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八百万妖貸し屋 彌勒堂カルテット  作者: 樹結理(きゆり)
第一部 邂逅

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「日本の神様って基本的に怖い神様が多いじゃない? 神社って荒ぶる神様を宥めるためにある場合が多いしね」


 一体なんの話だ、と誠司は怪訝な顔。


「でも物に宿る神様はそうでない子たちが多い。確かに怖い神様もいるけど、人間の想いから生まれた神様は優しいよ。その物を大事に扱って想い入れが強いと魂が宿る。それはその持ち主を慈しむ。だから持ち主がいなくなった付喪神は次の持ち主を探す。見付かれば良いけど、見付からない場合は居場所を失ってしまう。所謂、人間で言うところの死だね。それが不憫でね……きなこさんと珠子さんもそうだよ。トキさんもね。みんな居場所がなくなってしまった。ひとりぼっちになってしまった」


 珠子が蒼司の足元にしがみ付く。蒼司はそんな珠子の頭に手を置くと、優しく撫でた。嬉しそうな珠子は満面の笑みで楽しそうに走り回る。誠司は真面目な顔で蒼司の話を聞いていた。蒼司は珠子やきなこを眺めながらふわりと微笑み、そして再び誠司へと向き直る。


「僕もいらない子だったからきっと身につまされたんだろうねぇ。誠司くん、君もそうでしょ? だからという訳でもないけど、うちにおいで? 一緒に暮らそう。僕たちは家族だ。いらない者たちの寄せ集めだけれど、それでも僕たちは家族なんだよ」


 蒼司は微笑み、真っ直ぐに誠司を見詰めた。そして手を差し出す。蒼司の『いらない子だった』という話は誠司にはなんのことか分からない。しかし、自身にも身に覚えのある『いらない子』という言葉。そのことは蒼司についてなにも知らなくとも、なにやら共感を覚えてしまったのか、不本意にしろ蒼司の傍にいると不安な気持ちがなくなることを実感する。

 誠司はこの場にいるあやかしたちに目をやる。銀子にきなこ、珠子にトキ。それ以外にも多くいるというあやかしたち。誠司からすると今まで憎むべき対象だった。共に暮らすなどありえない存在だった。しかし、祖母と暮らしたときに共にいたあやかしたちが穏やかな気性だったことも知っている。

 誠司は戸惑いながらも蒼司に向かい、そっと手を差し出した。蒼司は嬉しそうな顔で誠司の手を取り、強く握手を交わす。


「おかえり、僕らの家へ。これからよろしくね」


 蒼司は振り向き、あやかしたちと誠司を見渡し今までにない笑顔で言った。誠司はそんな蒼司に苦笑しつつも、「おかえり」と言われる気恥ずかしさと、こんな穏やかな居場所が自分に与えられるとは、と少しばかり表情が和らいだのだった。


「おぉ、初めて睨んでいない顔!」


 そんな誠司の表情を目ざとく見付ける蒼司が、誠司の顔を覗き込むと、一気にまた嫌そうな顔に戻るのだった。


「また眉間に皺だよ! 笑って笑って!」

「うるせぇよ!」


 しつこく蒼司が顔を覗き込むため、誠司は蒼司の顔面を鷲掴みし、グイッと押して遠ざけた。蒼司からは「うっ」という小さく唸り声が聞こえ、思わず噴き出しそうになる誠司は必死にそれを耐えたのだった。


「そういや、このあやかしたちの名前は誰が付けたんだ?」


 誠司は話題を逸らそうと聞いた。蒼司は「もう」と言いながら乱れた前髪を整えつつ、誠司の質問に耳を傾けた。


「え? 僕だけど? 可愛い名前でしょう? 銀子さんは銀髪だから! きなこさんは茶色い毛皮だから! 珠子さんは元々名前があったから僕が名付け親じゃないけどね。トキさんは振り子時計で時を刻むからだよ」


 自慢げな顔で蒼司は自信満々だ。誠司はなんとなく予想していたのか「ダサッ」と小さく呟いた。蒼司は「ガーン」といった顔。思わずその顔に誠司はブッと噴き出してしまい、腕で顔を隠すと勢い良く横を向いた。


「笑ったね⁉ 今笑ったでしょ! 良いね良いね、そうやってこれからはたくさん笑っていこうよ」

「う、うるせぇよ……」


 ウキウキと嬉しそうな蒼司に、誠司は自分自身が笑ったということが信じられなく動揺し、まともに顔を上げられないでいた。

 蒼司は珠子やきなことどうしたら誠司を笑わせられるか、などという誠司にするととてつもなく迷惑な話し合いをし、クスクスと笑い合っている。


 そんなとき銀子が誠司の横へと並んで立った。誠司はびくりとするが、銀子からは敵意のようなものは一切感じない。銀子の蒼司への入れ込み具合はあの黒い影と対峙していたときからすでに気付いていた。なにかしら敵意の感情を向けられるかと思っていた誠司は、穏やかな表情の銀子に若干戸惑う。今まであやかしの気持ちなど考えたこともなければ、理解しようともしてこなかった。それがどうだ。ここにいるあやかしたちは人間と同じように話し、言葉を持ち、蒼司と心を通わせている。一体人間となにが違うのだろうか、と誠司は今まで自身の経験してきたあやかしたちとあまりに違うことに戸惑いを隠せなかった。そんな戸惑う誠司に気付いているのかいないのか、銀子は愛おしいものでも見るような眼差しを蒼司に向けたまま口を開く。


「蒼司はねぇ、誰にでも優しいんだよ。誰にでも同じ態度。でもそれは誰にも心を開いていないってことなんだろうねぇ。ああやって私たちとは楽しそうにはしているが、人間で信頼している相手はもしかしたら誰もいないのかもしれない。自分の心の内を誰にも見せやしない。私たちにすら悩みを話したりなんてしない。誰に対しても、何に対しても必死になりやしない。いつもどんなときでも同じ。常に冷静で物事を俯瞰して見ている。それは感情の欠片が欠落しているようなものなんだろうね。人間てのはもっと色々悩んだり感情を露わにしたりするもんだろう?」


 銀子は少しばかり寂しそうな顔をし、そしてチラリと誠司のほうに顔を向けた。誠司の顔を真っ直ぐにじっと見詰める銀子に誠司は若干たじろぎ、身体を強張らせる。銀子のほうが背は低く、少し見下ろす形にはなっているが、しかし、銀子の妖力だろうか、なんとも言えない威圧感のようなものを感じるのだ。そんなたじろぐ誠司にフッと笑った銀子は、口元を袖で隠しクスクスと笑った。


「ようやく戻ってきたね。フフ、面白くなりそうだよ」

「は? 戻ってきた?」


 意味深な笑みを浮かべ目を細める銀子に、誠司は意味が分からないと怪訝な顔。


「お前さんならいつか分かるよ」


 楽しそうに笑った銀子はそう言い、その笑った顔がぼやけたかと思うと、霧のように一瞬にして姿を消してしまった。

 唖然としたままひとり残された誠司に気付いた蒼司が振り向いた。


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