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その7-4 今時の流行『魔法道具』

「加賀先輩ー……って、あれ、この子は誰っすか? また幼気な少女に悪戯しようとしてるんすか?」

「してねえよ! というか『また』って何だ。一度もしたことねえよ!」

 どうやら黒瀬は加賀のことを変態キャラにしたいらしい。

 意図が不明すぎる。

「店長のアルマだよん」

「ふぅん? 店長さんっすか。それなら丁度良かったっす。加賀先輩、この超格好良いナイフ欲しいっす!」

 と、黒瀬は何やらグンニャリと歪な形にネジ曲がった謎の刃物を差し出した。

「これも『魔法道具』なんすよね? アルマちゃん、これがあれば私にも魔法が使えるんすか!? めっちゃ楽しみなんすけど!」

「いんや、それは『手動魔具(アクティブツール)』だから魔法の知識が無いと無理だね」

「ほぇ? あくてぃぶつーるって何すか?」

 黒瀬は子犬のように首を傾げる。

「いやまぁ、『魔法道具』ってのも、全然知らねえんすけどね」

「お客さん……召喚主からそういう知識は聞いてないのかい?」

 後輩が殺してしまったのでもう聞けないんです、とは言えなかった。

 当の本人はなんか照れくさそうに髪を触っている。

 意味が分からない。

 そういえば……と加賀は思い出す。

 メリーゼが持っていた杖。

 あれは『魔法道具』だったのだろうか。

 召喚魔法を使うためにあの杖を使っていた……?

「アルマちゃん、魔法を使うために『魔法道具』が必要ってこと?」

「必要ってことは無いよ。……んー、何も知らない人に説明するって難しいんだけど……」

 むふぅ、とアルマは腕を組む。

「んまぁ、『魔法道具』っていう触媒を経由させて魔法を使う方式ってのが、最近……ここ二十年くらいの流行りだね」

「魔法にも流行とかあるんだ……。どうして触媒を使うのが流行ってるんだ?」

「そりゃ効率が良いのさ。んー、ちょっとこっちにおいでよ」

 言って、アルマは手招きをしてカウンターの方へ向かった。

 木製っぽい古ぼけた横長のテーブル。

 アルマはその上にペンと紙を取り出して広げた。

「魔法ってのはね、そもそも、場所や空気、魔法文字での呪文詠唱とか、その場の魔力がどれだけあるか、とか色々な方法や要素やら絡み合って……」

 アルマは話しつつ紙の上にペンを走らせる。

 デフォルメされた魔法使いが苦労して魔法を発動させている、みたいなイラストが描かれた。

 妙に上手い。

「そんな感じで根本的に魔法は扱いが難しいものなのさ。だから、予め面倒な魔法要素を封じ込めたのが触媒……『魔法道具』って言われてるものね」

 苦労していた魔法使いのイラストに杖が持たされた。

 小難しい表情だった魔法使いの表情が笑顔に変わる。

 芸が細かい。

「杖とか剣みたいな武器を触媒にするのが一般的かなー。意表をついたところだと、西の方にある都市では、自らの血液を触媒にする『悪人』もいるそうだけどね」

「そりゃあ特殊過ぎる感じがするな」

 あまりうまくイメージがつかない。

 血液を『道具』として見ている……ということだろうか。

「そだね。単純に自分の肉体を強化する、なんてのもアリだけど。ま、そういう場合『魔法道具』とはニュアンスがズレちゃうけどさ」

「僕的にはそっちの方が『魔法』って言われてシックリくるなぁ」

 肉体強化、というのは、なんというか基本っぽいイメージだ。

「そっすね。私的には呪文唱えて大爆発! って感覚っすけど」

「んまぁ、そういう『呪文を唱えて魔法を使う』みたいな方式が普通だったんだけどね。二十年前……というか、『大戦争』が終わるまではそうだったんだよ」

「『大戦争』?」

 と加賀は聞き返す。

 この世界にも戦争があるのだろうか。

「そ、『大戦争』。人間族と魔族がこの世界を巡って全面戦争してたんだよね」

 そういえば街の中には悪魔っぽい尻尾や猫耳の生えた人が居たが……それが魔族なのだろうか。

「ふえー、どこの世界も物騒っすね。んで、どっちが勝ったんすか?」

「それが、どっちも負けたんだよね」

 加賀と黒瀬は揃って首を傾げた。

 どちらも負けた……とは、どういうことだろう。

「第三勢力。人間族とか魔族なんていう種族は関係のない集団」

 アルマは目を細める。

「当時は『(クラスタ)』なんて呼ばれてたけど、それが人間族と魔族のトップを叩いたのね。それで無理矢理『大戦争』を終わらせたのさ」

 両方のトップを『叩いた』とは、つまり戦力を潰したということだろう。

 人間族や魔族と言われても、その戦争の規模はピンとこない。

 それでも『大戦争』というだけあって、二つの戦力はかなり強大だったはずだ。

 それを一度に相手して、しかも勝ってしまうとは……。

「それが、今の『政府』。『役人』と呼ばれる人達で作られた集団ね。『政府』の『役人』は、全員が『魔法道具』の扱いに長けた、いわばスペシャリストってわけ」

「あぁ、だから『魔法道具』が流行ったのか」

 それぞれの種族……『世界』のトップだった戦力を、一度に叩いた『政府』。

 その集団が使っていた道具……方式となれば、それが流行るのは当然だ。

 種族間の戦争を終わらせ、それまで普通だった魔法の方式も塗り替えた。

それが……『政府』か。

 メリーゼ曰く、「どれだけ『悪人』が集まっても太刀打ち出来ないほどの力を持った、実質的にこの『世界』を支配している最強の集団」。

 相手にするべきではないと何度も繰り返していたのは、そういう背景があるからか。

「…………」

 メリーゼは『政府』に追われていた。

 そのメリーゼを、黒瀬は殺してしまった。

 つまるところ、そこに、『繋がり』が出来てしまっている。

 今の話を聞く限り……できれば相手にしたくない存在だが……。

 例えば。

 例えば……。

 その『繋がり』を見つけてしまうような、そんな魔法を使える『役人』が居るとすれば……。

 仮に、『政府』と接触したとしても平和的に解決したい……が、脳裏を黒瀬がよぎった瞬間「うん、無理だな」とあっさり諦めた。

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