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八百万妖貸し屋 彌勒堂カルテット  作者: 樹結理(きゆり)
第一部 邂逅

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「あれ? 銀子さんどこかに行っちゃった?」

「あ、あぁ」

「んー、まあ銀子さん気まぐれだから。どこか寝に行ったのかもね」


 そう言いながら笑う蒼司。先程の銀子の言葉の意味が分からない誠司は若干怪訝な顔のままだが、そんな誠司の様子に気付いていないのか蒼司はうきうきと楽しそうにひとつ手を打った。


「さて、じゃあ今後は誠司くんも彌勒堂の一員だからね! 朝ごはんを食べたら仕事の説明でもしようか」

「ちなみにその着流しが制服とか言わないよな?」


 蒼司の全身を眺め、誠司が呟いた。藍色の着流しはこの日本家屋の彌勒堂とは確かに見合ってはいるが、それを着る勇気はない、と誠司は若干顔が引き攣る。


「え? この着流し? あぁ、僕の趣味! 良いでしょう? 日本家屋に着流しで和テイスト! 誠司くんも着る⁉ 僕ので良かったら何着かあるからあげるよ! 一緒に着ようよ!」


 そわそわと落ち着きのない子供のようにキラキラと目を輝かせ、誠司に詰め寄る蒼司だが、誠司は一言「断る」と低い声で呟き、再び「ガーン」となった蒼司だった。

 誠司にしてみると制服だとしても着たいとは全く思わないが、趣味で着流しなど着るような奴と同じものを着た日には、今後どんな趣味や無理難題を押し付けられることか、と辟易するのだった。


「もうすっかり朝になっちゃったねぇ、仮眠もしたいところだけど朝ごはんを食べないとね」

『ソージ、お腹空いた!』


 結局一晩中食べることのなかったあやかしたちは、やいやいと文句を言ってくる。苦笑しつつもなにやら生き生きとし出す蒼司。


「そうだね、今日は誠司くんが彌勒堂の家族になった記念日だし、頑張って僕が作っちゃおうかな!」


 張り切って腰に手を当てた蒼司だが、珠子やきなこは顔面を蒼白にし固まった。トキは溜め息を吐いている。一体何事だ、と誠司が戸惑っていると、珠子ときなこが覚醒したかのように蒼司に飛び掛かった。


『だめぇぇ‼ ソージは料理しちゃだめ‼』

「えぇ⁉ なんで⁉」

『ソージはじっとしてるのにゃ‼』

「そ、そんな酷い……」


 あからさまにショックを受けた顔をする蒼司だが、そんなことは無視、とばかりに珠子ときなこは必死に蒼司を止めている。なにをそんなに、と誠司は訳が分からなかったが、いざ朝食の準備を始めたときにそれを理解することとなる。


 ひとまず部屋を決めよう、ということで彌勒堂の屋敷へと足を踏み入れた誠司。土間からすぐにある応接室の横を通り抜け、廊下を抜けて行くと中庭が現れる。硝子障子の並ぶ廊下は外の景色が見えるようになっていて、中庭の反対側には純和風の日本庭園が広がる。廊下は二ヶ所に別れ伸びていたが、中庭と庭園に挟まれた廊下を進みさらに奥へと向かう。突き当りまでやって来るとさらに左右に廊下が伸びていた。


「右にはキッチンダイニングと水回りがあるからね。お風呂は使用中とだけ分かるようにしてくれたら好きに使ってくれて良いよ。食事は余程の理由がない限りは一緒に食べよう。これ、我が家のルール。約束ね」


 誠司に説明しながらにこりと笑う蒼司だが、言葉に圧を感じた誠司は若干引き攣っていた。『我が家のルール』。そんなものはない。そんなものはないのだが、蒼司にしてみると、毎日をあやかしでない誰かと過ごすということ自体が今までにない経験だ。彌勒家にいたとき、両親や妹は共に暮らしてはいたが、しかし『共に過ごす』といった意識はなかった。幼い頃は共に食事もしていた。しかし、蒼司に力がないことが判明してからは、共に過ごす時間が苦痛にもなった。それはおそらく両親も同じだろう。妹が生まれ、その妹に力があることが判明してからはなおさらだった。共に過ごすことが次第になくなっていくのは必然だった。

 だからこそ共に暮らすのならば共に過ごすことをしてみたい、と思ったのだ。今までそんなことを求めたことなどない蒼司だが、なぜだが誠司とは共に過ごしたい、とそう思えた。


 誠司は意味が分からなかったが、その『出来る限り食事は一緒に』という約束は、祖母を思い出し懐かしくもなった。祖母とふたりで暮らしていたときのルールも同じものだったからだ。どんなに忙しくとも、時間がなくとも、『一日の間で一度は必ず一緒に食事をする』。それが祖母の決めたルールだった。今の相手は祖母ではないが、だからこそ誠司は蒼司のこのルールを仕方なくでも受け入れることにしたのだった。


「分かった」

「フフ、良い子」

「う、うるせぇ‼ ガキ扱いすんじゃねぇって言ってるだろうが‼」

「アハハ、分かってるよ。誠司くんは立派な大人だものねぇ」


 なんだか馬鹿にされているような気がして、苛つく誠司だった。


 キッチンダイニングのさらに奥にはリビングと蒼司の部屋があり、誠司にはキッチン側と逆の方へと向かった場所にある十二畳の部屋が用意された。


「それにしてもデケェ家だな」

「あと部屋は三部屋残っているよ。お客さん用として置いてあるけど、特にお客さんが泊まることなんてないからただの空き部屋だけどね」


 堀井が『馬鹿デカい屋敷』と言っていた意味を理解した誠司は唖然としていた。部屋自体は六部屋だけだが、ひと部屋ひと部屋が広いうえに、それ以外にキッチンダイニングやリビングだけでなく、家事室が別にあり、浴室や脱衣所、洗面にトイレと、全てが広く、廊下も長く続く。各部屋に相応の収納もあり、荷物が収まり切らない、といったことはないだろうと思われた。

 表の土間以外にも裏手にも土間があり、裏庭も広がる。平屋なので一階で全てが事足り、天井から現れる隠し階段の先には、ただっ広い屋根裏収納となっていた。


「無駄に広いから掃除が大変なんだよね。これからよろしくね?」


 再びニコリと圧のある笑顔を向けた蒼司に、溜め息を吐きながらも、確かにこれだけ広いとひとりで全てを掃除など出来ないだろう、と誠司は呆れたのだった。


「あぁ、あと……客間にしている部屋のさらに奥に行ったところに、ひとつ扉があるけれど、その扉は開けないようにね」


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