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世界を×××、小悪党ども  作者: つちのえーたつ
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赤い鉄の国(4)

 戦場真っ最中とはいえ、瞬時に目的地に移動出来るとは便利だ。

 幸いキャットウォークだから戦況は見えやすい。狭い通路で身を隠すものが何もなく飛び道具の格好の的であるが。戦で1番の死亡率は飛び道具と知らないのか。

 背中に羽という身体の構造上、チョウ族は鎧を着込めない。それでも兵士や革命軍は背中があいた胸甲を着込み、兜を被っている者もいる。それに対し、私達は普段着。有り体に言えば布の服である。斬撃も銃撃も危ない。内臓を避けて攻撃を避ける器用な真似は出来ない。

「スルト様、身を隠さないと被弾してしまいます」

「大丈夫だ、問題ない」

 仏頂面で言っているから大丈夫だろう。キメ顔で言っていたら危なかった。

 部屋にはざっと20人。敵の本拠地に乗り込んでいるのだから、これで全部なわけがない。彼らを〆たら他の革命軍も探そう。

「スルトだ! 片羽のスルトがいるぞ!」

「スルト様だ、逃げろおおおお!!」

 自軍の強い奴がきたら士気が上がるものなのに、おかしくないか。城の紋章をつけた兵士、なんとか応戦していた白頭巾達は慄き動きが乱れ始める。どれだけ畏怖の対象なんだ。

「エリス様だったらま、ギャッ」

 膝から崩れ落ちた白頭巾の1人が革命軍に斬られた。

 スルトが出てきて戦局は変わってしまった。わずかに優勢だった自軍はいまや恐慌状態で我先に逃げようとする。背中を見せても武器を捨てても戦場であることには変わらない。混乱に乗じて革命軍が押してきていた。

 その様子を私達は高みの見物だ。飛び道具を使う者はおらず、眼下の彼らは飛翔も出来ない。終着点のチョウ族達と随分違う。

「スルトォォ! 害虫の手先めええ!!」

 ヒゲのおっさんが、私に突っ込んでくる。人違いだ。あ、向かいのキャットウォークに登って後ろの通路を通ってきたからか。

「生け捕りですか、皆殺しですか」

「殺せ」

「はい」

 狭い通路で剣と鍔迫り合いをする気はない。手すりに乗って走る。ヒゲのおっさんとすれ違うついでに斧で頭を砕いた。後ろにいた男も勢いで吹っ飛ばす。

「父さん!」

 叫んだ7つか8つの幼い子供は炎に包まれる。スルトの手から青い光が出ていた。周囲に累を及ばさず、狙ったものだけを燃やせる。マユさんに触れたエリスを殴らなくてよかった。

「国の未来を憂う若者ですのに」

「革命軍につくような、先の見えないのは死ねばいい」

「なるほど」

 手すりから飛び降りる。下にいた青年の頭が潰れて中身が漏れた。服や鎧は緑で、てっぺんは赤。

「スルト様、お花みたいですよ」

「バカか君は」

 呆れられた。チョウだから花は好きだと思ったんだけどな。濡れた靴底を潰れた男の服で拭う。

 6人飛びかかってきた。ぐるんぐるん。軽く斧を振り回しただけなのに、6人とも吹っ飛ばせた。チョウだから軽いのだろう。

 一瞬といえど優勢だった革命軍は私の働きによりすっかり怖気付いてしまった。さっきより更に大人数で囲んでいるのに踏み出せないでいる。兵士はとっくに逃げた。とっとと片付けよう。

 一足跳びに真後ろへ。いい位置にいた男の羽を両方掴み、背に足をかけ思い切り引っ張る。絶叫とともに皮膚ごと取れた。乱暴に持ったため羽の根元はバラバラに崩れ、服に鱗粉がたっぷり付いた。羽を透かしてみる。なかなかキレイだ。お土産にしよう。でも。

「もう少し上手に取りたいですね」

「貴様はそれでも人間かあーっ!」

 一斉に襲いかかってきた。もしかしてこれは残酷なことになるのか。知らなかったと言っても信じてもらえまい。

 羽をもがれのたうちまわっている男をぶん投げ、右からやってきた男を足止め。私の斧の前には鎧なんて紙切れ同然、右斜めに飛び跳ねさくさく首をはねる。よい位置だと首がよく飛ぶ。ぐるり1周、羽なしを投げつけられまだもたついている男の首をはねた。これで終わり。

 全員狙い通りうつ伏せに倒れた。血は羽にかかっていない。ささっと剥ぎ取ろう。斧を霧散させ、ナイフをベルトから取り出す。ナイフの具現化も出来るが、慣れていないので少し疲れるのだ。

「魔法は使えないのか」

 いつの間にかスルトが降りてきていた。彼の腕の前ではカスみたいなものだが、武器の具現化も一応魔法の部類である。

「得意じゃないです」

「ナイフを」

「どうぞ」

 受け取ると同時に斬りかかってきた。試しているのではなく、本気だ。腕を掴んで止めたら燃やされそうなので避けよう。なまっちょろい見た目とは裏腹に的確かつ素早く急所を狙ってきている。接近戦も出来るようだ。

「どうしました」

 返事はなく、斬撃を続ける。同胞の羽をもがれ怒っているのだろうか。

「あの」

「……」

「あのあの」

「……」

 止めとばかりに顔面めがけナイフが投げられた。投げナイフじゃない。失くしたら嫌なので、避けずに受け止めた。

「ふぅん。いい勝負かもな」

「誰と?」

「君の知らない奴だ。後は任せた」

 ふん、と鼻を鳴らしすたすた部屋を出て行く。羽を船の皆のお土産したかったが、マユさんを人質に取られていた。目先のことに囚われてしまうのは悪い癖だ。より道している暇はない。

 革命軍はどのくらいの規模で襲撃に来たのだろう。部屋や戦利品を物色する前にスルトはいってしまうから、見つけては殺すという流れ作業になってだんだん飽きてくる。

 宣言通り、彼は全然戦わなかった。普通に歩いて隠れもしない。飛び道具もなく、彼だけが魔法を使えることによる自信の表れだろう。

 さらに、革命軍が雄叫びをあげて向かってきても腕を組んだまま。ちらと私を見るだけ。信頼されているわけではない。たまたま出会った兵士から聞くに、彼の基本戦法は黄金色の太い針を目に見えない早さで飛ばし、敵味方関係なく穴だらけにするらしい。兵士達が怯えるのも無理はなかった。古代の機械を具現しているそうだ。サボテンの針を飛ばしているのだろうか。ちょっと見てみたい。

 火薬を設置して自分もろとも研究所を埋めようとしたバカどもの首をはねる。

「火薬どうしますか」

「その上に死体を積め」

 火薬はまだ生きているから爆発させるのだろう。ゲリラでなく自陣でやるか。個人的にゲリラは好きじゃない。一騎打ちの短期決戦が好きだ。極東では流しの傭兵だったので一騎打ちは禁止で合戦で足軽ばかりやらされていたけど。戦のバランスが崩れると言われて制限をやたらとくらっていたものだ。避けずに全て斧で捌けって本当に無茶苦茶だった。おかげで極東最強なんて二つ名を与えられてしまったな。

「生きてるように見えるのを一番上にします」

「ああ」

 下にぎゅっと押し込めてバランスよく積む。

 ガヤガヤと革命軍とは違う声、団長の声が混じっている。鎮圧出来たらしい。死体が増えて大喜びしている。首をはねなかったらよかったかな。まあ、断面はきれいだから適当に組み合わせたらいい。会ったら雑用を言い付けられそうだ。そうなったらめんどくさいし、マユさんの安否も早く確認したい。

「スルト様」

「ああ」

 わかっていると頷く。行きと同じく、青い光に包まれた。

「おかぁーえり、スルト。少し遅かっ……筋肉? 生きてる?」

 エリスは目を丸くする。私もどうせ穴だらけにされると思っていたのだろう。スルトは小さくただいまと言い、ソファーに寝転んだ。

「はい、生きてます。マユさんは」

「サンさぁーん! 思ったより早くてよがっだあぁぁあああ!!」

 彼は顔以外を糸でぐるぐる巻かれ逆さ吊りにされていた。目元のアイシャドウはとれていない。半べそだが、涙は流していなかった。

「健康に良さそうな姿勢ですね」

「どこが!?」

 蓑虫のように身体をもぞもぞ動かす。ただ、糸は強力でちぎれる気配はない。

「んー……」

 じろじろじろ。納得のいかない胡散臭いものを値踏みしているようだ。エリスは首を傾げながらも、マユさんを縛る糸を解いてはいる。変に駄々をこねられなくてよかった。

 逆さ吊りするには問題ありと判断されたのか、ズボン姿になっていた。

「タキシードだと凛々しさが出ていますね」

「え、そ、そう?」

 どんなに見た目が美少女でも実際は男。ドレス姿を褒めた時より喜んでいる。

「あー、その服あげるわ。詳しい話はスルトに聞くからもう帰っていいわよ」

 しっしっと追い払うジェスチャーをされる。

「ありがとうございます。失礼しました」

「お洋服ありがとうございます。失礼しました」

 ぺこりと頭を下げる。

 不気味に思えた人形部屋も、無事に出られるとわかったら怖くない。ジオラマにぶつからないように気をつける。

 ドアを開けるとまだ焼死体が残っていた。叫びそうになったマユさんの口をしっかり押さえ、スルトの眠りを妨げず無事に部屋を出た。

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