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世界を×××、小悪党ども  作者: つちのえーたつ
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赤い鉄の国(5)

 応接間に戻ると、副団長であり船医でもあるリタ、団長の弟子であるカモメのフレイとジャッカルのファイナム、ギャンブラー兼僧侶のドゥルジがいた。

「お迎え……じゃないよね」

 あからさまに膨れているリタのせいで、部屋の空気はピリピリしている。刺激しないようマユさんは小さな声でドゥルジに話しかけた。

「おう。怪我人が多いって呼び出されたンだ」

「ドゥルジさんは何をするの?」

 ドゥルジからギャンブラーとしか聞いていないマユさんはもっともな質問をする。同時に、ドゥルジの皿からクッキーをパクつく。

「治療の手伝いだぜ。何で回復魔法が出来るかって? 昔とった杵柄ってやつよ」

 フフンと胸をはる。賭け狂いが実は医者みたいなこと出来るなんて、意外で好感度が上がりやすいかもしれない。

 だが蓋を開けたらなんてことはない、修行僧が賭博にハマって堕落一直線コース。よくある転落人生だ。カメレオンの為に弁明するなら、元々僧になる気はなく(それまで鏡を見たことなかったのか)女をひっかけて生きるつもりだったと言い訳していると記しておこう。

「へぇぇー、見た目からは想像できないや。ドゥルジさんすごいね」

「まーな。団長がお前らは先に帰っていいってよ。泊まりになるかもしれねーンだわ」

「わかりました。死傷者は敵味方問わず多いですからね。じゃ、お先」

「だからあの死体狂、上機嫌だったのか」

「したっ……!? さ、先に帰るね。ばいばい!」

 マユさんは団長が死体狂と気付いていなかったのか。死体大好きでもないと、死術士にならないだろう。

「……ああもう、お兄ちゃんとオペラ見たかったのに、お兄ちゃんとご飯食べたかったのに、お兄ちゃんと、お兄ちゃんとお兄ちゃんと……」

 ぶつぶつと気味が悪い言葉は止まらない。聞こえないふりをして、人形部屋の時より早足で応接間を出る。革命軍が進入したことは大きな問題になっていないのか、 城内はざわついた様子もなかった。

 門番に見送られ城から出ると、外の臭いがたまらない。空は変わらず灰色で、お昼時というのに太陽の姿は隠れたままだ。

「暗いですね」

「うん。でもあの部屋に比べたらましだよ」

「ええ。雰囲気も物理的にも、人格もあっちが圧倒的にヤバ……暗かったです」

「すごくヒヤヒヤしたねー……」

 ヒヤヒヤどころで済まなかったろうに。暗い気持ちを払拭するかのように、んーっと伸びをした。

「サンさん、早く帰ろ? お腹すいちゃった!」

 すごく笑顔だ。キラキラしている。

 さて、このまま帰ってよいものか。もう少し見て回るべきだろう。黄色い国で種族や異世界と終着点の説明をするつもりが、全然できなかった。赤い国も、都なら異世界のことは知れ渡っている。羽を持たない者がうろうろしても危険はない。

「外で食べませんか。もう少し異世界のことを見てから帰った方が、戻ったときに違いがわかりやすいと思います」

「そだね。あ、異世界が1類数族ってのはよーくわかったよ。ここ、昆虫、じゃない、コ類の人ばかりだから。船はさ、ホ類とかハ類とかいろいろだもん」

「それはよかったです」

「生物の多様性というか、進化にはびっくりだよ」

「シンカ?」

 また聞き慣れない言葉が出てきた。

「えっと……周りの環境に合わせて身体の構造が変わること、かな。何十何百年ってすーごく時間はかかるけど」

「ははあ。毒壺に手を突っ込みだんだん毒手に変えていくことを繰り返す一族が、遂に生まれつき毒耐性や毒手を持って生まれる的な感じでしょうか」

「大体合ってるけど、怖いよその例え!」

 合っててよかった。

「僕の超朧な記憶だとドゥルジさんみたいな二足歩行でしゃべるトカゲや、エリスさんのような半分クモって人いなかったもん」

「ふむ。亜型はいなかったようですね」

「アガタ?」

「説明してませんっけ」

 マユさんは首を縦に降る。では、と説明を始めた。

 分類には「類」だけでなく「型」という分け方がある。それは人型、亜型、原型の3つだ。

 人型はその通り、「ヒト」の見た目に近い。私やマユさんはヒトなので当然人型だ。他にはゼンとアク。あの子らは耳がネコだが、大体のパーツや顔付きがヒトの形だからだ。さっきのスルトもこれに当たる。

 次に亜型。ドゥルジやフィールカは言わずもがな。後ろからだとわかりにくいが、マロウトやドルダーハも亜型だ。顔付きが「ヒト」と違うからぱっと見でわかるだろう。またさっきのエリスのように、どう見ても身体パーツがヒトと違う所が多いなら亜型なる。

 最後に原型。アシャやソルン、ギルルだ。見た通りである。彼らと家畜種の違いは話すか話さないかのみだ。

「なるほど。ここの人達は人型?」

「ええ」

「腕4本なのに?」

「蝶は6本脚です。二足歩行なら腕4本になるでしょう」

「そういうのか……」

 そういうのだ。何にせよ、伝わったようで安心する。

 小洒落たカフェの前でマユさんは立ち止まった。黒板に本日のおすすめメニューとして、フルーツがたくさん乗ったパンケーキのイラストが描かれている。

 苺美味しそう、と彼は呟く。

「フルーツ好きなんですか」

「うん。ぼく、たぶん甘い物好きみたい。昨日もさ、冷蔵庫にあったイチジクのシロップ漬け、すごく美味しくって全部食べちゃったんだ」

 私がとってたの食べたのあんたか。美味しかったようで何よりと舌打ちする。

「ここにしますか」

「えっ? いいよいいよ。ぼくお金ないし、高そうだし」

「待ち時間少なそうですからここにしましょう。おごります」

 ちょこちょこ返り血を吸ったエプロン姿がドレスコードに引っかからないか心配したが杞憂だった。

 羽がないことですぐ異世界の者とわかる。加えてマユさんの美貌。客引きも兼ね、大通りに面したテラスに座ることが出来た。

 給仕がパンケーキを運んでくる。マユさんは苺やラズベリーが盛られ、さらに生クリームとベリーソースがたっぷりかかったパンケーキが2枚。お腹が空いている私はスクランブルエッグとスパムが大量に盛られた5段重ねのパンケーキだ。

「がっつり食べたかったんだね……。なんか、軽いとこで止まってごめん」

「ホットケーキは腹持ち良くて好きですので、気にしないでください。うん、スパム美味しい」

 空きっ腹だけど、掻き込まずしっかり噛む。肉汁と塩辛さがじんわり溢れてきた。スパム最高。白米があれば尚良し。

 マユさんもベリーソースを零さないよう気をつけて食べている。時々、チラッと私を見る。食べたいのだろうか。彼の口に入るくらいの大きさに切り、口元に運ぶ。

「食べますか」

「は? えっ!? こ、こんな人前で何をっ……」

「さっきから見てたし、気になるのかなと」

 人のを見ていたからといって食い気があると思ったりはしない。旨そうな物を食べたくなるのは自然の摂理だ。

 彼は恥ずかしさを隠すように睨む。

「違うよ! その、サンさんのウサ耳って付け耳でしょ? なのに、よく動くなって感心してたんだ」

「そうなんですか。……ああ、違うんですね。いらないなら」

「た、食べるってば!」

 あーん、と口を開ける。頰が少し赤い。

「どうぞ」

 なんだかデートみたいだ。27年生きてて、したことないけどな。

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