南の国の夢の夜・Ⅱ
「ローザリンド殿下はどうして婚約しないんだい? もしかして女性に興味が無いの?」
いきなり何聞いてんだよこいつは! と思ったら、この国の第四王子だった。
悪い顔はしていない、屈託のない笑顔。南ヲ国では挨拶程度のジョークなのか?
(アーサー様は、殿下の異文化トーク訓練も兼ねての外遊だと仰っていたけれど……)
先程の出来事もあるし、殿下、無駄に傷付いていらっしゃらないかと、ハラハラしながら見守るロッチ。
「わたしは子供の頃は病気がちで、将来が固まっていなかった為、婚約の機会を失してしまいました」
普通に受け答えされる殿下に、ホッとした。しかし、
「じゃあ今は?」
「王太子になったという事は健康面の不安はなくなったんだよね?」
突っ込む王子たち。
「はい、今はもう丈夫になり、お付き合いしていた女性もおりました。しかし彼女は真実の愛に目覚め、いなくなってしまいました」
(殿下、それは端折り過ぎっ!)
確かに殿下は学生時代、生徒会の上級生イサドラ様と、一時期交際されていた。
しかしあれは牽制し合っていた周囲の令嬢たちに見切りを付けさせる為の、お互いが了解したフェイクだった。(フェイクでも我慢できなくなったジークが、イサドラの所へ指輪を持って特攻しに行ったオマケ付き)
それをここで説明するのは確かにややこしい、だからと言って間を飛ばし過ぎだ。
「サラっと凄い体験を暴露したな」
と食い付いて来たのは第五王子。
「公開婚約破棄でもやらかされちまったか?」
ズケズケ聞くのは第六王子。
「まだお試し付き合いの段階で婚約はしていませんでしたので、大事にはなりませんでした。
真実の愛のお相手は、彼女の前にいきなり飛び出して雪の上にひざまずき、指輪を差し出すような勇敢な人物で、彼女はとても幸せそうでした。
わたしもいつかお相手にあのような表情をさせてみたい物だと、深く感銘した次第です」
殿下ぁ、そんな事まで語らなくていいんですって。ほら、王子様方は呆れてドン引きしてるけど、王女様方の目が輝き出したじゃありませんか、知りませんよ。
「そこ、もう少し詳しく!」
ほらぁ、第四王女様が食い付いて来た。
「わたしは建物内の廊下の窓からたまたま見掛けただけなので、あまり詳しくは」
「あ、さすがに、隣に居らした時ではなかったのですね」
「でもなに? 付き合ってる彼女が他の男にかっさらわれるのを目撃したのに、指を咥えて見ていたのか?」
「俺だったら相手の男を殴りに行くぞ!」
「はあ、雪が降っていたので」
「へ?」
「雪って、あの白くて冷たい奴だよね?」
南ヲ国は常夏の国。
「はい。その雪が沢山降っていたので、外に出たら寒そうだなぁと」
「…………」
「…………」
「……………………」
王子にも王女にも黙られてしまった。
「それに滑るじゃないですか、降り始めの雪は」
殿下、違う次元でスベってるスベってる!
そういえばこの方はこんな調子で、在学中二年生から四年生までの三年間、あらゆる国の令嬢にフラれまくったんだった。最近きちんと王太子をやれていらっしゃるから忘れていたが。
「ローザリンド様は、学生時代からそういうお惚けがお得意で」
我が国に留学経験のある第三王女が、冷えた空気を引き戻してくれた。ありがとうございます。
「私聞きましたのよ。ひざまずいた男性の目の周りには、父親に殴られた青アザがあって、あわや勘当寸前だったとか。
殿下は臣下の幸せを第一に考え、すぐに彼の家へ取り成しに行かれたんですってね。女子生徒の間でたいそう噂になった物ですわ」
ナ、ナイスフォロー! ありがとうございます、ありがとうございますぅ。
「何それ、何それ」
「胸熱ですわ」
食い付く王女たち。かしましい事で何より。
殿下はちょっと動揺して俯かれる。
ダメですよ、そこで『ジークがいなくなる方が嫌だし』なんて、あの後 生徒会でこぼしてイサドラ様を無表情にさせた台詞を吐いたら。
「お姉様も、ローザリンド殿下のエスコートを受けた事があるのよね?」
上手く話題を変えてくれた第四王女。ありがとうございまっす。
「ええ。学園の四季祭の折りに。流れというか順番というか……女子留学生の間で、一度は殿下にエスコートして頂くのがステータスみたいになっていましたので」
(へえ?)
そこはロッチは知らなかった。殿下が学生時代、令嬢を取っ替え引っ替えしていたのは、気が多い訳じゃなかったのか。
「しかしイシュレヌ王女殿下には、続けての誘いを断られて残念でした」
上目使いの殿下。
「だって順番が詰まっていましたもの。女子留学生の間で話し合って、アミダくじで決めていたのです。ローザリンド殿下のエスコートは一人一回。破ったら女子の輪から閉め出されてしまいます。国際交流をしに行ったのに、それはまずいですから」
「…………」
(マジ?)
それって本人が知らなかったら、けっこうショックな奴じゃん? 殿下は……うわぁ、微笑みが凍りついてる、ご存じなかったんだ、どんまい、殿下どんまい!
「あー―あ」
「気の毒だな、ローザリンド殿下」
「王子の宿命だ」
第四~第七王子が口々に慰めてくれている。すみません、皆様。
「わ、わたしだって、女性と普通にお付き合いをして普通に恋愛をしてみたいですよ。国内ではもう、年齢の会う未婚約令嬢がいないのです」
殿下、それじゃ他国へ嫁漁りに出ているみたいですよ。いや実際そうなんだけれど……口に出しちゃダメです。
「いないって事はないだろう? 人口の半分は女性だぜ」
口を挟んだのは第……幾つだっけか? 八番目か九番目くらいの王子。
「どこの令嬢でもいい訳ではないでしょ? 王国だと、せめて老舗の伯爵家以上の身分が必要、でしたっけ?」
第三王女が解説してくれる。
「うわ、王族めんどい」
「うちも王族だろ」
「キャハハハ」
「じゃ、うちの大勢いる中からどれか持ってっていいぞ」
「失礼しちゃうわね」
いつの間にか殿下の周りは全員王族……王子王女に囲まれている。他の者は遠慮して離れたのだろう。ロッチは更に気を付けながら、目立たぬ範囲で輪に近寄った。




