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第五話



「るーん♪るーん♪」


私は上昇した敏捷によって軽くなった足で、洞窟内をスキップしていた。

ゲームならではの感覚に気持ちが高ぶってしまう。


「わーたーしーはー♪風のー♪しーはーいしゃー♪」


薄暗く冷たい空気の洞窟をとても上機嫌な気持ちで歌いながら移動する。

こういう没入感のあるゲームは、ついハイテンションになってしまう。

日常生活では味わえないワクワク感に、私の子供心が蘇る。

──と。


「ん?」


何かの気配と鳴き声を感じ取り、私は歩みを止める。

そこに現れたのは、小さな黒いゴブリンの群れだ。

体とほとんど同じサイズの木の棒を持って、私を威嚇している。


「わぁ! モンスターって感じだ!」


私は意気揚々と杖を装備し、ゴブリンの群れに向ける。

深く息を吸い込んで、スキルを唱えた。


「"ウィンド"!」


小さくも力強い風が、ゴブリンの群れを切り裂く。

ほとんどのゴブリンをポリゴン片へと帰し、イノシシよりも多い経験値を得た。


「レベルも上がったー! ん? ステータスポイントが10も多い……? あ!」


私は日和ちゃんに教わった知識を思い出す。

モンスターは50%の確率でステータスポイントを5くれる。

それを今の中で二回引いたと言うことになる。

50%とは言えど、そんなに頻繁に出てきた感覚は無い。


「とは言えラッキー! じゃあ、魔力と知力に10ずつ振ってー」


私は貰ったステータスポイントを振り分ける。

今の私はレベルは6で、知力と魔力が110ずつとなっている。

これでもっと戦えるようになったと思うと、ワクワクが止まらない。


「よーし! もっと最奥を目指して、なんなら単独攻略を目指しちゃおー!」


キャッキャと完全に舞い上がっている私は、更に洞窟の奥へと進んでいく。


同時刻。

洞窟の入口にて。

一人の青年が、霧の晴れた洞窟を眺めて目を丸くする。

そして暫くその場で何かを考え、洞窟の中へと進んで行った。


「……どんなやつなんだ?」


微かに興奮した笑みを浮かべていた。


更に同時刻。

日和がゲームにログインし、フレンド項目を確認する。

既にカオリはログインしていた。

思いの外彼女はこのゲームにハマってくれたらしい。

どころか……。


「ええっ!? もうレベル差がこんなに!?」


日和自身がレベルがまだ2なのに対して、カオリは既にレベル6。

かなりの差がついてしまった。

日和がサボっていた訳では無い、カオリがハマっている証拠だ。

それを知って、日和は嬉しくなった。


「……えへへ。メッセージでも送っておこーっと」


日和は上機嫌にカオリにDMを送った。


その頃──。

私は数々のゴブリンを倒しながら、洞窟の最奥へと辿り着いた。


「うーん……ゴブリン多かったなぁ……」


道中にはゴブリンの群れが数多くおり、数えるのが面倒になる程だ。


「いやぁ……大変だったけど……ここがいよいよ最奥かな!」


目の前には更に大きな空洞が広がっている。

中は真っ暗でほとんど見えないが、ここに来るまでの道中では、宝物などが無かったから、ここが最終攻略地点だろう。


「よーし! 行くぞぉ!」


私が大きな空洞に足を踏み入れると、後ろから寒気が走る。

何事かと思い振り返ると、そこには濃い霧が立ち込めていた。


「あれ? さっき祓わなかったっけ? "霧祓い"」


再びスキルを放つが、特に霧は晴れず代わりに何か文章が表示される。


『この場ではそのスキルは適応されません』


「……ふーん? 何でなんだろ──」


私が言いかけた時、周囲が急に明るくなった。

慌てて見回すと、円形のこの空間の壁に松明が隙間無くかけられている。

そしてその中央には、大きな異形──この洞窟の"ボス"がいた。

私よりも倍以上の大きさで、片手には巨大な肉切り包丁を持っている。

豚のような見た目をしていて、その視線は非常に鋭く、思わず身震いした。

普段の世界にはまず存在しない巨大な生き物。

ゲームでありながら恐怖を覚える。


「……でもっ! 簡単には引き下がらないよ!」


私は己を奮い立たせ、杖をボスに向ける。

深く息を吸い込み、洞窟に響かせる勢いで声を上げてスキルを唱えた。


「喰らえっ! "ウィンド"!」


──しん。

と、高らかに唱えたが、何も起こらなかった。

私は頭がフリーズしてしまう。


「あれっ? ど、どうして?」


私が狼狽していると、モンスターが大きな拳を振り下ろす。

丸太の様な太く巨大な腕が、私の眼前まで迫る。

咄嗟に杖を盾にして攻撃を受ける。

杖越しに強大なエネルギーを感じ、全身に痛みが伝う。

勢いを殺し切れず、私は壁際へと吹き飛ばされてしまう。

背中を強打し背中から電気を流された様な感覚。

ゲームなのに妙にリアルだ。


「……痛っ……たい」


私は立ち上がろうとしたが、体が動かずに警告文の様なものが現れる。

"麻痺スタン"と表示されている。

これ程シンプルな言葉で絶望を感じたことは無いかもしれない。

──私は仮想空間に降り立って、初めての"ゲームオーバー"を覚悟した。

体力はとうに赤ゲージへと突入しており、体には麻痺スタンが付与されている。

そして目の前には、大きな肉切り包丁を持ったモンスターが私を睨んでいる。

振り下ろされたら、死は免れない。

頼みの綱のヒヨリンはいない。

自分だけではどうにもならない。

詰んじゃったかな──。

私が諦めた時。


「『挑発』」


誰かがスキルを唱えた。

するとモンスターの背後が一瞬力強く光る。

モンスターがそっちへと振り向いた瞬間、私の目の前に人が着地した。

片手には剣を持っており、それ以外の装備は初期装備の男の子だ。

見た目だけなら私と同い年くらいだ。

彼はモンスターを見つめたまま私に回復ポーションを投げる。


「それ飲んどけ」


男の子はそれだけ言うと、モンスターに向けて剣を向ける。

私は黙ってその背中を見つめる。


「行動パターンとか分かるか?」


「え?……あ、いや分からないです。さっき始めたばかりなので……」


「分かった。とりあえずあんたは下がっとけ」


そう言うと彼はモンスターへと視線を戻し、剣を構える。

モンスターは彼に咆哮を上げ、肉切り包丁を振り上げる。

それを男の子は遅い動きでギリギリかわし、剣をモンスターの腕に振るう。

腕の部分に小さな切り傷ができて、モンスターのHPが一割程減る。

彼はそれを見て「ふむ」と呟く。


「防御が低い……いや、元の体力が低いんだな。じゃ、これが手っ取り早いか」


男の子が剣を構え直し、息を短く吸い──。


「──"ブラッドスラッシュ"」


そう唱えながら、モンスターを切りつける。

するとモンスターのHPがギュインと一気に減り──消失した。

あれだけ大型だったボスモンスターの体が、一瞬にしてポリゴン片となり霧散した。

それと同時に男の子のHPも半分くらい一気に減った。

私が言葉を失い、レベルアップの通知を聞き流していると、男の子が近づいてくる。


「大丈夫かあんた」


「え……あ、はい! 大丈夫です!」


私は男の子に返答し麻痺スタンが治った体で立ち上がる。

すぐさま彼に頭を下げる。


「あ、あの! ありがとうございました! 危ない所を!」


「別に平気だよ。ていうか……俺が言えた事じゃないが、よく初期装備でここに来たな」


「へ? はい。レベル上げも兼ねて、対策スキルも持って。ここに来てみたんです。あ、そいやこれ頂きます」


私は男の子に貰った回復ポーションを飲んだ。

すると男の子はこう言った。


「ていうかあんた。自前のポーションとか持ってなかったのか? あそこまで大掛かりなボスのエリアなら、持っといた方が良いぞ」


「うっ……つ、ついはしゃぎすぎて……」


ぐぅのねも出ない。

今回の私は普通に浮かれていた気がする。

普段とは違うゲームをプレイしていて少し興奮しすぎていたのかもしれない。

それを聞いた彼は笑った。


「……まぁ。ゲームなんてそんなもんだと思うぞ。さて、戦利品でも見るか」


「へ? 戦利品?」


「おう。ボス撃破による戦利品だよ。ほれそこ」


男の子が指差した方向を見ると、そこにはどデカい宝箱があった。

彼が宝箱を開けると、そこには二つの武器があった。

片方は片手剣で、もう片方は杖だ。

どちらも派手なデザインや装飾が施されている。


「なるほどな。ここはボスを攻略した人のジョブに寄って報酬が変わるシステムらしいな。しかも人数分と、豪勢なもんだ」


「へぇー……え、てことはもしかして」


「そ。この杖はあんたのだ、良かったな良いの手に入って」


「え、い、いや! 貰えないですよ! 私何もしてないのに!」


「いや。別に何もしてない訳ではねぇよ。実際道中の霧を晴らしてくれたのはあんただしな。助かったよ」


「そ……そうですか……良かったです」


私は少し照れくさくなってしまう。

男の子が「さて」と呟き杖を私に手渡す。

ぺこりと頭を下げながら受け取る。

『知恵の杖』

ステータスとしては知力+15と魔力+10と記されている。

内包スキルなどはどうやら無いみたいだ。

初期装備の上位互換と言った感じの様だ。


「あの……ありがとうございます」


「おう。こちらこそ」


「あ、ていうかさっきの、ボスワンパンしたの何ですか!?」


「え? あぁ、あれね。あれは俺の持ってるスキルだよ。最も、自分より格上にはそんなに効果無いけどな」


「え、格上って……あのボスは?」


「総合的なスペックならそりゃ格上だ。でも、極端な感じのステータスだったから何とかなったのもあるな」


私にはあんまり理解出来なかった。

この人は多分、私なんかよりずっと凄くて、下手したら日和ちゃんよりも……。

私の心臓は高鳴り、ゴクリと喉を鳴らした。

目の前の男の子を見つめて──。


続く

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