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その12-2 白の幼女と金の少女

「おらー! 起きろアルマー!」

 あの後すぐにフルクスと小悪魔はメリーゼを連れてブロークンブレイクまでやってきた。

 ブロークンブレイク。

 首都ルナルノルーナからは遠く離れた土地であるが、しかしこの街はなんとメリーゼの隠れ家と目の鼻の先であるらしい。

 メリーゼの隠れ家には、今もメリーゼが召喚した『何か』が潜んでいる可能性があるので、そんな場所の近くというのも不安であるが……しかしそれでも大丈夫だと言える自信がフルクスにはあるのだろうか。

 メリーゼ。

 小悪魔が背負う、未だに意識を取り戻さないメリーゼ。

 メリーゼの身体はフルクスよりも大きいが、それでも鎌が無いのでその分だけ苦ではない。

「おい! おらんのか!? 開けろコラー!」

「ちょ、ちょっとフルクス様、もう少しお静かに……」

 夜中だというのにお構いなく、純白の髪を乱してドンドンと店の扉を叩き喚き散らすフルクス。

 借金取りか何かか。

 小悪魔がそんなフルクスを宥めていると、唐突に扉が開く。

「こんな時間に騒いでる人は誰なのかな!? 何時だと思ってんの!? 近所迷惑考えて欲しいんだよね!」

 うがー! と両手をあげて現れたのは金髪オールバックでツインテールな女の子だった。

「って、フルクス……?」

「おう久しぶりじゃなアルマ」

 この少女がアルマか? と小悪魔は目を丸くする。

 この金色の少女が、フルクスの旧知……?

「おじゃましまーす」

「え、え、何? もう寝るところだったんだけど」

 フルクスは戸惑うアルマを押しのけ、我が物顔で店の中に足を踏み入れる。

「空いてる部屋はあるか?」

「え? 部屋?」

「メリーゼを寝かしておきたいんじゃが」

「え? メリーゼ?」

「あー、あー、あー、とりあえずお茶飲みたいのう」

「あーもう! 一体何なのかな!」

「…………」

 小悪魔はキレ気味のアルマと空気の読めないフルクスを落ち着かせ、とりあえずメリーゼを空き部屋に寝かせた。

 そして、三人は店に置かれた接客用のテーブルを挟んで向かい合う。

 そこで小悪魔とフルクスはアルマにこれまでの経緯を説明した。

 メリーゼが『何か』を召喚したということ。

 その『何か』にキュクロの魔法が殺され、メリーゼも瀕死の重傷を負ったということ。

 そして現在、メリーゼが『保守派』に狙われているということ。

「あーそう、そりゃあ大変だね。お疲れ様。もうメリーゼ連れて帰ってよ、眠いんだよね」

「おいおい、つれないこと言うなよアルマ」

 一蹴するアルマに対し、フルクスはテーブルを跨いでソファを移り、べたべたと貼りつくようにアルマの身体に両手を回す。

「なー、なー、昔馴染みなんじゃからさー、ちょっとくらい我儘聞いてくれても良いじゃろーが」

「あーもう鬱陶しいなぁ! まとわりつかないで欲しいかな! って、おっぱい触んな! ツインテール引っ張るな!」

 なんかもう子供同士がじゃれあっているようにしか見えなかった。

「良いではないかー良いではないかー。元『政府』の仲間じゃろうがー」

 元、『政府』……?

「……え? アルマ……さんって、『役人』だったんですか?」

「ん? うん、そだよー。んまぁ、私は『(クラスタ)』が『政府』とか名乗り始めてすぐに辞めちゃったけどね」

 アルマは抱きつくフルクスを振り払って答えた。

「うむ。そしてアルマは『政府』『ババア四天王』の元メンバーでもあるのじゃ」

 なんだその聞いたことの無い謎の組織は。

 フルクスの旧知というから何となくは想像していたが、アルマもフルクスと同じでロリババア属性があるらしい。

「そんなことは置いといてさ、とにかく、私はフルクスの我儘に付き合うつもりは無いんだよね」

 ムフン、とアルマは腕を組む。

「そもそも、こうなったのはフルクスがしっかりとメリーゼを教育しなかったせいじゃないのかな? メリーゼに好き勝手やらせておくなら、その責任もメリーゼに取らせるべきだよ? 守るって意味を履き違えてないかな? 他の人に迷惑かけておいて、いざとなったら責任を放棄させようなんて虫が良すぎるんだよね。モンスターペアレントかな? それで今度は私に迷惑かけるつもり? そんなの有り得ないと思わないかな?」

「ぐ……ぐうの音も出ん……」

 すげぇ……フルクスが説教されてる、と小悪魔はなんか感動した。

 さっきまでのテンションが嘘のようにフルクスはすっかり縮こまってしまった。

 どうやら力関係はアルマの方に分があるらしい。

 そういえば……と小悪魔は思い出す。

 メリーゼの隠れ家はフルクスが場所やらを決めたという話。

 ならばフルクスは、アルマが納める街の近くをわざと指定したのだろう。

 何かあった時、すぐにアルマが対処できるように。

 ……もちろんそれは、アルマに迷惑をかける、ということなのだろうが。

「アルマよう、ワシの愚かさは承知の上で……そこを何とか……」

 少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なさそうな表情で、フルクスはアルマに再び寄り添う。

「だからツインテール引っ張らないで欲しいかな」

 アルマは首を振ってフルクスを振り払う。

「昔馴染みだからこそ、私は譲らないんだよ? フルクスだって、頭では分かってるでしょ? いい加減、その少しズレた優しさ……っていうか、甘さを直さないと、そのうちダメ男製造機にでもなるんじゃないかな?」

 うんうん、と小悪魔は頷く。

 アルマとは気が合うかもしれない、と思う小悪魔だった。

「……余計な御世話じゃもん……」

「世話を焼く気なんてないけどさ。んまぁ、『世界』を見守ろうよってスタンスの『政府』に身を置いてる以上、メリーゼが何を考えて行動していたとしても、それは『悪いこと』なんだよね。それが嫌ならその居場所を放棄するべきなんだよ。私みたいにさ」

 アルマが『政府』を、『役人』を辞めた理由。

 それは一体何だろうか。

 だがそれはおそらく、ただ単純に、その思想に合わなかったから、なのだろう。

 居心地が、悪かったのだろう。

「だから、メリーゼは連れて帰ってくれるかな? フルクス。メリーゼを守りたいのなら、君が、責任を持って、個人的に、メリーゼを守るべきだよ」

「……ぶー、分かったわい」

 フルクスは頬を膨らまして拗ねたように答えた。

 不満そうではあったが、しかしここで引いたということは、自分の非をある程度認めたということなのだろう。

 しかしこれで、メリーゼは連れて帰らなければならなくなった。

 フルクスに代案はあるのだろうか……。

「ただし」

 と、そこでアルマは人差し指を立てた。

「メリーゼが召喚した『何か』とやらについてなら、協力してもいいかな?」

「……と言いますと?」

 小悪魔は勘ぐるように聞いた。

「そのままの意味だよ。その『何か』が何なのかは分かんないけどさ、それは多分、『どうにか』しなきゃいけないものだよね。私は『政府』とはもう関係ないけど、今は治安を守る『悪人』だから、その『何か』の対処に協力しろってのは、やぶさかじゃあないかな」

 アルマはちらりとフルクスに視線を流して言う。

「もちろんそれ以前に、昔馴染みとしてね」

「……ん、それはありがたい、のう」

 フルクスは少しだけ恥ずかしそうに顔をそむけ、アルマのツインテールを引っ張る。

 それに対し、アルマは瞳を閉じてクスリと微笑んだ。

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