南の国の夢の夜・Ⅲ
南ヲ国王族特有の、艶のある褐色の肌の彼 彼女らは、皆 現王の子。母親が違うので髪や目の色は様々で、殿下と歳が近い者が多い。
この国は王妃が複数いて、側妃も合わせると十人近い女性が、あちらの席で一人の王に侍っている。
王太子や、二番目三番目の王子も、そちら側。
『その他』の王子王女はここに居るだけで十一人。結婚して別の輪に居る者や、パーティーに出られない幼年の者を併せると、学園の一クラス分にもなるという。
とにかく皆よく喋る。継承から遠いのもあるだろうが、ワチャワチャと睦まじい。
「ローザリンド殿下の普通って、どんな普通だよ」
茶化して来たのは第四王子。
「そりゃ、えっと、お、お忍びで城下町に下って串焼きを食べさせあったり……」
んん? 殿下、心なし声が高い、照れていらっしゃるの? 珍しい。
「うっひょお」
王子たちは面白がって合いの手をいれる。
「お洒落なカフェでタルトを半分こしたり……」
「ハッハ!」
「ローザリンド殿下の普通って、随分乙女だな」
「タルト半分で愛が育めるのか?」
「あら、お菓子を半分こしてくれる男性なんてそうそういないわよ」
「ね~~」
殿下、自分も初耳ですよ、そんな可愛らしい願望あったんですか。
それにしても殿下、いつになく喋り過ぎだよなあ? いつもは何があっても冷静で、お手本みたいに無難な返ししかされないんだけれど…… そう思いながら輪の中心を見ていて・・
第四王子が身体をこちらに向けた。
(あっ!)
既視感。
他の逞しい王子たちに比べて、彼だけ身体の厚みが薄く、襟足から肩甲骨にかけてのシルエットが王女に紛れるほど華奢でしなやかだ。おそらく母親の人種が違うのだろう。
(似てる……?)
あの細い首と繊細なウェーブの髪、小さく尖った唇、ちょっと生意気な口の聞き方……
(ああ、そうか)
人見知りの殿下が珍しく、初対面の彼に饒舌になっていた理由。
――ルカに似ているんだ。
勿論 色も顔立ちも違って、血縁を疑うような似方では無い。
何より会話の語彙がまったく違う。ルカは、殿下に対して下品な冗談なんか絶対に言わない。似ているというより、パッと見の雰囲気でほんのり思い出す程度。
それでも殿下には十分だ。
おそらく、ご自分で気付いていない内に、意識している……と、ロッチは思った。
それほどルカという学友を、殿下は身の内の深い淵に住まわせていらっしゃる。
ルカはロッチの親友。一年生の初対面で意気投合し、学生時代の四年間ずっと一緒に過ごした。
外見は線が細くて女の子みたいなのに、びっくりするほど芯が強くて負けず嫌いで頑固。弱音を吐いたのなんか数えるほど。
殿下とはいつも首席を分け合って、途中から役人を目指したロッチに、熱心に勉強を教えてくれた。
いつも殿下とルカが隣にいた、ロッチにとっては光の中の日々だった。
学年途中、ルカの実家の侯爵家は、罪を犯して解体された。そんなゴタゴタに巻き込まれ、保護者も身分も失くしたのに、歯を喰いしぱって特待生を獲得し、トップ卒業して宮廷文官に採用された。
そして、配属の直後から……殿下に対して、ルカは思いっきり距離を置いた。
当たり前といえば当たり前。
実家を失くした彼はただの平民。学生でなくなれば、王族に直接話し掛けるなんて有り得ないのだ。
身分無しで文官に採用されたのだって、奇跡と言われた。
ロッチは、ルカが飛び抜けて優秀だったからだと思っている。事実、彼の語学力は、たまに政務の中心に必要とされて呼ばれる。
だけれど『犯罪者の親族が宮廷文官に採用されるなんておかしい』の揶揄は、当然のように沸いて出る。
そこに『王太子と親しかった』という事実を絡めると、まことしやかな噂話はとても作りやすくて、貴族連中には大好物だった。
『これから売り出す「清廉純白の王太子」の滲みになる事を避けたいのだろうね、ルカは』
アーサーは静かに推測した。
ロッチも悔しかったけれど、ルカの気持ちを汲んで、遠ざかって行く彼を無理に追い掛けたりしなかった。
通訳などで、殿下のいらっしゃる場所で仕事をする時もあるが、間に必ずアーサーか他の役人を挟む。
彼らしい見事なけじめの付け方だった。
学生時代の生徒会メンバー、ロッチやアーサー、ジークも理解して、彼に沿った。
取り残されたのは殿下だった。
普通に会話も出来なくなるなんて、殿下は思っていらっしゃらなかったんだ……
「それでローザリンドはさ、」
第四王子の声。いつの間にか敬称が略されて。
ルカの声とはまったく違うのだが、語尾が軽く裏返るニュアンスは似ている。
殿下は、睫毛の下の瞳を輝かせて、感情のこもった表情で彼を見上げておられる。
(ああ)
ロッチは確信した。
自分でさえ感じるのだ、殿下は確実に影響されていらっしゃる。
(だからいつもの殿下らしくない、物凄く隙を見せてしまっている)
チリチリと不安を覚えた。
ただの雑談ならいいのだが、第四王子の絡み方は、ただの雑談で済まさない匂いがする。




