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その7-3  加賀の変態武器

「うっひゃー、加賀先輩、めっちゃ武器並んでるっすよ!」

 どこかアンティークでお洒落な室内。

 天井にはキラキラと光るシャンデリア的なもの。

 壁には多くの剣やら鎧やらが掛けられている。

「かっけーっす! なんすかあの無駄にめっちゃトゲ付いた鎧! あっちには見るからに実用的じゃなさそうで誰が特をするのか分かんねえ鎖で繋がれた意味不明ナイフがあるっす!」

「その妙に説明的な台詞は何だよ」

 黒瀬は珍妙な道具たちに惹かれて吸い寄せられていった。

 おもちゃ売り場に来た子供みたいなテンションである。

 店内にはチラホラと人が見受けられたが、大通りと違って目線はそれほど気にならないらしい。

「ふぅむ……」

 と、加賀は周りを見渡す。

『魔法道具』と看板にはあったが……なんというか、武器屋に近い。

 武器。

 加賀は仕込み傘を己の武器として使っている。

 加賀の一族と縁のある有名な刀鍛冶の作品だ。

 その質は、使用者である加賀が保証する。

 果たして、ここに並べられた武器はどれほどのものなのか……。

「お客さん、何かお探しかな?」

 と、そこで背後から鈴を転がしたような声音が聞こえた。

 振り返ると、なんか小さな女の子が加賀を見上げていた。

 全て上げられた前髪。

 長い金色の大きなツインテール。

 フリフリした真っ黒なエプロン。

「……えぇと、店員さん?」

 子供にしか見えないが……。

「店員っていうか、店長だね。店長のアルマ。アルマちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」

 滅茶苦茶軽いノリの店長だった。

 ……いや、冗談か?

 ごっこ遊びの類かもしれない。

「お客さん、物凄く疑ってるかな?」

「……まぁね」

「あははは。んまぁ、私を知らない人は皆そうだよ。私のことは胡散臭いかもしんないけどさー、この店の武器は良い物ばかりだよ? ていうか、この店にある『魔法道具』は全部私が作ってんだよね」

「えっと……ここにおいてある剣とか鎧とか、全部を?」

「そだよー。全部私の作品。私、店長で鍛冶師だからね」

「……そりゃあボリュームのある役職だ」

「お客さんも、なんか面白そうなもの持ってるね。それ、珍しい形をしてるけど、傘だよね? んー、中に……刃物が入ってるのかな?」

 アルマは加賀の持つ傘を指さした。

 それに対して加賀は少し驚く。

 加賀の仕込み傘は、一見したら傘にしか見えないはずだからだ。

 それは当然のことで、傍から見てそれが刀だと分かるのなら、それは仕込んでいるとは言えないだろう。

「私くらいの鍛冶師になるとさー、パッと見でそれがどんな武器なのかとか、何となくだけど分かるんだよね」

 店長だとか鍛冶師だとか、そういう話は置いておくとして、どうやら彼女……アルマは只者では無いらしい。

「ね、ちょっと見せてもらえないかな?」

 何だか目をキラキラさせてアルマは言った。

 さて、どうするか。

 体中にナイフを仕込んでいる黒瀬は兎も角、加賀の持つ武器はこの仕込み傘一つだけである。

 だから基本的に仕込み傘から手を離すことは無いし、他人にそれを持たせるなんてことは、まずあり得ない。

 ……とはいえ、ここでアルマにそれを奪われたところで、この体格差ならどうにでもなるだろう。

 この街についての情報や、メリーゼから聞けなかったこの世界のことを聞いてみるのなら、ここで少しぐらいは印象を良くしておくのが得策かもしれない。

 と、加賀はアルマに仕込み傘を差し出す。

「うは、案外重いんだね。お、お、お? すごいやこれは。なるほどなるほど、こうすると……わぁお、剣出た! 剣が出たー! うん、これは結構な変態武器だね。いやいや褒め言葉だよ? というかこの刃、とんでもなく品質が良いね。作った人の腕は……私とどっこいどっこいってところ? んー、でもどうかなー。ここまで細くて頑丈っぽいのは難しいかなー。あー、これ、見るだけで惚れ惚れしちゃうよこの剣身! これは、実に、良い武器だね!」

 テンション上がりすぎだった。

 そこまで絶賛されると逆に恥ずかしい。

「え、えぇと、もう良い?」

「あぁ、ごめんねー。私、こういう変態武器には目がなくってさー。変態な物を見ると興奮しちゃうの」

 なんか色々誤解されそうな言い回しだった。

 キンッ、と傘に刀身を収め、アルマは加賀に仕込み傘を返す。

「敢えて言わせてもらっちゃうけどさ、その武器、手放さないほうが良いね。生涯大切にするべき逸品だよ」

「……うん、そうするよ」

 加賀は少しだけ返答に遅れた。

 この仕込み傘を持つということ。

 それは加賀にとって『殺し屋』を続けるということだ。

 加賀は、いつまで『殺し屋』を続ける?

 疑問を抱いたまま、黒瀬と、いつまで『殺し屋』であり続けるのだろうか。

「ところで、お客さん達さー」

 と、未だに飾られた武器を興味津々に見つめている黒瀬をチラッと見てから、アルマは口を開く。

「珍しい格好してるけど、もしかして異世界からでも来たのかな?」

「えぇと……うん、そうだよ」

 むしろ隠すべきでは無いだろうと思い加賀が素直に答えると、アルマは目を丸くした。

「あら、テキトウに言ったけど当たっちゃった。ふぅん、異世界からのお客さんは珍しいかな。この店で長いこと商売してるけどさ、異世界から来たっていうお客さんは……君たちで三十人目くらいかな!」

「あ、結構多いんだ」

 まぁ、召喚魔法がある以上、この世界において異世界から来た存在というのは、言うほど珍しくないのかもしれない。

「この世界に来てどれくらい経つのかな?」

「いや、昨日からだよ」

「昨日!? それなのにそこまで言葉が話せるってすごいよ? お客さんを召喚した人は、相当な魔法の使い手ってことだね」

「……えぇと、どういうこと?」

「召喚魔法ってのは、翻訳魔法を併用して使うもんなんだよね。翻訳魔法が無いと召喚しても相手とコミュニケーションが取れないからさ」

「あー、確かにそうだね」

「ただ、召喚魔法はそれ単体ですでに無茶苦茶に難しい魔法なんだよ。そこに翻訳魔法を組み込む余裕なんてほとんど無いわけ。だから、お客さんたちみたく流暢に話せるレベルにまで落とし込めるって、本当にすごい魔法の使い手じゃないと出来ないんだよ」

「なるほど」

 全然分からなかった。

 ……しかしどうやら、加賀や黒瀬がこの世界の言葉を使えるのは『メリーゼがとんでもなく凄かった』というのが理由らしい。

 おそらく、自然と文字が読めるのも同じ理屈だろう。

「…………」

 メリーゼ。

 結局、メリーゼは何者だったのだろうか。

 殺してしまった今、それは加賀や黒瀬にそれは確かめられない。

 加賀や黒瀬は、知り得ない。

 メリーゼが、何者であったとしても。

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