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その12-3 偶然とか、たまたまとか

「『政府』の『役人』がどうして殺生を禁止されてるのかって言えば、『大戦争』のときに殺し過ぎたからなんだよね」

 と、アルマは唐突にそんな話を口にした。

 二十年前の『大戦争』。

 それによって、人間も魔族も、その数を半分くらいにまで減らしたと、小悪魔は聞いている。

 そして更に、その『大戦争』を終わらせるため、元『(クラスタ)』……現在の『政府』が暴れまわった結果、もう半分になった。

 人間と魔族を合わせた人口は、二十年経った今も、緩やかに上昇はしているものの、『大戦争』以前とは比較にならないほどに低い。

 そして、そんな焼け野原になったこの『世界』を『仮の支配者』という名目で管理している、『政府』。

「『私たちは傍観者ですよー』っていう、そういう立ち位置とか、そういう色々な理由づけはあるんだけど、結局のところ『政府』が殺生を禁止してるのは、ただ単純な話『ちょっと殺し過ぎたから控えようよ』ってことなんだよね」

「へー、そうじゃったのか!」

 目を丸くして両手を打つフルクス。

 いやあんたは知ってろよ、という視線を向けざるを得ない小悪魔だった。

「んまぁ、言っても『政府』……っていうか、元『(クラスタ)』のメンツはバトル大好き系な子が多いから、そういう子のストレス解消目的で『決闘祭』とか作ったみたいだけど……」

『政府』の『役人』五名に勝てば、『政府』の地位を奪い取れるという『決闘祭』。

 その目的は『仮の支配者』である『政府』よりも優秀な支配者を見つけるため……という建前であるが、しかしそういう側面もあったのか。

 つまりは、暇つぶしなのだろう。

 もっとも……それで我慢できない『役人』が、『過激派』などと呼ばれるのだろうが……。

「……で、私はべつに戦闘狂でもないし、『政府』が殺生を禁止するまでもなく、殺しはやらないタイプなんだよ。だから何が言いたいのかっていうと、そのメリーゼが召喚した『何か』が何であっても、私はそれを殺すつもり無いからね?」

 釘を刺すように、アルマはフルクスに視線を移してそう言った。

 フルクスは『政府』に身を置いている以上、殺生は出来ない。

 おそらく、アルマが本当に言いたいのは「メリーゼの敵討としてその『何か』を殺して欲しい、なんてお願いは聞かないよ」ということだろう。

 フルクスもそれは敢えて言われずとも分かっているらしく、

「ふん、分かっておるわい」

 と鼻で笑って腕を組む。

「最初からワシは、その『何か』に恨みなんて持っておらんよ。逆恨みも良いとこじゃからな。召喚対象は、召喚主を選べん」

 子供が親を選べんようにのう、とフルクスは溜息まじりに言う。

「しかし、当然放置するわけにもいかん。それはこの『世界』のためでもあるが……ワシ的にはメリーゼのためでもある」

「過保護だねぇ」

 と、アルマはいつか小悪魔がフルクスから言われたような言葉を口にした。

「それはつまり、今更だけど、『危険物』を召喚したメリーゼが非難を受けるのが怖いってことだよね? だから……うん、最低ラインは、その『危険物』を無かったことにする……ってところかな? でも、殺すつもりは無いんでしょ?」

「最低ラインは、召喚そのものを無かったことにする、じゃな。つまり、その『何か』を元の世界へと返すのじゃ」

「なるほどね。けれど、それは本当に最低ラインだよね? 少なくとも、キュクロの魔法を殺しちゃってるんだから、完全に無かったことにはならないし」

「うむ、となれば……やはり、一番良いのはアレじゃな」

「そだね。アレだね」

 くふふふ、と二人は同時に微笑んだ。

 何だか仲良しな子供同士が無邪気に悪戯を考えた、みたいな絵面である。

 ……というか会話についていけてないぞ、と小悪魔は焦る。

「あの……すみません、アレと言うのは……?」

「んー、小悪魔には、まだ秘密じゃ」

「え、何故ですか」

「んまぁ、それを言ったら答えを言ったも同然だから、答えられないかな? ごめんね小悪魔ちゃん」

「はあ……」

 何故かキメ顔のフルクスは兎も角、申し訳なさそうに両手を合わせて首を傾けるアルマに言われては、小悪魔も引かざるを得なかった。

 殺しはせず、元の世界へも返さない……とするならば、一体何をするつもりなのだろう。

 スノーフィ……というか『保守派』であれば、メリーゼと同じように監禁……といったところになるのだろうが……。

「それで、何かとっかかり的なものはあるのかな? というか、今もメリーゼの隠れ家に潜んでるかもしれないんだっけ? そこにはまだ行ってないの?」

 小悪魔の思考を遮るようにアルマは話を進めた。

「当然行ってみるつもりじゃ。とはいえ、情報は集めておくに越したことがない」

 言いつつフルクスは腕を組む。

「小悪魔よ、ワシのバスケットの中身、出して見せてやってくれ」

「あ、はい。では失礼して……」

 と小悪魔はフルクスのバスケットを漁る。

 まず取り出したのは、ナイフだ。

「これは、キュクロ様の魔法人形に刺さっていた物です。私やフルクス様の見立てでは、おそらくキュクロ様の魔法を殺した『魔法道具』なのではないか、と」

「ふぅん?」

 アルマは少しだけ興味深そうにしてそのナイフを手に取る。

「……んー、いや、これは普通のナイフかな。『魔法道具』ですらないよ」

「アルマが涎まみれにならんところを見ると、普通のナイフなんじゃろうな」

 かはは、と笑ってフルクスはアルマのツインテールを指で跳ねる。

「アルマは凄い武器を見るとアヘ顔晒すド変態じゃからなぁ」

「余計なこと言わないで欲しいかな」

 言いつつアルマはナイフの腹を指でなぞる。

 またフルクスが大袈裟なことを言っているんだろう、と小悪魔は思ったが、否定しないアルマを見るとあながちそれは嘘ではないのかもしれなかった。

「んまぁ、私もプロの鍛冶師だから保証するけど、これは至って普通のナイフだよ。見ただけじゃあさすがに分からなくても、触ればその構造が見てとれるんだよね。このナイフには、魔法も何も埋め込まれてないかな」

 ……ならば、キュクロの魔法を殺したのは、また別の魔法道具……か、それ以外の『何か』だ。

 フルクスの推理では、キュクロの魔法を殺したのは最低でも二体……。

 ならばもう片方の『何か』が『魔法道具』を持っている可能性もある。

「それにしても、魔法を殺す『魔法道具』……か」

 と、アルマはナイフを机に置いて腕を組む。

「それこそ『大戦争』のときには、そういうのいっぱいあったよね」

「そうなのですか?」

「うん。魔法を殺す道具。道具を殺す魔法。魔法を殺す魔法。道具を殺す道具。何かが何かを殺すことしか考えてなかった時代だったからね」

 弱肉強食はこの『世界』のルールだ。

 しかし『大戦争』の時代は、そのルールがもっと過酷に適用されていたのだろう。

「もっとも、そういう物騒な魔法や道具は、当時『(クラスタ)』だったメンバーやらで、異世界とかにふっ飛ばしたりしたんだけどね。私は鍛冶師だから、そういうのよくやってた」

「……あれ……待って下さい」

 そこで小悪魔は、一つの可能性に気付く。

「では、もしかしたら……その異世界にふっ飛ばしたはずの、魔法を殺す『魔法道具』を持った『何か』を、メリーゼ様が召喚した……とか」

「あり得るだろうね。いや、たぶんそれが正解かな? 召喚魔法ってのは、つまり対象を自分の座標に呼び出す魔法だからね。自分の場所、そして相手の場所が分からなければ実行できない。偶然とか、たまたまで召喚した、なんてのは有り得ないと思うかな」

 だから、メリーゼはおそらく、『大戦争』のときに異世界へ飛ばした危険な魔法道具の位置を、何らかの方法で知ったのだ。

 そして自らの魔法道具『喚起之杖(エンティティズ)』を使って実行した……。

「んで、手掛かりってのはこれだけかな?」

「あ、あぁ、いえ、もう一つ」

 と小悪魔は再びフルクスのバスケットに手を忍ばせ、それを取り出す。

「ふぅん? それは……?」

 地味な紺色の布地。

 赤いヒラヒラとしたリボンがアクセントとして飾られている。

 上と下に分かれた衣類。

「ふぅん、これはまた変わった服だね。見たこと無いや」

「メリーゼ様の隠れ家に何故か干されていた……おそらく『何か』が着ていたものと思われます」

「これは服屋にでも持っていった方が良いかもしれないね」

 アルマは服を手に取りつつ言う。

「うん、この服が『魔法道具』ってことも無いよ」

 そう言われて、確かにこの変わった服が『魔法道具』である可能性もあったことに小悪魔は気付いた。

 魔法はどんな物にだって埋め込めるのだ。

「あぁそういえば、変わった服と言えばね、今日は面白いお客さんが来たんだよね」

 そこで、アルマは思い出したように両手を合わせた。

「なんでか知らないけど『悪人』……っていうか、私を狙って来たみたいで、『悪人』を倒すんだったら事前予約してねーって言って追い払ったんだよね。んで、そのお客さんたちとはまた明日に戦う予定なんだけどさ」

「ほほう、アルマに喧嘩売るとは身の程知らずじゃのう。『悪人』倒したいなら、もっと雑魚にすれば良いものを」

「だよね。んでさ、その男女……たぶんカップル……いや、先輩とか後輩とか言ってたからそういう関係じゃあないのかな? 兎も角、その二人組の変なお客さんなんだけど。男の方もなんか真っ黒で変わった服装をしてたんだけどね、女の方が何故かパジャマだったんだよ。どういう組み合わせだよと思って聞いてみたら、なんとその二人、異世界から来たんだってさ」

「へぇ……」

 ……いや。

 いやいやいや。

「あの、アルマ様。それ……って」

「え? ……いやいや小悪魔ちゃん、さすがにそんな偶然は無いんじゃないかな? 確かに面白い武器を持ってる二人組だったけれどさ、べつにその武器が魔法を殺す『魔法道具』だったー、なんてオチは無いよ。私は武器職人だからね。そこは保証できるかな」

「全くじゃな。小悪魔よ、さすがにそんな偶然は無いじゃろう。そんな、今日たまたまアルマが会ったという異世界から来た変わった服装の二人組が、異世界からメリーゼが召喚した変わった服装をしていると思われるおそらく二人組の『何か』と一緒じゃなんて、有り得んじゃろうよ」

 わざとらしくそう言って、二人のロリババアは笑う。

 あはははは、と大きく笑った後、ロリババア達は揃って息を吐き出す。

「……でも、さっきはメリーゼ連れて帰ってって言ったけど、明日までは、まぁ、居て貰っても良いかな?」

「……うむ、そうじゃな。よしよし、そういうことならばその言葉に甘えさせてもらおうかのう。まぁ、ひょっとしたら、偶然、たまたま、その二人組とやらとすれ違うことはあるかもしれんけど、たぶん、おそらく、きっと、全く関係ないじゃろうけどな」

 二人のロリババアは再び乾いた笑い声をあげた。

 単なる偶然なのか、それとも……。

 しかしそれはどの道、明日分かることだ。

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