにかくじゃんじゃん射かけなさい。司令塔を失った今、ワイバーンはすぐに逃げ出します」
「おっ、おう。 弓兵。 構え! 射かけろ!!」
副官の号令で弓兵たちが一斉に矢をワイバーンに放った。
ワイバーンたちは空を右に左にうろたえ、中には仲間同士でぶつかるものもいた。
完全に統率を失ったワイバーンは一匹、また一匹と戦場を離脱していった。
「おお、ワイバーンが退散していくぞ」
砦の兵士たちから歓声が沸き起こった。
「嬢ちゃん、あんた……、いや貴女様は一体なにものですか」
副官はエミリアを見つめる。その目は畏敬の光がともっていた。
「大変です。ミノタウロスどもが城門を破壊しようとしています。
このままだと門が、門が砕けてしまいます!」
城門を守る兵士たちの悲痛な叫びが砦内に響き渡った。




