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その13-2 黒瀬という後輩は

「おはようございます!」

 と、外が明るくなってきた頃、黒瀬はベッドから跳ね起きた。

 髪がグチャグチャでなんかところどころ逆立っている。

「殺人鬼の朝は早いっす! 今日も元気だ殺戮したい!」

 黒瀬はベッドを降り、壁にもたれながら座っていた加賀に向かってヨタヨタと近寄る。

「んふふ~、この場合の『殺戮したい』ってのは、『殺戮死体』ってのと掛けられてる超高次元ななギャグなんすよ」

「……そうか。早く僕と同じ次元に帰ってきてくれ」

 朝から元気な黒瀬のせいで頭が痛かった。

 いや、頭が痛いのは単純に加賀があまり寝ていないからかもしれないが……。

「さー加賀先輩! 今日は! 今日こそは! バトルするっす! 殺し合いするっす! 武器屋のアルマちゃんとガチバトルっす!」

 テンションが高いのはそれが理由らしかった。

 殺し屋とか、殺人鬼とか、そういう以前に黒瀬は戦うことが好きなのだ。

「……この『世界』の悪い奴を倒す、とかいうのを目的にするのなら、べつにアルマちゃんと戦う必要は無いんだけどな。……まぁ、アルマちゃんが悪い奴じゃあない、とはまだ言えないけどさ」

 それに、悪い奴といっても、当然程度があるわけで、やたらめったら殺すというのは、やはり加賀としてはあり得ない選択肢だ。

 その辺り、黒瀬も何となく分かっているのか、

「ま、加賀先輩がオッケー出すまでは、なるべく殺さないようにするっすよ」

 と、黒瀬は腕を伸ばしてストレッチしながら言った。

「それに、アルマちゃんと戦う意味は、やっぱりあるっすよ。『悪人』とかいう奴らの強さ指標になるっすからね。ま、もっとも昨日も言ったっすけど、アルマちゃんなら加賀先輩と一緒に戦えば問題なく勝てるっすよ。加賀先輩なら一人でも楽勝なんじゃないっすかね」

「楽観的すぎると思うんだけどな……」

 昨日は加賀が黒瀬を引かせたので、まともにやり合っていないし、そもそも『魔法道具』について未知な部分が多すぎる。

「加賀先輩、そんなことよりも、とりあえず朝ご飯っす! 腹が減っては殺しができぬ! 昨日は加賀先輩に作ってもらったっすから、今度は私がなんか作るっすよ!」

 こいつ本当に何も考えてないんじゃないか、と加賀は不安になったが空腹だったのは確かなので、加賀は黒瀬を台所に案内した。

 昨夜、夕飯を作った際に軽く覚えた水の出し方や火の起こし方、それに食材の在り処を黒瀬に伝え、加賀は再び寝室へと戻ってきた。

 寝室に足を入れたところで、そういえば黒瀬って料理出来たのか? と不安になったが、考えるだけ不安が積み重なるような気がしたので考えないようにした。

 思考を紛らわすため、加賀は本棚に目を移す。

 結局、夜中に開いた『召喚の手引き』は、うとうとしながら全て目を通したが、あれ以上有益な情報を得ることはなかった。

 あるとするならば、そこに書かれていた『召喚できる物』は全てがネガティブな要素を持つ物ばかり……持つと不幸になる宝石とか、凶暴なモンスターだとか……そして、魔法を殺す『魔法道具』とか。

 だから、そういう面から考えるに、メリーゼにはやはり何か裏があったのだと思われる。

 最初から彼女は『本当のこと』を言っていないような感じではあったが……その『本当』とやらは、おそらく『ろくでもないこと』なのだろう……。

 ふと、そこで手に取った一冊の本に、加賀は目を奪われる。

『日記』。

 日記帳だ。

 当然これは、メリーゼのものだろう。

 加賀はその日記を開いて軽く流しながら目を通す。


〈私は母の意思を継いでここにいる〉

〈この『世界』を終わらせられる『何か』を召喚してやる〉

〈母が死んだのは、こんな閉鎖された『世界』のためではない〉

〈傍観してなど、いられない〉

〈七回目の召喚。まだ決め手に欠ける〉

〈私としたことが、召喚したものを隠しておく場所を失念していた〉

〈十四回目の召喚。良い『魔法道具』を召喚できた。フルクスさんのバスケットがヒントになった〉

〈『保守派』の監視を抜けるのにフルクスさんが手伝ってくれた。当然、フルクスさんは私の目論見には気づいていない〉

〈二十三回目の召喚。言葉の通じない魔獣だったので、無理やり封じてやった。十四回目の召喚を実行しておいて助かった〉

〈監視が厳しくなってきた。そろそろ決め手を召喚しなければ〉


 そんな感じの文字列が、加賀の目に入ってきた。

「……やっぱり、ろくでもないな」

 そして、想像通り、あまりにもつまらない動機のようだ。

 気になるところといえば、たびたび出てきた『フルクスさん』とかいう人物か。

 さん付けしている辺り、年上のお姉さんとか、そんな感じだろうか。

「加賀先輩! お待たせっす!」

 そこで、黒瀬がドアを突き破る勢いで部屋に入ってきた。

 両手にはお皿を持っている。

「……? なんだそれ」

 その皿の上には、なんか散切りにされた植物の破片みたいなものが山盛りになっていた。

「サラダっす?」

「なんで疑問形なんだよ」

 いやまぁ、黒焦げの謎物質とか出されるよりはマシだが。

 しかしこの、先ほど教えた火の使い方とかが全く生かされていないのが、何となく残念だった。

「私料理出来ないっすもん! 刃物しか扱えないっすもん!」

「……知ってたよ。いやいや、黒瀬後輩にしては上手く出来たんじゃないのか?」

「でもサラダを料理と言っていいのか、私は疑問っす」

「自分で言うなよ」

 サラダだって立派な料理である。

 少なくとも加賀はそう思った。

「おやおや? 加賀先輩、その本は何すか? エッチな本っすか?」

「ちげぇよ! どうしてメリーゼちゃんの家にエッチな本があるんだよ!」

 というか、異世界にエッチな本はあるのだろうか。

 ……いや、そんなことはどうでも良い。

「メリーゼちゃんの日記だよ」

「うひゃー、人の日記を見るなんて悪趣味っすねー。私も見たいっす」

「…………」

 とりあえず黒瀬の作ったサラダ的な何かをテーブルまで持っていき、真ん中にメリーゼの日記を置いて目を通しながらバリバリとその野菜みたいなものを食す。

「この日記を読む限り、メリーゼちゃんはこの『世界』を滅ぼす……とはまた違うんだろうけど、少なくとも『政府』と『悪人』が『世界』を支えている現状ってやつを壊したかったってことなのかな」

「でも、そのために危ねえ感じの『何か』を召喚するって、結局は『世界』を滅ぼすことになるんだと思うっすけどね。私らとか、完璧にそっち系っすよ」

「確かになぁ。文面からすると復讐っぽいけど、メリーゼちゃんに何かメリットがあるのかも分からない」

「復讐って時点でメリットとか関係ないと思うっすけどね」

 むしゃりむしゃりと黒瀬は葉っぱを咀嚼してから言う。

「それに、メリットとかデメリットとか、そういうこと考えて生きてる奴なんて、案外少ないもんっすよ。いや、考えはすると思うっすけど、少なくとも、行動の全てが損得で決まる奴はいないってことっす。加賀先輩はお利口だから、分かんねえかもしれないっすけどね」

「……なんかすげえ馬鹿にされてる気がするな」

「私は損得とかどうでも良くて、やりたいと思うことだけやるタイプっすけどね」

 そしてそこに、理由は無いのだろう。

 純粋に、やりたいのか、やりたくないのか。

 ただ、それだけだ。

 感覚で生きる黒瀬には、それが全てなのだろう。

「んでもって、そういう奴ほど危ないんすよね」

 自分で言うのも何すけど、と黒瀬は付け加えて言った。

「……まぁ、確かにな、分かりやすい損得が無いだけ、行動が読み辛い」

 そしてそれを理解するためには、内情に深く関わらなければならない。

 人の気持ちになって考えてみなさい、とかそういうレベルの問題ではないのだ。

 そして、いつも一緒にいる黒瀬の考えでさえ分からない加賀に、メリーゼの気持ちが理解できるはず、無いのだった。

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