第七話
私は日和ちゃんをさっきの森へと連れて行き、霧のダンジョンの入口へとやって来た。
つい数分前にやって来た場所なのに、何故か久しぶりにも思える。
「よっし。ついに来たか。あ、"霧祓い"お願いできる?」
「あ、うん! "霧祓い"!」
私がスキルを唱えると、洞窟の霧が瞬く間に晴れる。
私のステータスアップの通知と同時に、日和ちゃんが剣を構えた。
「よっし! レベル低めな分、ここで稼ぐぞっ! カオリにもなんかあったら頼っても平気?」
「勿論! ボス以外なら倒せるから!」
私達はその後、洞窟の中のモンスターを倒し続けた。
ほとんどのモンスターはゴブリンだけど、レベル差も多少あった為、基本的には私が倒した。
一回でも攻撃すれば経験値は振り分けられるらしい。
数匹倒すだけで、日和ちゃんは一気に8レベルまで上がった。
私もいつの間にか10レベルに変わっていた。
私は基本的に魔力と知力(余ってたら敏捷)にしかポイントを振っていない。
それに対して日和ちゃんは、ちゃんとポイントを貰う度に難しい顔をして、ブツブツ何かを呟いている。
ゲームに真剣に向き合っている様にも見える。
「さて。この後はどうする? このままレベリングするも良しだし、他のことしてもいいけど」
「うーん。今日は一旦こんなところにしておこうかなぁ」
「そうだね。また明日やろっか」
私はそう言ってログアウトボタンを押そうとする。
するとそれを日和ちゃんが呼び止める。
「カオリ。楽しんでる?」
不安な様な、喜んでいる様な絶妙な表情で日和ちゃんは尋ねる。
その問いに私は迷い無く答える。
「うん! 凄く楽しいよ!」
それを聞いた日和ちゃんはホッとした表情になる。
「……良かった。じゃあまた明日ね」
「うん!」
私は日和ちゃんにさよならを言うと、ログアウトボタンを押して仮想世界から抜け出す。
機材を頭から取り外し床に置く。
「ふぅ」と息をつきながら天井を見上げる。
まだ胸の中にある満足感がおさまらない。
「……まだ二日なのになぁ」
思わず自分で笑ってしまう。
まだこのゲームを始めて二日しか経っていないのに、ここまで満足感があるとは思わなかった。
友人とやっているのもあるけど、やっぱりやりがいがあるのが良い。
明日は休日だし、思う存分これが出来る。
楽しみな気持ちを胸に、私は晩ご飯を食べに行った。
翌日の昼。
私とヒヨリンはルミフロにログインして、始まりの街をブラブラしていた。
初ログインした時はすぐに狩りに出てしまったから、街の風景とか施設等を全く見ていなかった。
「カオリが行き忘れたポーションショップとかもあるかもねー?」
「うぐっ……」
心にグサリと図星という名の針が刺さる。
浮かれ過ぎて、魔力や体力を回復する為のポーションを手に入れることを失念していた。
日和ちゃんは昔からこういう相手の恥ずかしい体験をいじってくる様な、弱みを握られた瞬間付け入ってくる性格だ。
悪く言えば拷問官の様で、良く言うならば小悪魔みたいで可愛らしい。
「次は買ってからボス行くもん……」
「そうだね。ていうか今日色々店見て回ろうよ」
「うん!」
私達は始まりの街を歩き回った。
ポーションショップは案の定存在し、持ち金の半分分のポーションを購入する。
その後無計画に街を歩いていると、私は見慣れた人を見つけた。
私はその人に駆け寄って声をかける。
「スニークさーん!」
スニークさんはこちらに気付くと、ニコニコした顔で手を振ってくれた。
隣には彼と同年代くらいの、女性が立っていた。
結構綺麗な顔立ちの人だ。
「お、カオリちゃん。久しぶりだね」
「はい! あの時はお世話になりました! で……この綺麗なお姉さんは……?」
私が女性を見ながら尋ねると、女性は「あらあら」と、少し照れくさそうに笑う。
「綺麗なお姉さんなんて、嬉しいね。私の名前は"シャイン"まぁ、リアルの話だとスニークと幼なじみってところ」
「そ、そうなんですか!? はじめまして! 私はカオリって言います!」
「あぁ。前スニークが会ったって言ってた子ね。よろしくね」
「はい! あ、そうだ。ヒヨリンにも説明しないと」
私は日和ちゃんにスニークさんのことを教えた。
日和ちゃんは「ふーん」と淡白に反応する。
「そういうことか。しかしボマー……というかトラッパーとは珍しいですね。結構複雑なイメージがあって不人気なイメージでしたけど」
「ふふん……これでも理系の学生なのでね。複雑なものが大好きなんだよ」
スニークさんの得意気な態度に、日和ちゃんは頷く。
「それでシャインさんは役職は何ですか!?」
私は思わずシャインさんに尋ねる。
彼女はニッコニコな表情で答える。
「私ね。こう見えても"戦士"なのよ」
「せ、戦士?」
私が詳細を尋ねると、シャインさんが「うーん」と唸る。
「凄くざっくり言っちゃうとねぇ。ほとんど全ての役職の武器が使える役職よ。一部例外は居るけど」
「あとは、武器のステータスが変更される……でしたよね?」
日和ちゃんが割り込むと、シャインさんはピクリと反応する。
「……貴方、剣士なのに結構詳しいのね?」
「え? まぁ、役職の特色は知っておいて損は無いと思うので」
「……へぇ。ねぇ貴方名前とレベルは?」
「ヒヨリンです。レベルは8です」
それを聞いたシャインさんは目を丸くしながらも、楽しそうに微笑んだ。
「ヒヨリンちゃん。貴方のレベルが10以上になったら、私と"決闘"しない?」
シャインさんの突然の提案に、日和ちゃんとスニークさんが驚く。
私は何が何だかよくわからなかった。
日和ちゃんはシャインさんをしばらく見つめると……何故かニヤリと笑った。
「……随分と急ですね。構いませんけど」
「決まりね。じゃあ、フレンド登録しましょ。あ、カオリちゃんも良かったらどう?」
「あ、はい! 是非!」
私と日和ちゃんは二人とフレンド登録をした。
シャインさんはくるりと私達に背を向ける。
「またねーお二人さん! またいつか会おうねー」
楽しそうに言うと、シャインさんは走り去って行った。
その場に残ったスニークさんが、頭をポリポリと掻いた。
「相変わらずシャインは戦うのが大好きなんだなぁ。あ、二人とも、シャインは良い子なんだよあれでも」
「それは特に気にしてません。寧ろ私も戦ってみたいので」
日和ちゃんが笑顔で頷く。
スニークさんは安心したように息をつく。
「じゃあ、僕もこの辺で」
そう言うとスニークさんはシャインさんを追いかけた。
続く




