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その13-3 殺人鬼はいつも側に

『政府』に追われてまで、親しい人物を欺いてまで、親の復讐に人生を捧げた、メリーゼ。

 人が生きる意味とは何か、と殺し屋の加賀はよく考える。

 ……と言うか、考えても、分からない。

 人生の、意味合い。

 自分が今、ここの存在する、理由なんて、あるのだろうか。

 否。

 少なくとも、加賀を、殺し屋として必要としてくれたクライアントは多く居た。

 なんだかんだと、殺し屋という稼業に文句はありつつも、その仕事を必要とした人間は居たわけだが……。

 しかし果たして、それが、自身の存在理由だと、言ってしまってよいのだろうか。

「いやいや加賀先輩、そんなのハッキリと答えられる奴は少ないっすよ」

 アルマの武器屋へ向かう道中。

 山の中。

 昨日と同じ道筋を辿りながら、加賀と黒瀬は街を目指す。

 そんな中での、ちょっとしたお話。

 日常会話。

「人が生きる意味とか、存在理由とか、そんなの漠然と、なんとなぁく自分の中にテキトーな答えがありゃあ大丈夫だと思うっすけどね」

 加賀の前を歩く黒瀬は当たり前のことのようにそう言う。

「だから、その自分の中にある答えを伝える意味はあんまりねえっすよ。わざわざそれを共有する必要もねえんだと思うっす」

 と、黒瀬は素振りのようにナイフを片手で振り回す。

「んでもって、それを共有されなきゃあ分かんねえような奴は、めんどくさいから私がぶっ殺してやるっすよ」

 横暴だった。

 生きる意味が無いなら死んでも良いでしょ、という論法なのだろうか。

「……生きる意味を見つける、って生き方も、間違いじゃないと思うけどな」

「それはそれがもう生きる理由になってるじゃないっすか。もっとも、見つけなきゃいけないような時点で終わってるっすけど」

「辛口だなぁ」

「ま、人生使って世界を滅ぼしたかった、ってのは、少なくともメリーゼちゃん自身には、意味があったんじゃないっすかね。それはメリットとかデメリットとかじゃあ無い、メリーゼちゃんだけのモヤモヤがあったんすよ」

「……うぅん、分からんなぁ」

 黒瀬の言うことは、漠然としすぎていて加賀にはさっぱり理解できなかった。

「じゃあ、黒瀬後輩の生きる意味って何だよ」

「そりゃ、加賀先輩と一緒にいることっすよ」

 と、黒瀬は即答した。

 そして柔らかなおさげを揺らして振り向き、加賀に微笑みを見せた。

「…………」

 加賀は何も言わずに目を逸らす。

 その笑顔を直視できなかったのだ。

 ……あぁ、そうか。

 と、加賀はその時に理解した。

 少なくとも、彼女は、黒瀬は、元の世界でも、この異世界においても、とっくの昔から、自分が生きる意味に、なってしまっているのだ。

「……黒瀬後輩、メリーゼちゃんの日記、出してくれ」

 だから、気を紛らわすために、加賀は黒瀬にそんなお願いをした。

 そんな加賀の心境を全く理解していないのか、黒瀬は子猫のように首を傾げて足を止め、持ってきたメリーゼの日記を服の中から取り出して加賀に渡した。

 ちなみに今日の黒瀬は、真っ黒な無地のシャツとスラッとした長ズボンに、これまた真っ黒なローブを羽織った服装をしている。

 もちろん全てメリーゼの家にあったものだ。

 昨日街を歩いて観察した限り、おそらくこの世界では普通だろうと思われる服装をチョイスしたのだ。

 というかさすがに、パジャマだと知ったダボ服を着て再び同じ街に出かける勇気は黒瀬にも無いらしかった。

「このローブ超便利っすよ。ポケット的な部分がめっちゃあるっす。これならナイフも持ち歩き放題っす」

 パタパタと長いローブを楽しそうに振り乱す黒瀬。

 そのたびにカチャカチャとナイフの重なる音が聞こえるので笑えなかった。

「ゆけー、ころせー、こっろしやまーん。なぐれー、きりさけー、いのちをうばうー」

 とんでもなく下手糞な謎歌を口ずさみつつ、黒瀬は足を進めた。

 そんな黒瀬の後を、加賀はメリーゼの日記を開いて歩く。

 メリーゼの日記。

 朝食を取りながら黒瀬と軽く目は通したが、しかしまだ何か発見があるかもしれないと思い、黒瀬に持たせておいたのだ。

 ぺらりと加賀はページをめくる。

 メリーゼは『政府』から追われる身になる以前から、『召喚の手引き』の中にある様々な『良くない物』を召喚していたようだ。

 そう、メリーゼが召喚したものは、全て『召喚の手引き』に書かれていたもの。

 加賀と黒瀬も、例外ではない。

 とはいえ……加賀の持つ仕込み傘が魔法を殺す『魔法道具』……である可能性は、低い。

 代々伝わる秘宝……とかなら、まだあり得るかもしれないが、加賀の仕込み傘は、その出来上がるところを加賀自身が見ていたので、それは無いだろう。

 だから。

 だから、可能性があるとすれば、黒瀬のブラックナイフだ。

 そんな話を、加賀は黒瀬に伝えた。

「んー、どうっすかねぇ。ま、確かに、私のブラックナイフが『魔法道具』だったっつーなら、色々と納得っすかね」

 うんうん、と黒瀬は言いながら頷く。

「でも私、前にも言ったかもしれないっすけど、昔の記憶がねえんすよ。ブラックナイフも、気づいたら持ってたってレベルっすから、私としては何とも言えないっすね」

「……昔のことは、本当に何も覚えてない、のか?」

「覚えてないっすね」

 軽く、黒瀬は答えた。

「分かんねえんすよ。なんか、あぁ、殺さないとな、みたいな、そんな気持ちで、気づいたらいっぱい人を殺してたっす」

 黒瀬は言った。

 殺人鬼は言った。

 無機質に、無感情に、そう言った。

 だから、殺し屋は言う。

 だから、加賀は言う。

 絞り出すように、噛みしめるように、言う。

「……そっか」

 聞いてしまったことを、少しだけ後悔したから。

 そんなことを言わせてしまったのが、申し訳なかったから。

 しかし、それでも黒瀬は、そんな加賀に、黒瀬は柔らかく笑みを見せて、口をあける。

「んふふ、んでもその話なら、やっぱり私のブラックナイフが『魔法道具』って結論で落ち着くのかもしれないっすけど。魔法は私たちのすぐ側にあったってやつっすねー」

 ふふふん、と鼻歌を歌って黒瀬は再び足を進めた。

「……だけどその場合だとさ、どうして僕も召喚されたんだろう、ってのが疑問なんだよ」

 黒瀬のブラックナイフが『魔法道具』だとして、その持ち主である黒瀬が一緒に召喚されるのは納得できるが、そこに加賀が入る意味は分からない。

「加賀先輩は付属品じゃないっすか?」

「僕はオマケだったのか……」

 それとも、単純に近くに居たから、とかそんな程度の理由なのかもしれないが……。

 しかし、果たしてそんな単純なものか……?

 加賀はメリーゼの日記をめくる。

 例えば〈二十三回目の召喚。言葉の通じない魔獣だったので、無理やり封じてやった〉という部分。

 ここから推測できるのは、実際にどういうものが召喚されるのかは、メリーゼ自身もやってみるまで分からなかった、ということだ。

 だから、メリーゼが狙って黒瀬と加賀をセットで召喚した、ということは無いだろう。

 そういえばメリーゼと出会った当初、彼女は『召喚魔法は召喚対象を選べない』などと言っていたが……それもそういう意味だったのかもしれない。

 そこでふと気になったのは、日記の続きに書かれていた〈十四回目の召喚を実行しておいて助かった〉という記述だ。

 二十三回目に召喚した、言葉の通じない魔獣とやらを無理やり封印できたのが、その十四回目の召喚のお蔭らしいが……。

 その魔獣は兎も角として、メリーゼは、その何十回にも渡る召喚の成果を、一体どこに隠したのだろうか?

 いや、単純に送り返したとも考えられるが……。

 しかし〈私としたことが、召喚したものを隠しておく場所を失念していた〉という文からすると、そもそも送り返す気なんて無かったともとれる。

 なら。

 ならば。

 どこに隠した?

 そしてそれは、いつか使うつもりがあった?

 やはり気になるのは、十四回目の召喚物とやらだ。

 メリーゼの日記と共に『召喚の手引き』も持ってくるべきだったか。

 あれと照らし合わせれば、その召喚物が何なのか分かるのだろうが……。

 ……まぁ、それはまたメリーゼの隠れ家に戻れば良いだけの話だ。

 その前に、『何か』が手遅れにならなければ良いが。

「…………」

 もっともそれは、そんな『何か』があれば、の話だが……。

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