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その7-2 絡んで絡まれて

 街の中には人が溢れていた。

 見たところ車とか、そういう元の世界にあったハイテクっぽいものは見当たらない。

 本当に、中世ヨーロッパにタイムスリップした感じだ。

 若しくはそういうテーマパークとか。

 違いがあるとすれば、悪魔っぽい尻尾が生えた人とか、猫耳らしきものを生やした人がたまに歩いているという点だ。

 ……コスプレ会場?

「つーか、加賀先輩、なんか私達、めっちゃ見られてないっすか?」

「うぅん、確かにそんな気がするな」

 視線。

 何か珍しいものでも見るような視線。

 道行く人々が皆揃ってそんな風に見てくる。

 加賀の学生服姿が目につくのか、それともダボダボスウェットの黒瀬に目がいくのか……。

「ちょっと聞いてくるっす」

「は?」

 黒瀬は道を歩く一人の男性に向かってガンを飛ばし、加賀が制止する間もなくその男性に近づいていった。

「おいおっさん、何さっきからジロジロ見てんすか? なんか文句でもあるんすかー?」

 完全にチンピラだった。

 ドスの利いた声がすげぇ怖い。

 絡まれた男性は完全に萎縮して目線をそらしつつ口を開ける。

「あ、あぁ、いや、その、ちょっと珍しい格好だな……と思って、ですね」

「おい黒瀬後輩、あんまり目立つなって」

 ぽふん、と黒瀬の頭に手のひらを乗せて加賀は言う。

「すみませんね、こいつはちょっと頭のネジが壊れてまして」

「い、いや、こっちこそ、すまんね……。そ、それじゃあ」

 言って、男性はそそくさとその場を離れていった。

「なんすか加賀先輩、せっかく私が穏便に話し合いで解決しようとしてるところを」

「いや全然穏便じゃなかったけどな」

「殺し合い以外は私にとって穏便なんすよ」

 穏便の幅が広すぎる。

「んでも、なんで注目浴びちゃうんすかね。そこら辺歩いてる悪魔っ子とか猫耳ちゃんの方がよっぽど面白いと思うっすけど。私達、この世界ではそんな変な格好に見えるんすか……ハッ、加賀先輩……も、もしかして」

 と、黒瀬は急に青ざめ、頬に両手を当てた。

 尋常ではない様子である。

「どうした? 何か気がついたか?」

「私のブラ、やっぱ見えてるんじゃないっすか!? は、恥ずかしいっす!」

「……大丈夫だと思うけど」

 なんというか、女の子っぽい部分は黒瀬にもあるらしい。

 百パーセント殺人鬼配合ではないようだ。

「えー、本当に見えてないっすか?」

 少し顔を赤らめ、黒瀬は上目遣いで加賀を見つめる。

「だ、大丈夫だって」

 加賀はあしらうようにそう返す。

 何だか照れくさい気分だ。

「……うー、でもやっぱり、なんか恥ずかしいっす……だから、えいっ」

 言って、黒瀬は加賀の腕に抱きついた。

 黒瀬の柔らかい腕がまとわりつく。

 むにゅりと柔らかい二つの球体に挟まれる。

「お、おい何だよ」

「んふふ~、こうしてれば加賀先輩の腕でガードされてブラジャーは絶対に見えないっすよ。加賀先輩によって私のブラは守られたっす」

 加賀の腕によって胸が侵略されているのは問題ないのだろうか。

 黒瀬の基準が分からなかった。

「…………」

 とりあえず平常心を装う。

 紳士だから。

 というか、そんな黒瀬の突拍子もない行動で、更に周囲の注目を浴びてしまった。

 何をするにしろ、無駄に目立つのは特にならない。

「黒瀬後輩、とりあえずどこか人の少ない場所に移ろう」

「人の少ない場所で私に乱暴するつもりっすか!?」

「しねえよ!」

 黒瀬相手だと逆に乱暴されてしまいそうだ。

 人の少ない場所を好むのは、むしろ黒瀬である。

「せめて何か仕切りのある場所……お店とかでも良いから、何か無いかな」

「いやらしいお店っすか!?」

「ちげえっつってんだろ!」

「加賀先輩はツッコミのテンションが激しいっすね。うーん、そうっすねぇ……おやおや? 加賀先輩、それならあそこはどうっすか?」

 言って、黒瀬は前方を指さした。

「あそこの看板に『魔法道具』って書いてあるっすよ。なんか不思議道具とか売ってる店っすかね?」

 中世ヨーロッパなこの街にうまく溶け込んだ、赤いレンガ造りの建物。

 お店ならば、何らかの情報収集には使えるかもしれない。

 そこらの通行人に絡んで聞き出すよりは現実的だろう。

「『魔法道具』屋か。何だろうな……っていうか、あれ?」

 文字が読めた。

 看板に書かれている文字は、明らかに日本語では無い。

 それにも関わらず、驚くほどすんなりと、その見たことのないはずの文字がスラスラと読み取れた。

「……黒瀬後輩、僕達って、あんな文字知らないよな?」

「んん? あれ、そういえばそうっすね。なんで読めるんすかね」

 そこで、メリーゼのことを思い出す。

 メリーゼは最初、日本語を喋った。

 しかし、異世界であるこの世界に、日本語があるはずがない。

 つまり、あれは日本語ではなく、加賀と黒瀬が『日本語として理解できた』だけ……?

 先ほど黒瀬が絡んだ男性もそうだ。

 加賀と黒瀬は、あの男性の言葉が理解できた。

 知らないはずの文字を見て、自然とその文字の意味が読み取れたように、知らないはずの言葉でも、自然と意味を理解してしまっている……?

 これも、魔法の力なのだろうか。

「んまぁ、とりあえず『魔法道具』って超気になるっす。行くっすよ先輩!」

 黒瀬に絡みつかれたまま、『魔法道具』屋の中へと足を踏み入れる。

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