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悪役令嬢、魔王に謁見する

「ほらね、もう泣かないでくださいまし。

これ食べて。甘くておいしいですよ」

「あ、ほんと、これおいしい! なんていう食べ物なの」

「チョコレートっていうんです。保存食としてたくさん持ってきてますから、もっと食べてもいいですよ」

「わーい」


 もきゅもきゅとチョコレートを頬張るサクラントスを見て、エリシアはうんうんと満足げに頷く。


「それで、魔王様が来ていると言うのは本当ですか?」

「来ているよ。私、魔王様の言いつけでここの砦の秘密を探りに来たんだもん」

「砦の秘密? はて、なんでしょうか?」

「ミノタウロスを撃退したり、ワイバーンのリーダーを落としたり、巨人族を転ばしたりした理由を調べているの」

「あーー、それ、なんとなくわたくし、秘密を知っているかもしれません」

「え、ほんと? やっぱり私の目に狂いはなかったわ。で、それはなんでなの?」

「えっと、たぶんそれ、全部わたくしがやりました。ま、みなさんの協力あってこそですが」

「うっそ。お姉さまが全部やったの?」


 サクラントスは目を丸くして驚いた。


「そっか、お姉さまがやったんだ。

そうだよね。お姉さま強いから。

そっかそっか。

じゃ、私、そのこと魔王様にお伝えしないと。ね、帰っていい?」

「もちろん、帰るのはサクちゃんの自由ですけど、できればわたくしも魔王様にお会いしたいです」

「え? 魔王様に会いたいの? いいけど。お姉さま、敵でしょう。魔王様、優しいけど敵にはすっごく怖いんだよ」

「わたくし、別に魔王様の敵ではないです。お会いして、なんで砦を攻撃しているのお話を聞きたいのです。こちらに落ち度があれば、謝らなくてはなりません」

「あー、そうかぁ。魔王様はちゃんとお話を聞いてくれるから。話せばわかるかもね。

でも、うーん、お姉さまを連れていくの大変かも。私1人じゃ、お姉さまを運ぶことできないし。歩くとなると結構遠いよ」

「あら、それなら大丈夫です。当てがありますわ」




「うわ、これグランワイバーンじゃないの」


 エリシアの横の巨大なワイバーンを見てサクラントスは驚きを隠せない。


「墜落して動けなかったところを治癒魔法で治して差し上げたら、なにか懐かれてしまったのです。

グラちゃんと呼んでいます」

「グラちゃんて、名前つけたんだ……」

「グランワイバーンだからグラちゃん。

…… 安直ですか?」

「い、いや、別にいいと思う…… で、でも確かにグラちゃんがいれば魔王様のところまで飛んでいけるね」

「そうですわ。じゃあ、魔王様のところへまいりましょう!」


 二人と一匹は夜の空へ飛び立った。



「四天王が一人、サクラントス。ただいま戻りました」


 魔族の司令本部、玉座の間。サクラントスは静かにかしずいていた。


「戻ったか。それで首尾はどうだ?」

「はっ、砦の強さの秘密を見つけてまいりました」

「ほう。強さの秘密を暴いたか。さすがサクラントス。

では、その強さの秘密とはなんだ? 申してみよ」

「はい、砦の強さの秘密、それはこちらでございます」


 サクラントスは立ち上がり、部屋の隅に立つエリシアを指し示した。魔王の視線がわずかに動く。

 そこには、黒い髪に紫水晶(アメジスト)色のドレスを纏ったエリシアが立っていた。

 エリシアはぞくりと背筋に氷をあてがわれたような悪寒を感じた。 

 それは鑑定の魔力によるものだと理解する。

 この魔王に対して、嘘偽りは意味をなさない。そう思った。

 だが一番最初に思ったのは、万が一のことを考えてカバンの中に正装用の服を一着入れておいて本当に良かった、だった。


「お初にお目にかかります。第92代 魔王様。わたくし、エリシア・ハルデンブルクと申します」

「第90代だ」

「はい?」


 魔王は少し不機嫌そうに言った。その意味が分からず、エリシアは首をかしげる。なおも不機嫌そうに魔王は言った。


「第90代にして第92代魔王だ」


 その言葉を聞いたエリシアはぱっと瞳を輝かせた。


「まあ、ではあの、歴代最強とうたわれた神殺しのデクリファス様、そのご本人様なのですね。

ああ、わたくしとしたことがたいへん失礼をいたしました。

わたくしたちの国には魔王様のお名前が伝わってくることは稀でして。せいぜい代がかわったという噂程度が流れてくるだけでした。ああ、その中でもお名前が分かっている数少ない魔王様のそのご本人様に会えるなんて、なんという僥倖。ああ、すみません、すこし失礼してメモをとらせていただいて構いませんか?」

「……あ、ああ、良いぞ、許す」

「はい、ありがとうございます。 えっと、第90代神殺しデクリファス様は92代にて返り咲かれたと。ああ、こうなると91代の魔王様のお名前を知りたいところですわ……」

「モーディファイだ」

「はい?」

「第91代魔王の名前はモーディファイだ。我がこの手で倒した」

「まあ、ありがとうございます。モーディファ様と、モーディファイ様はデクリファス様に倒された、と……。ああこれを学会の皆様にもお伝えしないと!」

「ああ、ちょっと、よいか、エリシアとか申したか、貴殿のことだ」

「はっ、はい。そうでした、そうでした。重ね重ね、失礼をいたしました。

はい、エリシアと申します。それでなにか?」

「うむ……。貴殿があの砦の強さの秘密と聞くが、本当なのか」

「本当かと、もうされてましても実はよく分かりません。ただ行きがかり上、指揮をとらせていただいたのは事実でして」

「ワイバーンのリーダーを落としたのはだれだ?」

「わたくしです」

「ミノタウロスの撃退を指揮したのはだれだ?」

「わたくしですわ」

「巨人族を退ける方法を考えたのはだれだ?」

「わたくしでございます」

「さようか。ならば貴殿は我が答えで間違いない。そうか、貴殿のような面白い者が我が求めていたものだったか」


 その場の空気が急に軽くなった。それは魔王覇気の変質を意味していた。魔王は明らかに上機嫌になっていた。そばに控える四天王たちがひそかに驚きの顔を見合わせた。


「ところで、魔王様。わたくしめからも一つ、お尋ねしたい議がございますがよろしいでしょうか」

「聞きたいこと? いいだろう。なんだ?」

「はい、魔王様はなぜ、砦を攻撃されているのですか? それは不可侵条約に違反する行為だと思います。一体なぜ、そのような無法をされますか?」


 核心を突くその問いで、和みかけたその場が一瞬で凍り付いた。四天王たちは次の魔王の反応を怖れ、体を強張らせた。


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