第九話
私は魔法陣の前にたどり着く。
前に来た時は色が白色だったが、今は赤色に変わっている。
恐らく持っている"属性使いスキル"の属性によって色が変わるのだろう。
カオリの場合だと多分風使いだから緑色とかになるのだと思う。
私は魔法陣に近づくと、クエスト表記が現れる。
タイトルは『心に炎を宿した勇者』。
「…………かっこいいな」
まだ最初の方のダンジョンの追加クエストなのに。
名前が非常にかっこいい。
だけどオススメレベルは13と高め。
子供心がくすぐられた初心者プレイヤーを殺しに来ている。
「……じゃ、初見殺しにあってあげますか」
私はニヤリと笑ってクエスト参加ボタンを押す。
すると魔法陣が光を放ち、治まったタイミングで目を開くと、そこには人が座っていた。
年老いた見た目の男性で、片手には剣を持っている。
そして背中の木に寄りかかるように地面に腰掛けている。
男性は私の方を見るとニコリと笑う。
「やぁ。冒険者かい?」
老人特有の萎れた声だが、どこか威厳を感じる。
「私は見ての通り、そこら辺にいる老人だよ。昔──この土地では"勇者"と呼ばれてはいたがね」
予想は出来ていたが、やっぱりこの老人がクエストの中心なんだ。
「この剣は私の相棒でね。長らく使い過ぎて私の力が深く染み込んでしまったんだよ」
老人が剣を鞘から抜いて、刀身を見せた。
刀身は燃え盛る炎のように赤く、生き物のように力強い気迫を感じた。
「この世界は、私が若い頃は非常に荒れていてな、今でもその気配が消えきらない……だが、私はもう剣を全力では振れん。そこで君に頼みたい」
老人は私に熱い眼差しを向けてきた。
ゲームのCPUとは思えない、人間らしい完成度に、私は鳥肌が立つ。
「私の力を、君が扱えるか試させて欲しい」
目の前に「はい」と「いいえ」の選択肢が現れる。
勿論私は「はい」と選択する。
直後老人が立ち上がる。
「ここでは派手なことは出来ないな。そこの霧のダンジョンに来てくれ。大丈夫私が道の霧を晴らしておこう」
そう言って老人は、霧のダンジョンの中へと消えて行った。
私はダンジョンの入口に立つ。
前にカオリと来た時と同じく、霧が立ち込めているが、その中に微かに茜色の炎が見える。
多分、あの老人が導いてくれてるのだろう。
本当に作り込みが凄いゲームだ。
我ながら見る目があったな。
炎がある方へ歩いていくと、最奥へとたどり着いた。
最奥の霧は晴らされており、周りには炎が灯されている。
中央には老人が剣を持って待っていた。
私は深く考えずに老人に話しかける。
「待っていたよ。では、君の力を試させてくれるかい?」
またもや「はい」と「いいえ」の選択肢が現れる。
私は「はい」を押し、剣を右手に構えた。
老人も剣を両手で握りしめると、私に向かって笑いかける。
「さて。私の剣に見合う者かどうか……見せてくれ」
老人は私に右手をかざすとスキルを詠唱した。
「"ブレイズショット"」
右手からサッカーボールくらいの大きさの火球が放たれる。
弾速もそこそこ速く、反応して躱したのがギリギリだった。
魔法が飛んでくるとは思わなかった。
見た目的に知力(魔法の攻撃力)が高いとは思えないが、当たったら死ぬと仮定した方が良い。
相手は"勇者"とまで呼ばれていたのだ、絶対に弱いはずが無い。
何よりレベル差が明確に離れているからだ。
被弾して倒されはしなくても、致命傷にはなりかねない。
老人が立ち続けにスキルを唱える。
「"ブレイズアクセル"」
老人の足に炎が宿る。
そして剣を再び構えて、こちらにものすごい速度で迫る。
敏捷力のステータスを上げるスキルだ。
「"火炎斬"」
老人の持つ赤い剣の刃が燃え盛る。
燃える刃を私に迷い無く振るう。
私はそれを自分の剣で受け止める。
剣から剣に伝わる重い一撃に、私は歯をギリッと鳴らす。
「ぐっ……"ストロングス"!」
私は攻撃力強化スキルを使い、重い剣を無理やり押し返す。
私は後退してスキルを使用する。
「"アクセラレート"」
敏捷力強化スキルを使用し、自身の速度を高める。
軽くなった足で、今度は私から老人に向かって駆ける。
目の前までやって来た時、突如老人が剣先を天に掲げる。
すると足元に老人を中心に魔法陣が現れる。
悪寒がして、私は咄嗟に足を止め──。
「"跳躍"っっ!」
強化された敏捷力にものを言わせ、全力で空中に逃げる。
その本当に数コンマ後、老人がスキルを唱えた。
「"エクスプロージョン"」
魔法陣内で、大規模な球状爆発が起こった。
轟音と爆炎が巻き起こり、爆風だけで体が持っていかれそうになる。
老人から離れた地面に着地すると、体力が減っていることに気づく。
「爆風掠っただけなのに……」
予想だにしなかった攻撃力に思わず苦笑いする。
こんなものが初心者帯のエリアに割り当てられているとは。
冷静さを欠いてしまいそうだ。
私は一旦深呼吸をする。
こうなれば、短期決戦に賭けるしかない。
私は逃げ回りながら強化スキルを重ねがけし、タイミングを見計らう。
そして、老人が剣を私に振るったタイミングで──こちらも攻撃を開始した。
続く




