第十話
私は老人の攻撃の硬直を狙って駆ける。
そして初めて老人の体に剣を数回振るった。
HPゲージが次々と減って行き、直ぐに体力が半分くらいまで削れた。
思いの外耐久が無いことに驚いた。
勇者と言うくらいだからてっきり強いのかと思ったが、流石にバランスを考えたのだろうか?
いずれにしても好都合。
あちらが高火力高耐久なんて可能性も考慮していたが、これならもう一度殴るくらいで勝てそうだ。
「いつもの癖でヒットアンドアウェイしちゃったなぁ。気にせず殴ってたら終わってたじゃーん」
思わず頬を膨らませる。
老人が距離を取ってセリフを喋り始めた。
「中々やるようだ……ならば、最大の試練を与えよう」
「──え、もう?」
私は素で突っ込んでしまう。
もしかしてもう少し手こずる想定だったのだろうか。
体力半分で行動変化はあるあるな展開だけど、思いの外早かった気がする。
まぁそれはそれでスムーズだし、分かりやすい行動になってくれた場合助かる。
老人が両手に剣を握りしめ、スキルを唱える。
「"ブレイズソウル"」
静かに、そして力強く唱える。
すると老人の体から炎が燃え盛り始める。
ゲームの仕様上、熱などは感じないはずなのに、熱い力を感じる。
いわゆる"第二形態"というやつだ。
体のゾクゾクが収まらない。
ここからが本番な訳だ。
「……そう来なくっちゃ」
私は意気揚々と相手に近づいた。
するとまた老人は剣を天に掲げる。
また範囲攻撃の構えだと分かり、私は一旦距離を置く。
老人が"エクスプロージョン"を唱え、範囲内に大爆発が起こる。
その後、老人の体にうっすらとエフェクトが表示される。
あれは弱体化エフェクトだ。
恐らく"ブレイズソウル"というスキルの反動だ。
何がかは分からないけど、弱体化があるってことは、相当強力なスキルなのだろう。
状況を軽く整理しよう。
相手の攻撃力はとても高いが耐久は控えめ、機動力はスキルで補ってくる。
遠距離、近距離、周囲範囲攻撃を持っている。
反動有りの強力なスキルバフが掛かっている。
「……次の一撃で……仕留めよう」
どの道持久戦は得策では無い。
私も相手と同じで、耐久力は平均より高いくらいの数値。
相手を次の一手で確実に倒す他無い。
私は深く呼吸する。
老人は剣を両手で握りしめ、何かを溜める動作を見せる。
すると剣が眩い光を放ち始める。
先程までの動きとは違う……"大技"が来る。
「──今だ!」
私は自身の敏捷力の全てを振り絞り、老人の懐に潜り込む。
そしてスキルを唱えながら剣を振るう。
「"パワーブレイド"ッッ!」
渾身の一撃を老人に放つ。
斬撃を正面から受けても、相手は微動だにしない。
だけど、この一撃でこの老人は倒せる──。
「え──」
倒せると思い、老人の体力ゲージを見た。
老人のゲージが、本当に1ミリだけ残っている。
倒しきれなかったという驚きや困惑の前に、絶望感で脳が支配されていた。
老人が先程から構えていた"大技"を唱え、輝く剣を振り下ろす。
「"ブレイズカリバー"」
「ッッ……!」
振り下ろされた剣から、極太のレーザーみたいなのが射出された。
ギリギリで直撃は回避したが、左手にもろにレーザーを受けてしまった。
熱いお湯をぶちまけられたような熱の感覚に耐えながら、私は剣を老人に再び振り下ろす。
今度は体力ゲージが全て削り切れた。
すると老人が一歩後ろに後退し、剣を鞘に納めた。
どうやら終わりみたいだ。
私は疲労感のあまり、その場に膝をつく。
老人はそれに構わず話し続ける。
「見事だった。私も、全盛期程では無いが全力で挑んだつもりだ。それを凌いだ君になら、この剣を託せる」
老人が鞘に納めた剣を、私に差し出す。
私は重たい足でゆっくり立ち上がり、老人から剣を受け取る。
持ち手がまるで陽の光のような暖かみをもっている。
「この剣に、新たな世界を見せてあげてくれ」
「……はい」
あまりに人間味のあるNPCの発言に、私は思わず返答してしまう。
我ながらゲームを見る目があったようだ。
老人がそのまま去っていく中、クエスト終了の文章が表示される。
同時にレベルアップやスキルに武器の取得の通知等が多数現れる。
これは明日見るとしよう。
私は洞窟の帰り道を歩いている中、1人呟く。
「……楽しかったなぁ」
続く




