第一話 一つの心情
この国の安全保障問題は周辺諸国の変動に合わせて移り変わってきた、近年では増大する周辺諸国の海軍力、空軍力に対して戦力バランスをとるために、日本国でも軍備増強が静かに行われていた。
それが平成10年より相次いで新設された、小中高大一貫の幹部大学校である。
静岡県御殿場市の陸上自衛隊幹部大学校
神奈川県横須賀市の海上自衛隊幹部大学校
北海道千歳市の航空自衛隊幹部大学校
上記3つが新設された幹部大学校である。だが初等部からの在籍学生は少なく一時は廃止論もあったが、近年の情勢を踏まえ優秀な人材を育成するために、平成26年の現在もその形態は保たれている。
平成28年3月1日
神奈川県横須賀市
海上自衛隊幹部大学校
「学生生活も今日で終わりか」
学舎に植えられた桜が本年度の卒業生を見送るためか、例年より早く開花を迎えた。
その桜を見ながら、学生生活の別れにと、ともに青春を送った学舎を見回っている学生達がいた。
先頭を行くのはこのメンバーのリーダー格である、一条尊征。本日卒業する海上自衛隊幹部大学校の2期生である。
「思えばいろいろあったな。尊征がロンドンオリンピックで金メダルを取ったときは学校を上げて祝いどんちゃん騒ぎ」
尊征のすぐ後ろ、メンバーの参謀格のような立ち位置の彼は、国領翔馬。尊征と同期である。口が達者で、反論してきた相手に自論を振りかざし反論し返す、口喧嘩では負けなしである。
「あの時は大変だったとの思い出しかないですね、いくら祝いの席だといってももう少し弁えというものを持ってほしいものです。大体あなたたちは・・・」
翔馬の左側を歩く彼女は、北条陽菜。少々というかかなりの説教魔であるため、取扱には注意が必要であるといわれている。
「翔馬がいらんこと言うから、面倒なことになってしまったな」
陽菜の説教を大げさなリアクションで見事かわすのは、仙石颯太。今までの人生を流れるように生きてきた人物である。
「政治家よりましだぞ、この間も民主党の問題発言で2千万損しちまった」
スマートフォン片手に歩く彼は、小川祐平。高等部からの途中編入組であるが、尊征と趣味が合うため、一緒にいることが多い。
「また、えらい、損をしたな」
祐平の肩をたたきながらいう彼は、田中清正。祐平と同じ中学校から編入してきたらしく、大変仲がいい。
「そういえば、隼弥と裕太はどこに行ったんだ」
尊征は立ち止まり、いつものメンバーが二人いないことに気付く
「隼弥はいつものことで・・・」
翔馬の声を遮るように騒がしい怒鳴り声と重いものを落とすような音が教室のほうから聞こえてきた
「あっちですね、まったくあの人たちは、また何を壊したのか」
陽菜は走らない程度の歩き方で、教室の扉の前に立ち、勢いよくあける。
「あなた達は何をやっているのですかっ!!」
教室の中には脚立に乗ってインパクトドライバー片手にエアコンをいじっている一人の青年とそれを支える二人の青年がいた。
インパクトドライバーを持っているのは、村上隼弥。中等部からの編入組で2期生で一番の変わり者である。
脚立を支えているのは、尾崎裕太、中等部からの編入組で隼弥とは仲がいい。
もう一人は、山田興平、祐平らと同じく高等部からの編入生、非常に乗りがいいのが特徴。
「なにって、見ての通りエアコンの解体掃除だが」
さらりと、言う隼弥は陽菜を軽く受け流し、エアコンの掃除を進める。
「アホだな」
「いつものことか」
「よくそんな面倒なことができるな」
「業者に任せればいいだろ、そんな専門的なことは」
「たしかに」
「まったく、あなた達は・・・」
以上9名が海上自衛隊幹部大学校第二期生でひときわ目立つメンバーである、各々が個性的であるが、共通の心情は変わらない、彼らは「日本国家のために日本国国民のために、日夜努力し続ける」を心情としていたのである。
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